兄(長男)が相続の提案を申し入れしてきました。長男の申し入れには,従うしかないのでしょうか?

父が亡くなりました。法定相続人は,父と同居していた母と私(長女),兄(長男),妹(二女)の4人です。遺言書はありませんでした。

四十九日が過ぎた頃でしょうか,兄から実家の土地建物は兄が相続し,残った田畑を私と妹,現金・預貯金は母が相続するという内容で申し入れがありました。

しかし田畑は,父が耕作していましたが,今後は誰も耕作する予定もありませんし,誰も農業に従事する予定もなければ,貸し出す予定もありません。葬儀代やお墓代,今後の法要は,現金を相続した母から支払うように言われています。更に,地代も毎月納めるように母に話をしています。

私と妹は,畑を相続しても利用することも出来ないため,大変不公平な提案だと思って納得できないと話し合っていましたが,母やその他の親戚たちは,長男が言うことだから,この申し入れを受け入れるしかないと,兄の申し入れを受け入れるよう私と妹を説得する始末です。

私としては,今後もこの実家で生活をしていくつもりですし,名義を兄に変えてしまっては,母が亡くなった後に,このまま暮らすことが出来るのかも不安です。私と妹としては,きちんと法定相続分どおり相続したいと考えているのですが,間違っているのでしょうか。
母が言うとおり,長男からの申し入れは承諾するしかないのでしょうか。
このままでは,価値のない畑だけを相続させられてしまいます。

 

1 長男が全てを相続するのが当たり前?長男が相続を決める?

旧民法では,家督相続と言い,戸籍上の家の長として,これまで戸主がもっていた地位(一身に専属するものを除いた一切の権利義務)を,次に戸主となる者が1人で承継することで,嫡出長男子による単独相続を原則としていました。

簡単に説明すると,兄弟姉妹が何人いようと,基本的に長男が家督相続人となり,家の財産をすべて受け継ぐことになります。
上記の家督相続は,昭和22年5月3日以降に廃止されましたので,現代では関係ありません。

しかし,地方によっては,上記の家督相続の名残なのか,親や長男だけではなく相続に直接関係しない親戚からも「長男が相続するのは当たり前」,「外(結婚したり,仕事で地元から離れるなど)に出た人間が相続を主張するなんておこがましい」「そんなにお金が欲しいの?卑しいこと,ああ,やだ,やだ」などと,責められて辛いといったご相談があるのも事実です。

ですが,上記のとおり,家督相続は廃止されているので,現代の相続では,長男が特別に割合を多く相続するなど,相続の分配を長男が決めて良いと定めた法律はありません。

 

2 私の主張できる法定相続の割合は,どれくらい?

●相続人が配偶者のみの場合,配偶者が100%。

●相続人が配偶者と子供の場合,配偶者が2分の1,子供が2分の1(子が複数いる場合は,均等に分割)

●相続人が配偶者と父母の場合,配偶者が3分の2,父母が3分の1(両親とも健在の場合は,均等に分割)

●相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合,配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1(複数の場合は,均等に分割)(民法900条)

※本件は,母(配偶者)と長男,長女,二女が法定相続人ですから,母が2分の1,子供たちがそれぞれ6分の1ずつの相続分となります。

 

3 兄に全ての遺産を相続させる内容の遺言書があったとすれば,私はあきらめるしかない
のでしょうか?

いいえ,どなたかに全ての遺産を相続させる内容の遺言書があった場合もあきらめることはありません。

法律では,法定相続人は配偶者,子ども(またはその代襲相続人),直系尊属には『遺留分』という,遺族の生活を保証するために,最低限の財産を相続することができる権利があります。(※兄弟姉妹は含まれません)(民法1028条)

各相続人の遺留分の具体例
配偶者のみ   配偶者が2分の1
子供のみ      子供が2分1
配偶者と子供    配偶者が4分の1 子が4分の1
配偶者と父母    配偶者が3分の1 父母が6分の1
配偶者と兄弟姉妹  配偶者が2分の1 兄弟姉妹は遺留分なし
父母のみ      父母が3分の1
兄弟姉妹のみ    兄弟姉妹には遺留分なし

※代襲相続による相続人にも遺留分の権利があります。

※遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,相続開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始時から10年を経過したときも,同様とする。(民法1042条)ご注意下さい。

 

4 私は親と同居しており,介護は私がやりました。『寄与分』というものを主張できるの
でしょうか?

相続での寄与分とは,故人の事業などを手伝うことで,故人の財産を維持したり,増やしたりしたことに貢献した人に対し,法律で定められた従来の相続分にプラスしてもらう財産をいいます。

相続人全員とよく話し合い,寄与分を認めてもらうことが出来れば問題ありませんが,話し合いで決着がつかず裁判上で争うことになると,通常の扶養義務の範囲内なら,特別の寄与とは言えないと判断される可能性があります。

 

5 兄は生前から長男だからと,援助を受けて優遇されていました。不公平だと主張できるのでしょうか?

法定相続人の中に,被相続人から婚姻費用や事業資金の援助,住宅購入資金などについて生前贈与を受けたり,被相続人から遺贈を受けたりした者がいる場合に,これをまったく考慮せずに相続分を計算すると,相続人間で不公平が生じることになってしまいます。

そこで,相続分を計算する際に,故人から生前贈与や遺贈を受けた分を考慮することによって,相続人間での公平を図る制度を『特別受益制度』といいます。

しかしながら,この制度は,生前贈与されたり遺贈を受けたりした額が,法定相続分より多くても返還を請求することは出来ないことに注意が必要です。

ただし,遺留分の侵害があった場合には,遺留分減殺請求することができますが,特別受益とは別の問題となります(因みに,遺留分とは故人の財産のうち,一定の相続人に必ず承継されるべきものとされる相続財産の一定割合の事をいいます)。

 

6.まとめ

本件は,遺言書もありませんので,長男の主張に従う必要は全くありません。堂々と法定相続分の相続を主張することができます。
ただし,本件では相談者が実家に継続して居住することを希望していますので,実家の土地建物を取得することを希望するのであれば,不動産の価値に対する代償分割を求められるかもしれません。

簡単に説明しますと,不動産の価値に応じた対価を遺産分割の計算に考慮する必要がありますので,計算した際に,不動産を取得したことにより,他の相続人の取り分が少なくなった場合は,代償金を支払う必要が生じる可能性があります。ただ本件では,長男も生前に特別受益がありますので,それを協議のなかで主張することも重要だと考えます。
そうした話し合いこそが,遺産分割協議であり,兄の一方的な申し入れを受け入れる必要はありません。

 

7 最後に

法定相続分は法で認められた立派な権利ですので,それを主張することは恥ずかしいことでは一切ありません。しかし,親戚やご家族に反対されるなか自己の権利を主張することは簡単ではなく,心身ともに大変な苦労をともなうことも事実です。
ですから,そんな時は,弁護士に依頼することで,弁護士が貴方の代理人として権利を主張していきますので,以降,そういった方々と直接やり取りする必要はありません。

よく家族と喧嘩したり揉めたりしたくはない,裁判にはしたくない,親戚と付き合っていけなくなるのが嫌だというお話を聞きます。しかしながら,相続の権利をきちんと主張したことが結果的に後悔しないで済んだという方も多くいらっしゃいますので,まずはご自身の今後の生活や,ご家族の将来を良く考えてみてはいかがでしょうか。

もう一度よく考えて,後悔をしない遺産分割を行うことが大事です。もし1人で悩まれたり,解決出来ないことがあったりするのであれば,是非とも当事務所にご相談下さい。当事務所では,相続に関するご相談を無料で承っております。
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