母が2年前に亡くなりました。母の相続について、法定相続人は、父と兄とわたしの3人です。
父はその当時、認知症を患って入院生活を送っていました。文字を書いたりすることはできるものの、物事をきちんと判断できているかどうかについては甚だ疑問が残る状況でした。

共同相続人である父がそのような状況であったため、母の相続については、有価証券が相続財産としてありましたが、遺産分割しないままになっていたところ、つい先日、父が亡くなってしまいました。

父は遺言書を遺しており、相続財産のうち不動産については兄に、現金と預貯金については、兄妹で等分するような内容が書かれていました。
そこで、母の遺産分割も行っていなかったことから、母の相続財産について改めて確認したところ、兄が母名義の有価証券を、父名義に変更、その後約600万円で売却され、その売却代金が父名義の銀行口座に入金されていることが発覚致しました。

その上、その銀行口座から50万円ずつ複数回にわたって現金が引き出されていることも併せて発覚致しました。父が入院していたことを考えると、父母の財産を管理していた兄が、父のキャッシュカード引き出していたのでないかと思われます。
その点を兄に問い詰めましたが、兄は逃げるばかりで話し合いに応じることはありません。納得ができないのですが.どうしたらよいでしょうか。

回答事例

■成年後見制度

親や祖父母の相続などで、相続人が高齢になっている場合、相続人の中で認知症を患っていて、相続の手続きが進まない、というご相談をよくいただきます。
認知症を患っているからといって、必ず相続の手続ができない、という訳ではありません。
症状が軽い方であれば、遺産分割に参加したり、相続の手続きを行ったりすることもできるでしょう。

しかしながら、症状が重い方であれば、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身の回りの世話のための介護サービスや施設への入居に関する契約を結んだり、遺産分割協議などの相続手続きに参加したりする必要があっても、本人がこれらの行為を行うことが難しい場合もあります。

また、本人にとって不利な内容の契約であっても判断することができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害に遭ってしまう恐れもあるでしょう。このような判断能力が不十分な方々を保護し、また支援していくのが成年後見制度です。

この、成年後見制度を利用して、その方を保護するための成年後見人等を家庭裁判所に選任してもらい、選任された成年後見人等が、その方に代わって相続の手続に参加することとなります。

判断能力が乏しい状況で、無理に遺産分割や相続の手続きに参加させたりすると、それがキッカケで相続人間でトラブルになるケースも非常に多いため、まずはかかりつけの医師に相談をしてみましょう。

お母さまの相続については、有価証券の売却代金がお父さま名義の預金口座に入り、それがお兄さまによって引き出されています。
当時入院中で、尚且つ認知症を患っていたお父さまがその現金を費消していることは考えにくいでしょうから、その引き出された現金の使途について確認を行わなければならないでしょう。

仮に、その現金をお兄さんが私的に流用していたのであれば、返還を求めていくことも考えられると思われます。お兄さまが話し合いに応じないようであれば、遺産分割調停を申し立て、その手続きの中で、使途を明らかにしていくことになると思われます。

 

■遺言書

また、お父さまの相続については、遺言書があったとのことですが、遺言書の種類によって、相続開始後の手続が異なります。

まず、遺言書は大別すると、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言とは、遺言者が、紙に、自ら、遺言の内容の全文(目録を含むすべて)を手書きし、かつ、日付、氏名を書いて、署名の下に押印することにより作成する遺言です(すべてを自書する必要があり、パソコンやタイプライターを利用したものは無効です)。自筆証書遺言は、自分で書けばよいので、費用もかからず、いつでも書けるというメリットがあります。

デメリットとしては、内容が簡単な場合はともかく、そうでない場合には、法律的に見て不備な内容になってしまう危険があり、後にトラブルの種を残したり、無効になってしまったりする場合もあります。また、たとえば、誤りを訂正した場合は、訂正した箇所に押印をし、さらに、どこをどのように訂正したかということを付記して、そこにも署名しなければならないというように方式が厳格なので、方式に不備があると無効となってしまうこともあります。

また、自筆証書遺言の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。

この検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

併せて、遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき又は遺言執行者が亡くなったときは、家庭裁判所は、申立てにより、遺言執行者を選任することができる、とされています。

上記のような自筆証書遺言のもつ様々なデメリットを補う遺言の方式として、公正証書遺言があります。

公正証書遺言とは、遺言する方(遺言者)が、公証人の面前で、遺言の内容を口授し、それに基づいて、公証人が、遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言として作成するものです。

なお、公証人とは、裁判官や検察官等の法律実務に携わってきた法律の専門家で、正確な法律知識と豊富な経験を有しているため、複雑な内容でも、法律的に見てきちんと整理した内容の遺言となりますし、方式の不備で遺言が無効になるおそれもないでしょう。

また、公正証書遺言の場合は、家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現することができます。
さらに、原本が必ず公証役場に保管されますので、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりする心配も全くありません。

 

■遺留分

仮に遺言書どおりに相続すると、相続した割合に著しく差が生じることもあります。
たとえば、今回の相談事例の場合、現金が1000万円、不動産の評価額が4000万円であったとします。
これを遺言書どおりに相続すると、現金を相談者とお兄さんで等分し、不動産をお兄さんが相続することになるので、相談者の相続した金額が500万円に対し、お兄さんの相続した金額が4500万円となってしまい、著しく差異が生じます。

ところが、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分といって、最低限度の相続する割合が認められています。遺留分の割合は、法定相続人が親や祖父母などの直系尊属だけの場合は、「遺留分算定の基礎となる財産」の3分の1となり、それ以外(法定相続人が配偶者のみ・子供のみ・配偶者と子供・配偶者と親など)の場合は、財産の2分の1になります。なお、1人ひとりの遺留分は、全体の遺留分に各自の法定相続分の率を乗じて算出します。

したがって、上記の場合、遺留分算定の基礎となる財産は、現金1000万円+不動産4000万円=5000万円となり、相談者の遺留分については5000万円×1/2×1/2=1250万円となります。

つまり、相談者としては遺言書に従えば、500万円しか相続できないので、残りの750万円をお兄さんに請求できることとなります。これを遺留分減殺請求といいます。
しかしながら、遺留分減殺請求ができる期間も定められており、民法では、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅する、相続開始の時から10年を経過したときも同様とする、とされていますので、早めに請求する方がよいでしょう。

いずれにしても、相手方であるお兄さんが話し合いに応じないようであれば、裁判所での手続に移行せざるを得ません。その前に、是非とも当事務所にご相談下さい。相続人に代わって、弁護士が交渉や裁判手続を行ういこともできるのです。どうぞ、お気軽にご相談ください。