親名義の不動産の売却についての相談が比較的多いので、その手続きについて説明したいと思います。

1.親自身が契約できる状態にあるか?

当然のことながら、不動産所有者は親ですので、売却するためには、本人(親)に売却する意思があるか、契約をするのに必要な能力があるか、が大切なポイントになります。
ここでいう能力とは、物事を判断するのに必要な能力をさし、身体的な能力については問題にされません。
したがって、字が書けなかったり、話せなかったりしても、契約内容を把握でき、何らかの方法で意思表示をすることができれば、契約をすることは可能ですが、逆に、精神障害や認知症等のために、判断能力が低下している場合は、契約に支障が出る場合があります。

2.親の判断能力に問題がある場合

民法の世界では、自分がした行為の結果を判断することができる能力(法律用語で、「意思能力」といいます)が欠いた状態でした契約は、無効とされています。
たとえば、重度の認知症で判断能力が欠いた状態で、契約をすると、後々、契約が無効とされるリスクがあるため、通常、契約をすることはできません。
実務では、仲介の不動産屋さんや不動産の名義変更を担当する司法書士が、直接、売主本人にお会いし、判断能力の有無を確認することが一般的です。
ここでよくある質問として、「親が契約をすることができないのなら、委任状を書いてもらって息子が代理人として契約をすれば問題ないのではないか」などとおっしゃる方がいますが、これも認められません。
なぜなら、代理人を選ぶこと自体、委任契約という契約ですので、判断能力がない場合は、委任自体が無効になる可能性があるからです。
つまり、親の判断能力に問題がある場合は、以下の3つしか方法がありません。

➀親の判断能力の回復を待つ
➁亡くなって相続されるのを待つ
➂成年後見制度を利用し、後見人から契約をしてもらう

3. 成年後見制度の利用

成年後見制度は、判断能力が不十分な方が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、その方を援助してくれる人(後見人等)を付けてもらう制度です。
後見人には、代理権が与えられるため、後見人に選任されれば、本人の代わりに契約をすることができるようになります。
今回の事例では、子が親の後見人になれば、親の不動産の売買契約をすることが可能になります。
これだけ聞くと、使い勝手のよさそうな制度のように聞こえますが、注意しなければいけないこともあるので、以下、紹介させていただきます。

4.成年後見制度利用の注意点

(1)第三者が後見人に選ばれることもある

後見の申立てを家庭裁判所にする際は、後見人候補者をあげることができ、もちろん立候補も認められています。ただし、最終的に誰を後見人にするかは、裁判所の裁量ですので、親の後見人候補者として子が立候補したとしても、希望が聞き入れられず、見ず知らずの司法書士や弁護士などの専門職後見人が選任されることもあります。
一般的に、家族の意見がまとまっていない場合や、高額な財産を有している場合などは、専門職後見人が選ばれることが多いです。

(2)後見人には責任が発生する

後見人になると、本人のために、財産管理や身上監護を担うことになります。
基本的に本人の利益になることしかできませんので、親の家を売ったお金で、後見人である子の生活費に充てるなどは、当然のことながら認められません。悪質な場合は、業務上横領罪で捕まることもあります。
また、後見人は定期的に、家庭裁判所に対し、業務報告をする必要がありますので、面倒な手間も発生します。

(3)目的を果たしても後見人はやめられない

後見制度の趣旨は、判断能力が不十分な人を保護することですので、本人が亡くなるか、判断能力が回復しないかぎり、後見は終了しません。
つまり、今回の事例では、親の不動産の売却が終わったとしても、後見人として働き続ける必要があります。

5.まとめ

以上のように、重度の認知症の親の不動産を売却する場合は、後見制度を利用するしか方法はないのですが、後見は不動産を売却したあとも続きます。
また、売却して得た売買代金は、親のためにしか使うことができませんし、後見人は定期的に財産状況などを家裁へ報告する義務も生じます。
売却した後のことも考えて対応する必要があります。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
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