もし、優しい父が他界した。父は生前、決して高収入では無いサラリーマンだったが、この家と土地を遺してくれた・・・と思いきや
いざフタを開けてみたら、サラ金からの借金が数千万円・・・。
残された家族にこんな悲劇はないとは限りません。借金もれっきとした相続財産なのです。
故人の死亡によって、相続人はその借金を承継することになるのです。

1、親の借金は子が返すの?

いかに親のしたこととはいえ、数千万円の借金を背負って、遺族は一生サラ金地獄の苦しみに耐えなければならないのでしょうか?酷な話です。
法律上、故人の遺産は、遺言で指定された者や法定相続人が相続しますが、相続人というだけで、無条件にマイナス遺産を負わされえはたまりません。そこで、民法は、相続財産を受け入れるか否かを相続人の自由な選択に任せることにしています。

 

2、相続人の3つの選択肢をチェック

相続人は、
➀無条件に遺産を相続する「単純相続」
➁一切受け取りを拒否する「相続放棄」
➂受け取った遺産の範囲内で,故人の負債を負担する「限定承認」

の何れかを選べます。
あなたが、➀「単純相続」した場合は、故人の権利及び義務の全てを引き継ぐことになり(民法920条)、借金があれば、その返済義務は相続人が負うわけです。

 

3、相続放棄の手続は3ヶ月まで

しかし、➁「相続放棄」➂「限定承認」を選択する場合は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述するというのが原則(民法915条)です。

この期間を過ぎると、あとで借金の山に気が付いても手遅れ・・・

単純承認したものとして取り扱われてしまいます。(民法921条2号)
万が一、手続に間に合わない時は、焦らず事前に家庭裁判所に期間を伸長してもらうよう申立てをしましょう。

 

4、 相続放棄の手続ってどうするの?

まずは、故人の住所地の家庭裁判所に行って、「相続放棄申述書」を取寄せ、提出しましょう。
相続放棄の申述がありますと、裁判所ではその申述が本人の意思か否を審判し、真意であることが判明すると受理されます。
その後、必ず「相続放棄申述受理証明書」の交付を受けて下さい。
これによって、借金の取立てに対抗・拒否ができます。

 

5、 悪質な債権者は,3ヶ月は沈黙を守る

相続財産に債務(借金)が多い場合、債権者としては相続人がその借金も相続してくれれば相続人に請求できることになります。
つまり債権者は相続から3か月間沈黙していればいいのです。
悪質な債権者が相続人に対し、強引な取立てをすれば、サラ金規制法で取締りされる危険性があるため、遺族に相続放棄をさせないためにわざと請求を遅らすのです。
しかし、安心して下さい。
もっとも3ヶ月を過ぎても、多額の散財があると知っていれば相続放棄をしたであろうと認められる場合には、3ヶ月を過ぎても相続放棄を認めた判例もあります。(最高裁・昭和59年4月27日判決)
慌てて債権者と安易な取引をしないで、弁護士等に相談してみて下さい。

 

6、 最後に、ご注意して下さい。

遺産のうち、
・ この掛け軸は隠しておこう
・ この宝石類は形見として・・・
気持ちは理解しますが、遺産の一部でも使ったり隠したりすると、相続放棄は認められなくなります。くれぐれもご注意下さい。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。