私は現在80歳を目前に、身の回りの整理を始め遺言書の作成も検討しています。
私は小さいながらも工務店を経営し、地道に働いて来ました。コツコツと貯めた私の総資産は不動産や株、マンション経営と5億円は下りません。

妻にも先立たれ、3人の息子はサラリーマンになり、次男だけが起業しては潰すの繰り返しです。そして、そんな次男が気がかりな私はこれまで次男に援助を繰り返し、その額はゆうに1億円を超えていると思います。

しかし、その甲斐もなく、次男はまたしても失敗し、今では銀行や消費者金融に1000万円以上の借金もあるようです。最近は、自身をなくし、何をやっても上手く行かないと、度々私に生活費の無心をしてくる有様です。次男に投資することは焼け石に水であったと今さらながら後悔しています。

3人の息子たちは、何も言いませんが最近になって相続税が気になり始めました。次男に貸した1億円の貸金にも相続税が加算されるのでしょうか。何か良い策はありませんか。次男の借金と相殺するしかないのでしょうか。

 

■生前贈与と贈与税

次男への事業資金の援助を生前贈与として考えた場合、その額に応じ相続税が発生することが予想されます。勿論、毎年110万円までの基礎控除による非課税は認められますの、何年に亘って援助を行ってきたかについては非常に重要なポイントとなります。

また、親子間ということで、無利息で貸している場合、利息分は利益と考えられ、利息相当分についても贈与税が課税されることが予想されます。

その利息の利率は、別段の取り決めがない場合は、年5パーセントと考えて問題ありません。
次男からの返済がなく、いわゆる出世払いとしている場合は、金銭の貸し借りとは認められず、こちらに対しても、貸金として贈与税が発生すると思われます。親族間の借金では、それが本当のお金の貸し借りなのか、判断しにくいことが多いのです。そのため、はっきりと金銭貸借と判断できないと、贈与とみなされてしまうのです。

 

■贈与税を発生させない方法

贈与税を発生させない方法と考えるのではなく、相談者は次男に対し、事業資金として貸付をしたという認識することの方が正しい判断である思います。例え親子であっても、高額な金銭のやり取りは当然、しかるべき契約を取り交わすことが賢明です。

金銭の貸し借りについては、非常に細かく、契約を交わすのであれば「金銭消費貸借契約」も考えられますが、「金銭消費貸借契約」は消費者金融などの金融機関が貸主となって締結する事が一般的なことから、親子間ではその必要はなく「借用書」で十分であると考えます。また「金銭消費貸借契約書」の作成は2通作成し、貸主と借主の双方で1通ずつ保管します。しかし「借用書」は貸主に差し出すだけであり、効力に差がないことから、親子間では「借用書」で十分であると考えます。

なお「借用書」の書き方については、特に決まりはないものの、➀~➃までの明記は必須です。。

➀貸主と借主
➁貸付日
➂貸付金額
➃返済の方法

その他に、利息や遅延損害金の定めなどを明記する事もありますが、親子間であれば、遅延損害金の記載は必要ないでしょう。
そして、その次に大切な事は、返済した証拠を明確に残すことです。

その為には親子間であっても通帳への振込で返済の有無を残すなどの方法を取る事が大切です。面倒だからといって手渡しで返済を続け、結局返済の証明が残らないのであれば「借用書」を作っただけの片手間となり、贈与税と見なされる可能性が出てきてしまいますので十分な注意が必要です。

■相続税対策

「借用書」があれば、贈与税とみなされる事がないにしろ、結局その金銭の返済がないまま、相続が発生した場合、それが債権として相続財産となり、相続税の課税対象になります。

そして、当然相続人に相続され、その相続人が借主への請求をする権利を承継するわけです。
相談者の場合、4人の子供が相続すると考えれば、次男は貸主であり、かつ借主にもなるのです。
貸したまま返済がないにも関わらず、その金額にまで相続税が課税されるとは、おかしな話のような気もしますが、その債権が将来回収できるもの(法的に請求する権利を有する債権)である限り、相続財産と見なされる事はやむを得ないのです。

■解決策

贈与税の発生は「借用書」の存在により抑える事が出来ますが、回収がままならない債権までもが相続税の課税対象となっては、多額の相続税に苦しむ結果を招く恐れがあります。

相談者の次男は、相談者への返済も儘ならない状況の中、別途1000万円もの負債を抱えている状況は、破産状態と考えざるを得ません。仮に、今後もあたらに起業するとしても、最早これまでと同様に融資を受けることは難しく、その上相談者の協力も、これ以上は厳しいのであれば、返済に窮する恐れもあり、立て直しは容易なものではないと思います。

このような状況の中での解決策の一つとして考えられるのが自己破産です。
自己破産は、借金整理の最後の手段とも考えられています。当然、多くの債権者に迷惑をかけ、裁判所に認めてもらう事は容易ではなく、自身の財産があれば当然処分しなくてはなりませんし、一時的であるにせよ、職業の制限などが科せられます。しかし、それらを経て、免責となれば、人生のやり直しが出来るのです。将来的に再び起業することに何の制約もありません。

仮に次男が自己破産をし、免責となって、「借用書」のある債権が回収不能と認められれば、いずれ開始される相続の際に,この債権は含まれず、相談者の資産4億円が相続税の対象となるわけです。

残る3人の相続人がこれらの手続きに納得するかは分かりませんが、節税対策からみればこれも一つの方法です。
仮に次男に対し、3人の相続人が、生前贈与と主張しても「借用書」を取交し、その後自己破産し免責が認められれば、次男は何ら相続人として他の3人と変わりないことから、相続放棄を強要される理由もなく、心情的な部分を除けば、法的には当然3人と同等の権利を有するわけです。

節税の話とは少しばかりそれてしまいましたが、相談者の方が一代で築き上げた立派な財産を、どのようにしようとそれは相談者の自由です。

しかしながら、将来的な揉め事をすこしでも軽減させたいと考えるのなら、親族間で話し合うことが出来るうちに、皆が納得できるよう十分な話し合いをし、そして円満な結果が得られることを願っています。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。