施設から事務管理費の精算金として返戻金がありました

父は、入居していた介護施設で亡くなりました。
既に母は他界しているので,法定相続人は,兄と弟(長男,三男)と,私(二男)の3人が相続人です。

今回,父が入居していた施設から事務管理費の精算金として約200万円の返戻金があると言われました。

また,施設に遺されていた遺品等を整理していると,「施設から返還されたお金は,二男に相続させる。」と言う内容の,自筆で書かれたメモ帳が出てきました。父の面倒を私が看ていたためだと思いますが,日付・署名・押印はありませんでした。
兄や弟も,私が父の面倒をみていたことを理解しており,「お前が相続すれば良い」と言ってくれていました。

ところが,今になって弟の妻が文句を言っているようで,弟は妻の尻に敷かれているため,その内,精算金の一部を寄越せと請求してきそうです。
そもそも,施設からの返戻金は,相続財産に含まれるのでしょうか?
また,父親が残したメモは,遺言書になり得るのでしょうか?

1 施設からの返戻金について

この施設からの返戻金は,施設に支払った事務管理費の中から返戻される性質のものでした。この事務管理費等の施設に対する費用の支払いは,父の原資から支払われていました。
ついては,この返戻金については,遺産に含まれると考えます。

2 メモは遺言として認められるか?

遺言は,遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため,厳格な方式が定められています。その方式に従わない遺言は無効です。録音や動画撮影されていたとしても,それらは遺言としては何ら法律上の効果はありません。
まず,遺言を遺すための遺言書には以下の3通りの方式があります。

➀「公正証書遺言」

遺言者が,公証人及び2人以上の証人の面前で,遺言の内容を口授し,それに基づいて,公証人が,遺言者の真意を正確に文章にまとめ,公正証書遺言として作成します。

➁「自筆証書遺言」

遺言者が,紙に,自ら,遺言の内容の全文を書き,かつ,日付,氏名を書いて,署名の下に押印することにより作成します。

➂「秘密証書遺言」

遺言者が,遺言の内容を記載した書面(自筆証書遺言と異なり,自書である必要はないので,ワープロ等を用いても,第三者が筆記したものでも構いません。)に署名押印をした上で,これを封じ,遺言書に押印した印章と同じ印章で封印した上,公証人及び証人2人の前にその封書を提出し,自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述し,公証人が,その封紙上に日付及び遺言者の申述を記載した後,遺言者及び証人2人と共にその封紙に署名押印することにより作成されます。

旧民法では,家督相続と言い,戸籍上の家の長として,これまで戸主がもっていた地位(一身に専属するものを除いた一切の権利義務)を,次に戸主となる者が1人で承継することで,嫡出長男子による単独相続を原則としていました。

本件のメモは,父の自筆ではありますが,日付・氏名・押印がなされておらず,自筆証書遺言としては認められません。

メモ帳だから無効ということではありません。きちんと日付・氏名・押印までなされていたのであれば,遺言書として有効だと主張するべきだと考えます。しかし,遺言書としては無効であっても,父の意思が伝わる大切な証拠の1つになるかもしれませんので,破棄などせずに大切に保管し,交渉の際に使ってみるのも良いのではないでしょうか。

3 寄与分

相続人の中に,故人に対して特別な貢献をしたり,故人が代表を務めていた会社経営を手伝ったり,故人の財産の維持又は増加に特別な貢献をした相続人がいた場合,それを考慮せずに遺産分割を行なうと不公平が生じてしまうこともあるかと思います。
そこで相続人間の実質的な公平を図る観点から,遺産分割協議を行なうに際し,特別な貢献をした相続人については,本来の相続分に加えて,その貢献した程度に応じた分だけ多く財産の分割を受けることが認められています。その貢献した相続人が,多く取得できた分を『寄与分』といいます。

民法では,寄与分が認められるためには,以下の要件をクリアする必要があると定めています(民法第904条の2)。

(1)相続人であること

上記の例で説明すると,相談者は相続人になりますが,仮に故人に兄弟姉妹が存在し,兄弟姉妹が故人の療養・介護を負担されていたとしても,現時点では相続人にならないため,どれだけ故人の財産の増加に寄与したとしても,兄弟姉妹には寄与分は認められません。

(2)民法での解釈

夫婦間の協力及び扶助の義務(民法第752条),直系血族(親子間)及び兄
弟姉妹の扶養義務(同第877条),直系血族及び同居の親族の相互扶養義務(同第730条)が定められており,その扶養義務の範囲内の行為であれば,寄与分とは認められません。ここでいう「特別」の寄与とは,身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献でなければならないと考えられます。

寄与分に該当する行為として,故人の事業に関して労務を提供したこと,財産上の給付をしたこと,故人に対する療養看護,などが挙げられています。そして,それらの寄与行為が
「特別」の寄与行為であることが必要になります。

例えば,故人の行っていた事業に,無報酬若しくはそれに近い状況で労務を提供したり,故人に代わって債務の返済等を行ったり,故人の療養看護にあたり医療費等の支出を抑えたり,本来複数の相続人が負担すべきであった扶養義務を一手に担うなどして,財産維持に貢献した場合などが,特別の寄与行為に当たるとされています。

故人の事業に従事していたとしても,従業員として相応の給料を受け取っていたり,給料と
して支給されている額が少額であっても,生活全般が故人の収入等で賄われていたり,故人所有の不動産に無償で生活していたりするなどの事情があると,寄与と認められないこともあるようです。

(3)故人の財産の「維持」又は「増加」があること

相続人による貢献が寄与分として認められるためには,その貢献によって被相続人の財産が維持又は増加したことが必要となります。相続人による寄与行為と故人の財産の維持増加との間に因果関係が認められなければならないのです。

相続人全員とよく話し合い,寄与分を認めてもらうことが出来れば問題ありませんが,話し合いで決着がつかず裁判上で争うことになると,通常の扶養義務の範囲内なら,特別の寄与とは言えないと判断される可能性があります。

4 遺留分

法律では,法定相続人は配偶者,子ども(またはその代襲相続人),直系尊属には『遺留分』という,遺族の生活を保証するために,最低限の財産を相続することができる権利があります。(※兄弟姉妹は含まれません)(民法1028条)

各相続人の遺留分の具体例

配偶者のみ   配偶者が2分の1
子供のみ      子供が2分1
配偶者と子供    配偶者が4分の1 子が4分の1
配偶者と父母    配偶者が3分の1 父母が6分の1
配偶者と兄弟姉妹  配偶者が2分の1 兄弟姉妹は遺留分なし
父母のみ      父母が3分の1
兄弟姉妹のみ    兄弟姉妹には遺留分なし

※代襲相続による相続人にも遺留分の権利があります。
※遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,相続開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始時から10年を経過したときも,同様とする。(民法1042条)ご注意下さい。

本件では,施設からの返戻金が主な遺産となりましたので,仮に上記遺言書が有効であっても,兄と弟には上記『遺留分』の権利があることは覚えておきましょう。

5 最後に

相続人間での協議は,感情的な問題も発生し,何時までも決着が着かないケースは珍しくありません。そういった場合は,第三者である弁護士が代理人として介入することにより,スムーズに解決に至ることがあります。
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