2017年5月29日から、全国の法務局にて「法定相続情報証明制度」が始まりました。この制度を利用することによって、各種相続手続きが簡単にできるようになります。

 相続手続きが簡単にできるとはどういう意味なのでしょうか?
 この制度について、詳しくみていきましょう!

戸籍謄本一式の代わり!?法定相続情報証明書とは?

 「法定相続情報証明書」とは、法務局で発行してもらえる、戸籍を簡素化した証明書のことを言います。

 法定相続情報証明制度は、相続人又は代理人が作成した「法定相続情報一覧図(法定相続人に関する情報を一覧図にしたもの)」や戸籍・除籍謄本などを法務局に提出をし、法定相続人が誰であるかを、登記官が内容のチェックを行い、証明するものです。
 法定相続情報一覧図を法務局で保管してもらうことによって、以降5年間は、法務局にて法定相続情報証明書(法定相続情報一覧図の写し)が無料で交付してもらえることになりました。

 では、その法定相続情報証明書は一体何に使うのかという話ですが、例えば相続登記や相続した預貯金の引き出しなどに使うことができます。
 今までは戸籍謄本などを一式そろえて、それぞれ法務局や金融機関に提出していましたが、法定相続情報証明書を使うことによって、相続手続きが簡単になるというわけです。

 この法定相続証明制度ができた背景には、相続登記(相続による所有者の名義変更)が長年なされず、所有者が不明な土地が増えていることがあります。
 相続登記をしないことに罰則がないのが原因だと言えます。
 実際に、法務省の調べでは50年以上相続登記がされていない不動産は、大都市地域で6.6%、中小都市や中山間地域では26.6%にも上るそうです。
 
 そこで、この状態をどうにかするために相続手続きを簡素化し、相続登記を促進していこうという目的で、運用が開始された制度です。

 どう簡単になるのか?という点は、次のメリットで確認していきましょう!

法定相続情報証明制度のメリット

 法定相続情報制度には3つのメリットがあります。

 

①相続関係を証明する戸籍謄本一式の代わりとして1枚提出するだけ!

  これまでは、法務局で相続登記をする際や、金融機関で預貯金や株券の相続をする際には、被相続人(亡くなった方)と相続人の戸籍謄本の一式を用意しなければなりませんでした。
  法定相続情報制度を利用すると、戸籍謄本一式の内容が1枚にまとまった法定相続情報証明書たった1枚準備するだけで良くなるのです。

 

②相続手続きの金銭負担が軽減できる!

  被相続人が複数の銀行口座を所有していたり、法務局の管轄の異なる土地を複数所有していたり、また保険会社と契約していたり…という場合には、それぞれ相続手続きをしなければなりません。
  そうなると、それぞれ戸籍謄本一式を提出しなければなりませんが、戸籍謄本は一通450円、除籍謄本だと750円、遠方から取り寄せる場合はさらに送料がかかりますので、複数枚準備をするのはあまりにお金がかかります。そのため、戸籍謄本一式を一式だけ準備して、順番に手続きを進めていく方が多いのではないかと思います。

  しかし、法定相続情報証明書は無料です。何枚準備しても、お金がかからないのです。

 

③相続手続きの時間短縮ができる!

  法定相続情報証明書は無料ですので、複数枚準備しておけば、これまでのように戸籍謄本一式が返却されるのを待って次の手続きをしなくてもよくなります。
  各機関での相続手続きが同時進行できますので、時間短縮ができるというわけです。もう何か月も時間をかけて相続手続きをしなくてもいいということですね!

 これは本当にかなり画期的というか…むしろどうして早く運用してくれなかったのだろうというレベルの内容です。デメリットが見つかりません。

法定相続情報証明制度を利用する際のポイント

 とは言っても、この制度はまだ始まったばかりです。
 制度を利用する前に、次のポイントについてチェックをしておきましょう。

 

①利用できるのは法務局と一部の機関

  法定相続情報証明制度の運用が開始されているのは、法務局と一部大手金融機関のみだそうです。また、金融機関については、運用するかどうかは各金融機関の判断によるところですので、制度が利用できるかどうかはあらかじめ確認しておく必要があります。

 

②不動産を所有していなくても制度は利用できる

  そもそもは不動産の相続登記の促進のために運用が開始された制度ですが、相続財産の中に不動産が無くても、この制度は利用することができます。
  例えば金融機関の名義変更や、車の名義変更などにも使用できるとされています。

  ただし、戸籍謄本一式が必要な相続税の申告の添付資料としてはまだ使用することができません。相続税の申告の際には戸籍謄本一式を準備しなければなりません。

 

③被相続人と相続人が日本戸籍を有していること

  法定相続情報証明制度の申出には、戸籍謄本などが必要ですので、被相続人と相続人が全員、日本国籍を有していなければこの制度を利用することはできません。

 

④法定相続情報証明書だけでは相続登記はできない

  この法定相続情報証明書は戸籍謄本一式の代わりとなるものですが、これだけでは相続登記はできません。あくまで代わりということです。
  相続登記をするには、従来通り申請書や、遺産分割協議書などの必要書類と共に、戸籍謄本一式の代わりとして法定相続情報証明書を添付します。

法定相続情報証明制度に関する良くある質問

 ●手数料がかかるの?
  戸籍謄本などの取得には手数料や場合によっては送料がかかりますが、その他の費用は一切かかりません。法務局で登記をする際には登録免許税が必要ですが、法定相続情報証明制度は申請も、法定相続情報証明書の発行も無料でできます。

  ただし、弁護士さんなどの専門家に依頼して申請をする場合は、別途代理の手数料がかかります。費用は専門家によって異なり、安くても15,000円~だそうです。

 ●申出の手続きを専門家に頼みたいが誰に頼めばいいの?
  申出の手続は,次の専門家に依頼することができます。
・弁護士 ・司法書士 ・土地家屋調査士 ・税理士・社会保険労務士 ・弁理士 ・海事代理士 ・行政書士
※この制度の委任による代理は,上記の専門家の他,申出人の親族に限られています。
  
 ●申出に使った戸籍謄本は返却してもらえるの?
  提出した戸籍謄本は、法定相続情報証明書を交付される際に併せて返却されます。

 ●法定相続情報一覧図に記載する被相続人との続柄は、戸籍に記載されている続柄でないといけないの?
  (通常戸籍には「長男」などとなっていますが)申出人の選択によって、続柄を「子」と記載することも差し支えないそうです。
  ただし、「子」とした場合には、他の申告をする際に法定相続情報証明書が利用できない手続きもあるそうですので、「子」としたい場合はご注意ください。

まとめ

 法定相続情報証明制度について初めて知った時は、本当に素晴らしい制度ができたなと感じました。これまで長時間かかっていた相続手続きがスピーディーに終わらせられること、複数枚持ち歩かなければならなかった戸籍謄本一式が一枚で済むこと、良いことだらけです。
 少しでも多くの方が、この制度を利用して相続登記を進めて下さればいいなと心から思います。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。