次男の嫁の私は現在義母と2人暮らしです。元々義母は義兄(長男)一家と同居していましたが、兄嫁とは折り合いが悪く、義兄の海外転勤を機に私たち夫婦と同居したのです。

最近になり義母から「私が死んだら財産は全てあなたにあげるから」と言われました。私はこれまで誠心誠意義母に仕えてきたので、その思いに義母が応えてくれようとしている事が何より嬉しくてなりません。

しかし、当然、法定相続人である義兄が黙っているとは思えません。因みに、私の夫は既に他界し、独立している私の2人の子供たちは、相続分を放棄をしてもかまわないと言ってくれています。

母の財産は、現在住んでいる不動産と賃貸用のアパート2棟、預貯金で、総資産額が少なくとも1.5億円にはなると思います。
何をすれば、私がより多く、財産を受け取る事が出来ますか。浅ましいようですが、義兄一家が大嫌いなので、どうにか少しでも私に有利な方法を教えて下さい。

 

■法定相続人

まず、ご承知のとおり、現時点での法定相続人(予定者)は義兄とあなたの2人の子供(代襲相続)の3人です。義兄が2分の1、あなたの子供がそれぞれ4分の1ずつとなります。そして、仮に2人のお子さんが相続放棄をすれば、全ての財産は義兄のものとなってしまいます。

 

■遺言書

義母が相談者にすべての財産を与えると遺言書を残せば、何より義母の意思が尊重され財産は相談者のものとなります。但し、法定相続人でない人が相続財産を受け取る場合は、遺贈と呼ばれ、相続税の納税額は2割増となります。

しかし、例え遺言書が有効であり、義母の意思であっても、法定相続人である義兄が何の財産も受ける事ができないのであれば、納得できず紛争になることは想像に難くありません。

そして、民法では、法定相続人に「遺留分」という権利を認め、義兄には本来相続できる割合の2分の1を請求する権利があるのです。当然「遺留分」は請求しなければ受け取る事は出来ませんが、この「遺留分」の請求期限は、「相続の開始を知ったとき」もしくは「遺留分が侵害されたことを知ったとき」から1年以内に請求しなければ権利は消滅するとされています。

「遺留分」についてはあなたのお子さんたちにも同様に請求する権利はありますが、権利は主張しなければ実現されることはありませんし、仮に相談者に全ての財産を遺す旨の遺言書を作成したのであれば、家庭裁判所に「遺留分の放棄の許可」の申し立てを行うことで、遺留分を請求することもできなくなります。

なお、言うまでもありませんが、遺言書を作成する場合には、様々な点に留意し、後々のトラブルを避ける為には、公正証書による遺言を作成することがよいと思料します。

 

■養子縁組

遺言書の作成が難しい場合、相談者には何の権利もありませんので、義母の相続財産を得る為に、相談者のあなたが、義母と養子縁組をすることも一つの方法と考えます。
養子縁組には特別養子と普通養子がありますが、今回の場合は普通養子となりますので、その条件について説明します。

1 養親と養子の双方に養子縁組をする意志があること。
2 養親が成人していること。
3 養子が、養親の尊属または年長者(年上)でないこと(養親より、生まれが1日でも後であれば養子となることは可能です)。
4 養子が養親の嫡出子または養子でないこと(実子は養子にできません)。

注:このほかにも、養子や養親に配偶者がいる場合にはその同意が必要なこと、未成年者を養子にするには家庭裁判所の許可を得ることが必要なこと等細かい条件が定められていますが、今回はそれらを含め全て条件を満たしているとします。

養子縁組をし、相談者が法定相続人となれば、相談者は3分の1の権利を有します。

なお、相談者の2人のお子さんも、条件が揃えば祖母との間での養子縁組は可能で、その場合には、相談者の権利は4分に1へと縮小されます。

 

■まとめ

義母の資産の1億5千万円にかかる相続税は、基礎控除を差し引きし、課税遺産総額にそれぞれの割合に応じた金額に税率が加算し算出します。
基礎控除額は、相続放棄をした場合でも、基礎控除の計算上では、法定相続人の数に含んで計算します。しかし、養子の数は、実子がいる場合、養子は1人まで、実子がない場合には2人までと限定され、控除の対象と定められています。

① 法定相続人が義兄・子・子の場合

3000万円+600万円×3(法定相続人の数)=4800万円
1億5千万円-4800万円=1億2000万円(課税遺産総額)

② 養子縁組により法定相続人が相談者・義兄・子・子の場合

3000万円+600×4(法定相続人の数)=5400万円
1億5千万円-5400万円=1億2000万円(課税遺産総額)

相談者の希望である「より多く財産を受け取る方法」は、義母にしかるべき内容で公正証書遺言を作成してもらい、義兄からの「遺留分」の請求に対しては、法定相続分のさらに2分の1を支払い、2人のお子さんには遺留分の放棄をしてもらう、そして、養子縁組もする事ができれば、法定相続人となることによって、義兄の遺留分は減り、相続税の2割増しも回避できるわけです。

勿論、義兄の相続放棄が可能であれば「遺留分」もなくなり、相談者が唯一の「法定相続人」となり、義母の全財産を手中にする事が出来るわけです。

円満な相続が行われ、残された遺族が、平穏で永劫的に人間関係の継続が出来ることが一番ですが、相談者の方にも多くの思いがあるようですので、ご自身が納得出来る形で、将来的な相続の手続きが進まれていく事を願っております。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。