亡くなった母の預貯金を下ろしたいが、法定相続人のうち1人と連絡がとれず居場所も分かりません。どうすれば手続きをすることができますか?

母親が亡くなり、財産と言えるものは銀行の普通預金と定期預金のみです。
法定相続人は、父親と子供である長女と次女の3人だけなのですが、長女は成人後家を出たきりで、1年に1回突然実家に電話があるだけで勤務先を聞いても携帯電話を聞いても教えてくれず、連絡方法は長女からの連絡を待つしかありません、連絡がつかない長女を除いて遺産分割協議を行うことはできないのでしょうか?という相談から依頼を受けた事案です。

長女の行方不明を理由に相続人を無視することは出来ません。仮に、一部の相続人だけで遺産分割協議を行いまとまったとしても、その遺産分割協議は認められず無効になります。
人は亡くならない限り相続の権利を有し、行方不明だからという理由で権利を奪うことは出来ないのです。遺産分割協議は、あくまでも相続人全員の同意が必要となります。

 

■先ず、相続人を確定する

法定相続人の一部を除いて相続に関する手続きは基本行うことはできないため、相続手続の第一歩は相続人を確定するために亡くなられた方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍の収集を行い、配偶者・子供の有無を確認し、法定相続人を確定します。
次に、法定相続人の最新の戸籍及び住民票を用意するのですが、今回の相談のように今何処にいるのかも分からない場合は、亡くなられた方(被相続人)の戸籍から現在の戸籍を調査することになります。

 

■一言に音信不通といっても

➀連絡先を調べる方法が分からず連絡が取れない場合、
➁生きているはずだが調べても住民届けが提出されてなく居所がつかめない場合、
➂生きているはずではあるが住民届けもされていない状態が7年以上続き生きているかどうかも分からない場合、
があり、➀に関しては相続人を確定するための戸籍の調査と同時に、法定相続人の最新の戸籍及び住民票を用意する際に、行方不明の方の新戸籍を調査し新戸籍の附票を入手することで解決できる場合があります。
しかしながら、➁及び➂については、「不在者財産管理人の選任」や「失踪宣言」という手続きを行う必要があります。

 

■「不在者財産管理人の選任」と「失踪宣言」の違いとは

不在者財産管理人の選任及び失踪宣言は、いずれも相続人が行方不明の時に執る手続きではありますが、法的な効果には大きな違いがあります。

ⅰ 不在者財産管理人の選任は、行方不明者が所有する財産について、行方不明者に代わって財産を管理する管理人を選任し、行方不明者が生存していることを前提として扱う手続きです。
よって、対象者は期間は関係なく、音信不通で行方不明になっているような場合で、手続きにかかる期間は、申立をしてから1ヶ月~3ヶ月位が目安とされています。

ⅱ 失踪宣告は、失踪宣告を受けた行方不明者は法律上死亡したものとして扱う手続きです。
したがって、失踪宣告は一定期間以上生死が不明な場合に限って認められるため、対象者は、生死不明(最後に消息)になってから7年以上経過しているか、火災や地震等によって生死不明になって1年以上経過していることが条件となり、手続きに必要な期間は申立をしてから約1年はかかると言われています。

 

■不在者財産管理人とは

不在者財産管理人は相続人が勝手にこの人と選任できるものではなく、不在者の従来の住所地又は居所地の管轄の家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立を行い、家庭裁判所に選任してもらいます。
不在者財産管理人とは、あくまでも不在者の財産を管理するための人であるため、遺産分割協議に参加したり、協議に同意するといった行為は出来ず、協議に同意をしたり、財産を処分したりする行為を行うためには、別に「不在者財産管理人の権限外行為許可」の手続きを行う必要があります。
かかる手続きも、申立先は不在者財産管理人選任の申立と同じ家庭裁判所であるため、「不在者財産管理人の選任」と「不在者財産管理人の権限外行為許可」の申立を同時に行うと手続きがスムーズに進みます。

 

■失踪宣言とは

失踪宣言も不在者財産管理人選任の申立同様、不在者の従来の住所地又は居所地の管轄の家庭裁判所に失踪宣告を申立、行方不明者が行方不明になった時から7年後に亡くなったものとみなしてもらう手続きです(普通失踪)。普通失踪の場合、行方不明者に子供がいればその子供が相続人となるため、行方不明者の子供も遺産分割協議に参加し遺産を分割する必要があります(代襲相続)。ただし、被相続人が亡くなった後に行方不明者が亡くなったとみなされた場合には、代襲相続ではなく通常の相続として行方不明者の子供が相続人となります。

また、普通失踪以外に、船舶事故や震災等に遭い、その後1年以上生きているかどうかがわからない場合は、普通失踪と同様に失踪宣告の申立ができます(危難失踪)。
今回依頼を受けた長女が行方不明の事案は、戸籍と住民票を調査したところ、住民票が4年前に職権で消除されていたため、不在者財産管理人の申立を行った結果、裁判所の調査により免許証の住所変更がなされていることが判明し、無事長女と遺産分割協議を交わすことが出来ました。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。
相続人と連絡が取れず困っている方は、是非諦めずに専門家に依頼することをお勧め致します。