【ご質問】

先月、私の父がなくなりました。
母も既に他界していますが、私には兄がいます。
ただ、その兄は10年前に父とケンカし、家を勘当されてしまいました。それ以降は音信不通で、今では生きているかどうかも分かりません。
突然ことで遺言も残っていなかったのですが、相続の手続きはどのように進めたらいいのでしょうか?

【回答】

家族や親族であっても、諸事情によって音信不通や行方不明になってしまう場合があります。ご質問のケースのように、お兄さん(仮にAさんとします。)が長年にわたって音信不通で、そのAさんを法定相続人とする相続が開始された場合、相続の手続きはどのように進めていけばよいのでしょうか。

まずはAさんを探す

遺言が残っていない場合は、相続人間で遺産の分割についての話合い(遺産分割協議)をすることになります。そして、この遺産分割協議が成立するためには、相続人全員の同意が必要となります。相続人の一人が音信不通であったとしても、その相続人を無視して遺産分割協議を成立させることはできません。
ご質問のケースでは、Aさんが生きていると仮定した場合、相続人は相談者とAさんの2名になりますので、この2名で遺産分割協議を行う必要があります。そのため、まずは行方不明のAさんを捜し出し、2人で遺産分割協議を行うことができるように最善を尽くすのが第一です。

では、具体的にどうやってAさんを捜し出せばよいのでしょうか。
探偵を利用するという手段もありますが、費用のかからない最も一般的な方法として、戸籍の附票による確認というものがあります。Aさんの本籍地のある市区町村から、この戸籍の附票という書類を取り寄せることで、Aさんの現在(あるいは最後)の住所を確認することができます。

 

Aさんが見つからない場合➀~不在者財産管理人

次に、手を尽くしてもAさんの居場所が判明しない場合はどうなるのでしょうか。それ以上遺産分割協議の手続は進められないことになってしまうのでしょうか。
このような場合であっても、遺産分割の手続きを進める方法があります。一つ目は、家庭裁判所に申立をおこない、不在者財産管理人を選任してもらう、というものです。

不在者財産管理人とは?

行方不明になってしまった人に代わって、その人の財産を管理する人のことです。ご質問のケースでは、行方不明のAさんに代わって、Aさんの財産を管理する人ということになります。
家庭裁判所から不在者財産管理人を選任してもらうことにより、Aさんがいなくても、不在者財産管理人との間で遺産分割協議を進めることができます。
ただし、不在者財産管理人の権限は、原則として不在者の財産の維持や管理に限定されています。遺産分割協議に同意してもらうためには、別途裁判所の許可が必要となる点に注意しましょう。

 

Aさんが見つからない場合➁~失踪宣告

Aさんの不在のままで遺産分割協議を進める方法は、もう一つあります。それは、失踪宣告という制度を利用することです。

失踪宣告とは?

生死不明の状態が7年間続いたとき又は事故や災害があってから1年間生死不明であったときに、(実際に生きているか死んでいるかはともかくとして)法律上死亡したものとみなす制度です。
今回のケースでは、Aさんは10年にわたって音信不通=生死不明の状態になっているため、家庭裁判所に失踪宣告の申立をし、Aさんが亡くなったものとして手続きを進めることができます。
ただし、Aさんが相続人とならない場合であっても、Aさんに子供がいた場合には、その子供が相続人となりますので、Aさんの子供との間で遺産分割協議を進めていくことになります。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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