父が亡くなりました。
母は、私を産んだ直後に他界しています。それから父は、一人で暮らしており、再婚はしませんでした。
しかし、葬儀の際に顔も知らない女性が参列に来られたので、話を聞いてみると、その方は父と10年以上付き合っており、生活を共にしていたと言うのです。

父から何も聞いていなかった親族らは、大変驚きました。
これだけならまだ良かったのですが、後日問題が発生しました。
この内縁の妻が「亡くなる前から全て自分が面倒を看ていたのだから、半分の遺産は相続する権利があります」、「お父さんとの間に子供がおり、認知もしてもらっています」と主張されたのです。

子供は、私以外には兄と姉の3人しかいないと思っていたので、この女性は嘘をついていると思いました。ですが、父の戸籍を確認すると、たしかに女性の子供が1人認知されていました。
そうなると、内縁の女性が言うとおり、内縁の女性が遺産の半分、そして残りを4人の子供たちで分割しなければならないのでしょうか。

■内縁の妻(夫)の相続権

内縁の妻(夫)は法定相続人として相続権が認められるでしょうか。これは、内縁の配偶者が被相続人の「配偶者」と言えるのかという問題ですね。
相続における「配偶者」というのは、婚姻届を提出し夫婦となられた方を言います。そのため、本件の様に10年以上共に生活をしていたとしても、相続権は認められません。

<内縁の妻(夫)以外に法定相続人がいない場合>

しかし、内縁の妻(夫)は法定相続人となりませんが、被相続人に法定相続人となるべき者が全くいない場合、特別縁故者に対する財産分与の制度を利用することによって、内縁の妻が被相続人の財産を取得できることがあります。

民法は特別縁故者を「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故のあった者」と規定しています(民法第958条の3第1項)
本件の内縁の妻は、10年以上生活を共にし、療養看護を行っているので、「法定相続人が1人もいない場合」は、上記特別縁故者に対する財産分与の制度を利用することにより相続財産を受領する事ができます。

この手続きは、裁判所がどのように判断するか分かりませんから、必ずしも全て認められるとは限りませんし、認定が出るまで相当の時間が掛かりますので、決して簡単なものではありません。
本件は法定相続人である子供らが相続の権利を主張していますので、内縁の妻が財産分与を受けることは難しいでしょう。

<内縁の妻(夫)にも認められる権利がある?>

内縁の妻(夫)は、法定相続人にはなれず相続する権利がないことは上記のとおりです。しかし、「賃借権」は認められる可能性があります。
法律上の夫婦ではなく内縁の妻のため賃借権は相続されないからといって、ただちに居住場所を奪ってしまうというのは「権利の濫用」にあたると判断した裁判例があるのです。
たとえば、被相続人と内縁の妻が、賃貸住宅で生活を共にしていたとします。内縁の妻(夫)には相続する権利がないので、内縁の妻(夫)が相続人に対し法律上の居住権を主張するのは困難であり、直ちに建物を明け渡す必要があるようにも思えます。

しかし、仮にそうだとすると、内縁の妻(夫)の側は、内縁の夫(妻)が亡くなると同時に、それまで平穏に暮らしていた住居を追い出されることになってしまいます。相続権がないとはいえ、これはあまりに厳しい結論となってしまします。

このため、判例では、相続人側の明け渡しを求める必要性や内縁の妻側が明け渡しを強いられることによって被る家計上の打撃などを総合的に考慮し、一定の場合には、相続人からの明け渡しを権利の濫用であるとして明け渡し請求を否定するという救済を行うことがあります。
ですから、相続人側も当然明け渡して貰えると思っていると、そのとおりの結果にならない場合がありますから注意が必要です。

<その他内縁関係に与えられる法的保護>

内縁関係が認められた場合、その当事者には、相続権は認められなくとも、単なる男女交際の関係とは異なる法的な保護が与えられます。すなわち、内縁の夫婦には、婚姻費用の分担など、同居・協力扶助義務といった法律婚に準じた法律関係が発生するものとされています。
例えば、不当な内縁関係の破棄や、不貞行為(不倫)については不法行為となり慰謝料の支払い義務が発生し、内縁関係継続中に共同して構築した財産については財産分与が認められます。

■被相続人が認知した子供の相続権

本件のように、父親がきちんと認知をしていれば、非嫡出子の立場にはなりますが、母親が愛人であろうと内縁の妻であろうと、その子どもには等しく正当な相続権が発生します。(平成25年12月の民法改正までは、非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1でしたが、現在は同等となり婚外子の相続差別問題が解消されました。)

■遺言書があったら

本件は、遺言書はありませんでしたが、「遺産の全てを内縁の妻(夫)に遺贈する」という適正な遺言書があった場合は、遺言の内容が最優先されますので、原則としては遺言通りに相続が執行されることになります。

なお、遺言によっても、相続人の遺留分を侵害することはできませんので、被相続人が財産の全てを内縁の妻(夫)に遺贈した場合など、遺留分侵害が認められるときには、相続人は遺留分減殺請求をすることができます。本件の子供らにも、この遺留分の権利がありますので、上記の様な遺言書があったとしても、遺留分減殺請求をすることが可能です。

遺留分減殺請求の具体的な相談例などは、ここでは割愛させて頂きますが、興味がありましたら以前のコラム(遺留分について教えてください:https://isan-soudan.org/wp/legally_reserved_portion.php 等)でも何度か出てきますので、ご一読下されば幸いです。

■内縁と愛人の違い

結婚をしていない男女の関係であることは共通していますが、社会的な立場は違います。

まず、「愛人」については、一般的に相手に配偶者がいる(既婚者である)ことを認識している上で、交際をしている関係だと解釈されます。
要するに、男女の一方もしくは双方が不倫の関係にある相手の事です。当然、法的保護は何もありませんし、遺言などからこういった事実が発覚した場合は、慰謝料を請求されるなどの可能性もあります。

次に、「内縁の妻(夫)」は「事実婚」とも言い、籍は入ってないけれど事実上夫婦と同様の関係にある事を言います。上記で説明したとおり、法律上でも「婚姻に準ずる関係」として色々と保護されています。

■まとめ

さて本件の事例では、内縁の妻に対して遺贈する旨記載のある遺言書はありませんでした。
ついては、内縁の妻には相続する権利はありませんから、法定相続で言えば認知した子供も含め4人が法定相続人となりますので、内縁の妻の言う「半分の遺産は相続する権利」はありません。

本件では、協議の結果、認知した子供の相続分を増やすことで決着しましたが、相続人ではない内縁の妻に、例えば遺産から現金を渡すとなると相続人からの贈与になると考えます。そうなると、別途贈与税など税金の問題が発生する場合がありますので注意が必要です。

■最後に

相続人には相続人の、内縁の方には内縁の方の主張があります。
話し合いで簡単にまとまれば良いのですが、感情的な問題に発展した場合、当事者同士ではなかなか解決出来ません。そうなると時間がかかるうえに、精神的な負担も大きいです。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
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