ご質問

先日、消費者金融から突然連絡があり、「あなたの父親は、弊社から300万円を借りたまま、昨年の9月に亡くなりました。あなたは相続人ですので、300万円を返済する義務も相続することになります。」と言われてしまいました。

私は、父と喧嘩して実家を出て以来、長年家族と連絡を取っておらず、父が亡くなったことさえ知りませんでした。
私は、父が借りた300万円を返済しなくてはいけないのでしょうか。
相続放棄という手続きがあると聞きましたが、今からでも間に合うのでしょうか?という質問をいただきました。

 回答

現金、不動産等のプラス資産よりも借金等のマイナス資産が多い場合には、相続を放棄することにより、マイナス資産の引き継ぎを免れることができます。

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3カ月以内に行う必要があります。本件では、消費者金融から連絡があるまでは父親が死亡した事実を知らなかったとのことですので、その連絡があった時から3カ月以内に放棄をする必要があります。

相続の放棄とは?

相続は、プラスの財産(現金、不動産等)についてだけではなく、マイナスの財産(借金等)についても発生します。つまり、誰かが死亡した場合、その相続人は、死亡した人(=被相続人)の現金や不動産等を引き継ぐことができる代わりに、借金の返済義務等も引き継ぐことになります。

では、相続人は、被相続人の遺した借金の金額がどんなに大きい場合でも、必ず引き継がなければならないのでしょうか。
プラス財産よりもマイナス財産の方が明らかに大きいような場合、相続人は、相続を放棄することにより、プラス財産を引き継げない代わりに、マイナス財産の引継ぎを回避することができます。
相続放棄をする場合には、死亡した人の住所地を管轄する家庭裁判所に行き、手続を行う必要があります。

 

相続放棄はいつまで可能か?

民法915条1項は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」と定めています。

つまり、相続人は、3カ月の期間内に、相続財産の調査を行い、相続するか否か(言い換えれば、相続を放棄するか否か)を選択することになります。この3か月間の期間は、一般に「熟慮期間」と呼ばれます。

では、この熟慮期間は、どの時点からカウントするのでしょうか。熟慮期間の起算点については、「自己のために相続の開始があったことを知った時から」とあるように、被相続人が死亡した時ではありません。一般的には、相続人が相続開始の原因となる事実(=被相続人の死亡)及びこれにより自らが法律上相続人となった事実を知った時からと解釈されています。

冒頭の事例では、消費者金融から連絡があるまで、父親が死亡した事実(=相続開始の原因となる事実)を知らなかったことになりますので、この連絡があった時から3カ月以内であれば、相続放棄の手続きを行うことが可能です。

なお、この熟慮期間内に相続放棄又は限定承認の手続きを行わなかった場合、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。単純承認とは、被相続人の権利義務を無限に承継することを意味しますので、この場合には、プラス財産もマイナス財産むすべて引き継ぐことになります。

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「熟慮期間」を伸ばすことはできるのか?

相続放棄は、原則として3カ月の熟慮期間内に行う必要がありますが、相続財産の構成が複雑である場合や、相続人が遠隔地にいるような場合には、3カ月で足りない場合もあります。

このような場合には、家庭裁判所に請求することによって、熟慮期間を伸長してもらうこともできます(民法915条1項)。ただし、熟慮期間を伸長してもらう場合には、伸長が必要な理由について、具体的に家庭裁判所に説明、主張を行う必要がありますので、専門家にご相談されることをお勧めします。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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