【相談内容】
この度、父が亡くなりました。

父母は離婚しており、長い間、父とは疎遠になっていたため、父が亡くなった事実は、父方の親戚から、葬儀も四十九日も済んだ後に聞かされました。その際、父が再婚していたことと、後妻には連れ子が2人(男女1人ずつ)いたことを知りました。

また、父は自分で小さな工務店を営んでおりましたが、その事業は後妻の連れ子のうちの男子が引き継ぐこととなったことを聞きました。
そして、その直後に家庭裁判所から通知が届きました。父は生前に自筆の遺言書を遺していたようで、検認手続のための検認期日のお知らせの通知でした。

姉に相談したところ、姉は父母の離婚に際して、父に対して嫌悪感を抱いていたこともあり、一切関り合いになりたくないから、という理由で欠席しましたが、わたしは指定された期日に裁判所に行き、検認に立ち会いました。

開封された遺言書によると、工務店の跡継である後妻の連れ子にすべて相続させるような内容になっていました。
遺産の内容については明記されておらず、どんな財産があるのかよくわかりません。自営であったことから、事業資金の借入れもあると思いますが、負債がいくら残っているのかもわかりません。

わたしは姉とは違い、もらえる分があるのであればもらいたいと思いますが、負債があるのであれば相続放棄もやむなしと思っています。しかしながら、相続放棄の手続は3か月以内にしなければならないと聞きましたが、時間がありません。どうしたらいいでしょうか。

【回答】
今回の事例の場合、相続財産の確認をした上で、相続するのであれば「遺留分減殺請求」、負債が多くて相続しないのであれば「相続放棄」のいずれかを検討することになるのではないかと思います。

民法では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(民法第896条)と定めており、一旦相続すると、所謂プラスの財産だけでなく、負債のようなマイナスの財産も承継することになります。
したがって、本事例のように、プラスだけでなくマイナスの財産もあるような場合には、相続するか否かは慎重に検討しなければなりません。

ご相談者は、相続放棄の期限について心配していますが、相続放棄の期限については、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、相続について単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。(民法第915条1項本文)」と定められています。

したがって、本来の相続の開始した時から日数が経過していたとしても、「自己のために相続の開始があったことを知った時」、つまり、親戚から亡くなった事実を聞いた時が、3ヵ月(この期間を「熟慮期間」と言います)の起算日となりますので、そこまで焦る必要はないかと思います。

しかしながら、相続放棄を選択する可能性が残っているのであれば、期限が定まっていることには変わりはないため、速やかに相続財産の確認を行いましょう。そのためには、遺留分減殺請求の相手方である、後妻の連れ子に対して、相続財産の内容(財産目録)の開示を求めましょう。

相手方が協力的で、すぐに財産目録が開示されればいいのですが、相手方が非協力的であったり、中には、遺言書を盾にして、自分がすべて相続するのだから関係ないなどと主張したりして、財産目録を開示してもらえない、なんていう場合もあるようです。
そうすると、相続放棄の申立ての期限である3ヵ月が経過してしまう可能性も出てきてしまいます。

このような場合に備えて、民法では「この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。(民法第915条但書)」と定めており、相続人などの利害関係人が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続の開始したことを知った時から3ヵ月以内に、「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てをすることによって、この熟慮期間の伸長が認められる場合があるのです。

他にも、たとえば、被相続人が会社を経営していたりすると、会社と個人でそれぞれ財産があり遺産の構成が複雑であることが多かったり、遺産の所在が各地に分散していたりすると、3ヵ月の熟慮期間内ではその全容を把握することができないということもあるでしょうし、相続人が海外に居住しているなどの事情で、3ヵ月の熟慮期間内では容易に被相続人の遺産の調査ができない場合もあるでしょう。

また、限定承認をする場合には、共同相続人全員で協議をする必要があり、3ヵ月の熟慮期間内ではその協議ができない場合も考えられます。
家庭裁判所は、相続の承認又は放棄の期間伸長の申立に対し、遺産構成の複雑さや遺産の所在、相続人が遠隔地居住の状況などを考慮してその当否を判断するとされているため、必ず認められるわけではないことに注意が必要です。

また、熟慮期間は相続人毎に進行していくことになるので、相続人が複数いる場合には、申立ては各相続人が行わなければならないことに注意が必要です。また、期間の伸長は各共同相続人について個別に判断された上で、認められるものであり、相続人中の1人について期間伸長が認められたとしても、ほかの共同相続人の熟慮期間には影響しません。

今回の相談事例のように、被相続人や他の相続人と疎遠だったりすると、遺産分割協議がまとまりにくいことは多いようです。特に、負債を含む遺産分割協議であれば、場合によっては相続放棄も検討することになるでしょう。

繰り返しになりますが、相続については、まずは熟慮期間内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択しなければなりません。
3ヵ月という期間は、あっという間です。もし、どうしたらいいのかわからなくなったときには、お気軽にご相談ください。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。