■ 法定相続人ではない親戚の相続について

父の従兄弟Aが亡くなりました。
Aは独身で子どももなく、一人暮らしでした。自宅で死亡しているところを発見されたようで、父は警察からの連絡でAの死亡を知りました。その際、警察から遺体の引き取りを要請されてしまいました。

Aは、父方の祖父の姉Bの子にあたりますが、Aの両親であるBとCは既に離婚しており、BはDと再婚し、AはDと養子縁組もしておりましたがBもDも既に亡くなっています。Cは離婚後、再婚したと聞いておりましたが、その後の様子は知りません。

警察から聞いたところに拠ると、Aの自宅は自己所有であり、預貯金等もあるようです。
Aが幼少の頃に両親が離婚していたことから、Aと父は兄弟同然に育てられたこともあり、遺体を引き取ることは吝かではないのですが、父も年金生活のため、引取後にかかるだろう葬儀代や埋葬費用、その他の経費について心配をしています。

現時点では法定相続人になり得る者がいないようですが、そのような場合、遺体を引き取った際にかかった費用について、相続財産から出してもらうことはできるのでしょうか。

 

■相続人の範囲

民法では、相続人になることができる者を定めており、その者を法定相続人と言います。
そして、相続人になる者の順番も決められています。

被相続人の配偶者(夫や妻)は常に相続人となりますが、血族相続人には優先順位があり、優先順位の上位の者がいると、下位の者は相続することができないことになっています。
法定相続人の範囲と順位をまとめると以下のようになります。

 


配偶者

・・・被相続人の夫や妻は常に相続人となります。

第1順位(直系卑属)

・・・子は第1順位の相続人です。相続開始時点で、亡くなっている子がいれば、その子(孫)が相続人となります(代襲相続人)。
また、養子も相続人となりますし、胎児も生きて生まれてくれば相続人となります。婚姻関係のない者との間の子(非嫡出子)も認知を受けていれば相続人になります。

第2順位(直系尊属)

・・・第1順位の相続人が誰もいない場合、父母が第2順位の相続人になります。また、被相続人が養子で、養親がいれば、養父母も相続人になります。

なお、父母が2人とも死亡していたり、2人とも相続放棄によって相続権を失っていたりするなど、いずれも存在しないときにのみ、祖父母が相続人となります。父母のうち、片方だけでも生存していれば、祖父母に相続権は移動しません。あくまで父母が2人とも相続権を失った状態になってはじめて、祖父母へ相続権が移動します。

第3順位(兄弟姉妹)

・・・第2順位の相続人もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。相続開始時点で、亡くなっている兄弟姉妹がいれば、その子(甥や姪)が相続人となります(代襲相続人)。


 

■ 相続財産管理人の選任

相続財産管理人とは、亡くなった方に法定相続人がいるかどうか不明な場合、または相続人全員が相続放棄を行ったよう場合に、相続財産の調査、管理、換価等を行う役目を持つ人のことをいいます。
そこで、相続人の存在、不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する者がいなくなった場合も含まれる)には、家庭裁判所は、被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など利害関係人からの申立てにより、相続財産の管理人を選任します。

相続財産管理人の選任が必要なケースとしては、被相続人にお金を貸していたり、被相続人より特定遺贈を受けていたり、または、被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に努めていたりするなど、被相続人と特別の縁故があったようなケースなどが挙げられます。
これらの人々は、相続財産管理人が選任された後、一定の手続きを踏むことで債権の回収や遺贈、相続財産の分与が可能になります。

被相続人に相続人がいない場合や、相続人全員が相続を放棄してしまったような場合は、相続財産を管理する人がいなくなってしまいます。そうなると、被相続人の債権者や受遺者は相続財産から弁済を受けられず、相続財産が失われたり、隠されたりする不利益を被る可能性があります。
そこで、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらい、相続財産の調査・管理、換価等を行わせることで相続財産からの支払いを確保するのです。相続財産管理人は、被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。

なお、特別縁故者は、相続債権者や受遺者に対する弁済が行われた後に家庭裁判所に申立を行って審理を受けた後、相当性が認められれば、相続財産の分与を受けることができます。

 

■特別縁故者に対する相続財産の分与

家庭裁判所により選任された相続財産管理人が被相続人の債務を支払うなどして清算を行った後,家庭裁判所が相続人を捜索するための公告で定められた期間内に相続人である権利を主張する者がなかった場合,被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に努めていたり、その他それらに準じて被相続人と特別の縁故があった者の請求によって,家庭裁判所が相当と認めるときは,家庭裁判所はその者に,清算後残った相続財産の全部又は一部を与えることができます。

ただし、特別縁故者の制度は、あくまで相続人がいない場合の例外的な制度であり、相続人がいる場合には適用されません。相続人はいるものの、それ以外の特定の縁故者に対して相続財産を遺したいというような場合には、遺言を作成して財産を分けられるようにしておかなければならないでしょう。

また、特別縁故者に対する財産の分与については、裁判所の裁量によって分与の有無や程度が決定されます。このため、特別縁故者が必ず一定の遺産を確保できるという保証がないことにも注意が必要です。

 

■まとめ

結論から申し上げると、ご相談者のお父様が、仮に亡くなられたAさんを引き取り、葬儀をしたり埋葬したりしたとしても、いくらAさんが財産を遺していたとしても、その際の費用が、相続財産から支払われると断定することはできません。

まず、今回のご相談のケースでは、相続人の存否が明らかではありません。
というのも、被相続人Aの実父であるCがまだ健在であれば法廷相続人になりますし、仮にCが既に亡くなっていても、Cが再婚相手との間に子を設けていれば、母親の異なる兄弟姉妹となり、法定相続人となり得るからです。
そこで、戸籍の調査をして、相続人の存否を確認することになります。

その後、法定相続人がいなければ、相続財産管理人が選任され、相続債権者や受遺者に対する弁済が行われた後に、特別縁故者に対する財産分与の申立となりますが、申立をした人が「特別縁故者」に該当するかどうかは、家庭裁判所が個々の事案の具体的状況をみて判断します。

過去の事例を見てみると、内縁関係にある配偶者や認知されていないものの生計を同一にしていた子どもなどについて、「特別縁故者」であるとの認定がされているようです。内縁の配偶者について特別縁故関係が認められた例は多く見受けられますが、それ以外のケースではなかなか「特別縁故者」として認定されるのは難しいのが現状なのです。

身寄りのない方に、生前から亡くなった後の財産等の心配をさせるのは酷なようでもありますが、亡くなった後に無用な混乱やトラブルが起きないようにするためにも、周りの人と一緒に、方策を考えておく必要があるのではないのでしょうか。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。