私の実の両親は,私が幼少の頃に離婚しており,私は母親に引き取られました。母親はその後,再婚し,新しい父親との間に弟もいます。

先日,実の父親の再婚相手からの手紙で,父親が亡くなったこと,及び相続放棄をしてほしい旨の連絡があり,とても驚いています。
そもそも私は,両親が離婚した際に母親に引き取られており,実の父親とは20年以上疎遠でした。今は新しい父親もいるため,今回亡くなった父親の相続には関係ないと思うのですが,私は相続人になるのでしょうか。
もし,私が亡くなった父親の相続人となる場合,今の父親の相続人にはなれないのでしょうか。

1 離婚と相続

離婚の場合,婚姻期間中に夫婦で築いた財産を分割するための財産分与や,未成年の子がいれば,その子どもが一定の年齢に達するまでにかかる様々な費用を負担するための養育費,または相手方に与えた精神的苦痛に対する賠償金としての慰謝料などについては,夫婦間の協議により取り決めをすることも多いと思いますが,離婚の際に相続のことまで考える方はそんなに多くないかもしれません。

離婚をした夫婦のどちらか一方が亡くなった場合,残った元配偶者には相続する権利は一切ありません。
ところが,その離婚した夫婦の間に子がいた場合はどうでしょうか。夫婦が離婚すれば他人になり,お互いに相続する権利を失いますが,子はいつまでたっても子であり,親子関係が切れることはありません。したがって,子は離婚した父親・母親双方についての相続人になるのです。
実子なのか養子なのか,嫡出子なのか非嫡出子なのかは関係なく,子は両親の離婚とは無関係に父親・母親双方の相続人となるのです。

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2 前婚の子と後婚の子

たとえば,離婚する際に未成年の子Aがいて,親権者を妻と定めたとします。そして,離婚後,新たに作成されたその妻の戸籍にAが入籍したとすると(離婚して妻が夫の籍から抜けたとしても,親権を定めた子が自動的に妻の戸籍に異動することはないので,必要に応じて異動させなければなりません),当然に夫の戸籍からはAが抜けることとなります。
しかしながら,上記のとおり,戸籍から抜けたからといって赤の他人になるということではなく,実子であることはいつまでも変わらないため,Aは元夫が亡くなった場合も相続人となるのです。

したがって,離婚した元夫が再婚し,その再婚相手との間に子ができたとして,元夫が亡くなった場合,再婚相手である後妻とその子ども,及び前妻との間の子どもであるAが法定相続人となるのです。

同様に,離婚した元妻が再婚した場合,Aは元妻(母親)の再婚相手と養子縁組することで,再婚相手との親子関係が生じます。
それによって,Aは再婚相手の後夫が亡くなった場合の法定相続人にもなりますし,実の父親である元夫の法定相続人にもなり得るのです。
再婚後,元夫が新しい家庭を築いたことをきっかけに前妻との子と長年にわたり疎遠になっていたり,そもそも子どもが幼少の頃に離婚し,物心つく前に再婚していたりすると,面識のない親族からの連絡で,実親が亡くなったことを知った,とか,相続が発生してはじめて実父母の存在について知った,などということもあるようです。

そのような状況で,再婚相手や後婚の子から,ある日突然,あなたの実親が亡くなったので遺産分割に協力してください,と言われても,スムーズに遺産分割協議がまとまることが難しいであろうことは,容易に想像できると思います。

以上のことから,今回のご相談者は,お母様が再婚され,既に新しいお父様がいらっしゃるとのことですが,上記のとおり,実のお父様の相続に関しましては,法定相続人となります。つきましては,故人と再婚相手との間に子がいなければ,2分の1の相続権を有することとなります。まずは故人の相続財産の内訳をきちんと確認された上で,相続するのか,それとも放棄をするのかを選択すればよいと思います。

また,実の父親の相続人になったからといって,母親の再婚相手の相続人になれないということはありません。ご相談者が,母親の再婚相手である,新しいお父様の相続人になり得るかどうかは,再婚相手と養子縁組をしているかどうかです。お母様が再婚されたからといって,自動的にその再婚相手と親子関係が生じるわけではありません。ご自身と親の再婚相手が養子縁組されているかどうかは,ご自身や親の戸籍を確認すれば記載されていいます。養子縁組がされていれば,ご相談者はその再婚の相続人にもなるのです。

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3 遺言書を活用しましょう

何度も申し上げるように,両親が離婚しても,それによって親子の縁が切れることはありません。前婚の子が,親の再婚相手やその子と円満な関係が築けている例はそんなに多くはないと思います。遺産相続でのトラブルを少しでも回避するためには,遺言書を作成しておくことをお勧めします。

誰に何を相続させるかを生前に考えて,遺言書を作成しておくことで,遺産分割協議をすることなしに相続の手続きをすることも可能なのです。
ただし,一部の相続人への偏った内容の遺産の分配や,法定相続人以外の者への遺贈であったりすると,民法において,兄弟姉妹以外の法定相続人には,最低限相続できる財産として「遺留分」が認められており,その遺留分を侵害された者は,遺留分が侵害されたことを知った時から1年,若しくは,相続の開始した時から10年間は遺留分減殺請求をすることができることには注意が必要です。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。