被相続人(亡くなった方)の死亡により相続が開始します。
相続が開始したら、相続人は遺産相続をすることとなりますが、その遺産は必ず相続しなければならないのでしょうか?
相続をするということは、プラスの遺産だけではなく、借金などのマイナスの遺産も一緒に相続しなければなりません。
マイナスの遺産まで相続したくない、また、マイナスの遺産が無かった場合でも他の相続人に遺産を全部相続してもらいたい、など様々な理由で「相続をしたくない」方がいらっしゃるのではないでしょうか。
相続をしたくない場合には「相続放棄」という手続きにより、遺産を放棄することができます。相続放棄をするには、「相続放棄申述書」が必要です。
相続放棄申述書について、みていきましょう。
相続放棄申述書とは?
相続放棄申述書とは、相続放棄がしたいという旨を、家庭裁判所に申し述べるために、家庭裁判所に提出する書面のことをいいます。
提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄する家庭裁判所は、裁判所のホームページから確認することができます。
提出後、家庭裁判所から「相続放棄照会書、相続放棄回答書」という書面が送付されてきます。この書面に必要事項を記入し、送り返します。そしてまた家庭裁判所にて審理が再開し、問題が無ければ、相続放棄申述が受理されます。
ちなみにこの照会書で、次のような内容が聞かれます。
・相続放棄は自分の意思か?
・被相続人の死亡をいつ知ったか?
・なぜ相続放棄をするのか?
・相続放棄の意思は変わらないか?
などです。
相続放棄申述が受理されると、「相続放棄申述受理通知書」という書面が送付されます。この書面によって、相続放棄の手続きが完了したことがわかります。
相続放棄申述書の書き方
相続放棄申述書は、家庭裁判所にて書類一式をもらうことができます。
また、裁判所のホームページからもダウンロードが可能です。ただし、20歳以上か20歳未満かでフォーマットが異なりますので、ダウンロードの際はご注意ください。
申述書は、太枠内を記入していきます。内容としては次のようなものです。
・提出する家庭裁判所
・提出年月日
・申述人の記名押印(押印は認印で良いですが、その後も手続きは続くので、どの印鑑を使ったかは覚えておく必要があります。)
・添付書類のチェック(添付書類については後述)
・申述人の本籍、住所、氏名、生年月日、職業、被相続人との関係
・(いれば)法定代理人
・被相続人の本籍、住所、氏名、死亡時の職業、死亡日
・申述の理由
・放棄の理由
・相続財産の概略
●放棄の理由
放棄の理由については当てはまる理由の番号に丸を付けるようになっていますが、その番号に当てはまる理由が無い時は自分で理由を記入しなければなりません。その際は具体的に理由を記入しておきましょう。(例えば「債務が多すぎるため支払不可能」など)
●遺産相続の概略
資産や負債を記入します。ここには相続放棄申述書の提出時点で把握している遺産の額を、わかる範囲で記入すれば大丈夫です。1円単位で細かく記入する必要はありません。
相続放棄申述書の添付書類
遺産放棄の申述には、相続放棄申述書の他に、次のような添付書類が必要となります。
・申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本(または除籍謄本・改正戸籍謄本)
・被相続人の住民票除票または戸籍の附票
・(申述人が被相続人の配偶者・又は子である場合)被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(または除籍謄本・改正戸籍謄本)
添付書類については、家庭裁判所によって他にも求められる可能性があります。一度管轄の家庭裁判所に確認しておいた方が良いでしょう。
また、被相続人との関係によって必要書類が異なります(例えば被相続人の甥・姪などは別途書類が必要です)。
相続放棄申告にかかる費用
相続放棄に関する費用は、自分で申告するか、プロの弁護士や司法書士に依頼して申告するかによって、異なります。それぞれいくらぐらいかかるのかみてみましょう。
●自分で申告した場合
自分で申告をした場合、相続人一人につき約3,000円程度で済みます。内訳は次のようになっています。
・相続放棄申述書に添付する収入印紙…800円
・被相続人の戸籍謄本…450円(被相続人の配偶者が申請する場合は不要です)
・被相続人の除籍謄本、改製原戸籍謄本…750円
・被相続人の住民票…約300円(自治体によって異なります)
・申述人の戸籍謄本…450円
・郵便切手…約500円(後日家庭裁判所から書類を郵送してもらうためのもので、各家庭裁判所によって異なります)
・その他(交通費など)
●司法書士に依頼した場合
司法書士に依頼した場合は、約30,000円の費用がかかります。
しかし、依頼した時期が相続放棄の期限である「自己のために相続があった事を知った日から3ヶ月以内」なのか、「3ヶ月を過ぎた後」なのかによって費用が異なりますので注意が必要です。
3ヶ月を過ぎた後は、上申書(事情説明書)の作成などによって、料金が上乗せされるからです。
費用については各司法書士事務所によって異なります。
●弁護士に依頼した場合
弁護士に依頼した場合は、50,000円以上の費用がかかります。
費用については各弁護士事務所によって異なります。
少し費用が高く感じますが、弁護士に依頼した場合が良いケースがあります。次でその理由をお話しします。
相続放棄申述を弁護士に依頼したほうが良いケース
相続放棄申述は、そこまで難しくないのですが、場合によっては弁護士(または司法書士)に依頼したほうが良いケースがあります。次のようなケースです。
●相続人の間で争いがある場合
例えばマイナスの遺産がある状態で、不動産などの遺産が欲しい相続人がいる場合、自分が相続放棄をしたら、マイナスの遺産がその相続人に残ってしまいます。するとその相続人は負担が大きくなるのでトラブルの原因となります。このような場合には弁護士に相談したほうが良いでしょう。
また、多額の借金などがあった場合は、債権者から催促される可能性があります。もしも闇金などからの借金だった場合、弁護士に間に入って取り立てを止めてもらうことができます。
ちなみに司法書士は、書類作成以外の代理権がほとんどありませんので、債権者への対応もできることが少ないです。
相続人間のトラブルや、債権者とのトラブルがある場合は、弁護士に依頼しましょう。
●相続放棄の手続きを丸々任せてしまいたい場合
相続放棄の手続きを丸々任せてしまいたい場合は、弁護士に依頼しましょう。
司法書士に依頼した場合、代理権は書類作成がメインですので、書類の提出を自分でしなければならなかったり、申述人の署名捺印をしなければならない書類があったりします。
弁護士であれば、代理権は完全代理となりますので、すべてを任せることができます。
ただし、費用については司法書士のほうが安く済みますので、マイナスの遺産も無く、相続人間のトラブルも少ないようでしたら、弁護士に依頼しなくてもよいのではないでしょうか。
ちなみに遺産分割協議でも、相続放棄に似たようなことができます。例えば「一切の遺産をもらわない代わりに、一切の負債も背負わない」と言った内容にすることができます。
ただし、この遺産分割協議はあくまで相続人間でのやりとりですので、借金などがあった場合、債権者からすると協議に参加していませんし、知った事ではありません。
つまり、遺産分割協議で相続放棄のようなことをしても、支払い義務は残ってしまうということです。本当にマイナスの遺産を背負いたくない場合は、必ず相続放棄をしましょう。
まとめ
様々な理由により、遺産を放棄したい方がいらっしゃるのではないかと思います。
相続放棄自体は他の相続人の許可もいらず、単独でできるので簡単ですが、その後トラブルにならないように、遺産の状態を把握し、場合によってはプロの弁護士や司法書士に依頼をするほうがよさそうですね。
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