親から相続した土地や、家を売る

 親が亡くなったとき、亡くなられた人の配偶者もすでに他界している場合は、一般的にその子どもが不動産を相続することになります。でも、相続人である子どもは、自分でマイホームを所有していて実家に住むことを想定していないかもしれませんし、現金が必要なため一刻も早く売却したいと考えるかもしれません。
 そのようなとき、子どもは親から譲られた不動産をすぐに売却することができるのでしょうか。
 
 対象となる不動産が、もしも親の名義になっていたら、子どもが勝手に売却することはできません。不動産の売却は、買主と売主のあいだで売買契約が締結することで成立するものです。
 仮に、相続が発生してからすぐに買主が現れたとしても、肝心の売主が亡くなられているなら、契約を結ぶことができないということになってしまいます。

 焦点となるのは、この不動産の名義が誰になっているかということです。亡くなられた親の名義のままではいつまでたっても売却することができないので、相続人のうちの誰かに名義を変更する必要があります。この変更手続きのことを、相続登記と呼んでいます。

家の売却方法は?

 相続した家を売却するための方法は、4つあります。仲介者を使うやり方や、買取、オークション、個人売買です。順番に解説していきます。

1. 仲介者を使う

 不動産会社と契約を結んで、売却のための買主を不動産会社に探してもらうという一般的な方法です。不動産会社には仲介手数料を支払わなければなりませんが、高額で売却できる可能性があります。

2. 買取

 買取専門業者に依頼するという方法と、仲介者に入ってもらう方法の二通りがあります。
 仲介者が入る場合は、一定期間売却できなかったときに不動産会社で買取してもらうという流れになることがあり、若干価格は下がっても確実に売れる方法です。

3. オークション

 不動産関連のオークションがありますので、これを利用してみるのも一つの方法です。
 不動産会社があいだに入ってくるので、安全に取引することが可能。デメリットとしては、希望価格に達せずに落札が決まってしまうリスクがあるということです。

4. 個人売買

 インターネットを使って個人間で売買する方法です。注意点としては、トラブルが発生しやすいため、専門家の力を借りながら進めるのが好ましいやり方となります。

関わってくる税金には何があるのか

 相続不動産を売却すると、現金収入となりますので喜ばしく感じられるかもしれません。
 ただし、不動産の売却には、さまざまな費用や税金がかかってきます。費用としては印紙税や、不動産売却を手伝ってくれた不動産業者へ支払う仲介手数料が必要です。
 
 税金には、主なものが二つあります。一つは譲渡所得税で、もう一つは登録免許税。

譲渡所得税

 譲渡所得税は、土地や家など不動産を売却したときにかかってくる税金です。不動産売却にかかる費用のなかでは一番高額になると思われます。
 ただし、控除もあります。対象となる不動産が、住居用に作られた建物であることが第一の条件です。

 さらに、譲渡所得が3千万円以下の場合、「マイホーム特例」によって、譲渡所得税を控除できます。

登録免許税

 登録免許税は、その名の通り、登録することにかかってくる税金です。たとえば、不動産を売却するときには、どうしても住所変更登記が必要になります。
 また、抵当権抹消登記というものもあり、これは売主にローンがある場合に限られるのですが、いずれにしても税金がかかってきます。
 普通は、買主が登録免許税を負担します。しかし、ややこしいケースになる場合は売主のほうで負担することも多いです。現住所と登記上の住所が異なるということはしばしば起こることですので、なんら変わったことではありません。

売却後は確定申告を

 相続した不動産を無事に売却できた場合、上述したとおりの税金を納める必要があります。忘れずに、必ず確定申告を行いましょう。
 申告が必要なのは、譲渡所得税です。これは、相続した不動産を売却したときに得た利益を、所得が生じたとして支払わなければならないというもの。そして、これに伴って住民税を支払わなければなりません。
 こうした税金は、他で得ている給与などの所得とは切り離して考える必要があり、これを分離課税と呼んでいます。不動産を売却したことによって得た現金収入を、つねづね受け取っている給与に含めて合算してしまうということがあってはなりません。
 もし、相続によって取得した不動産を売却した場合、そこで利益が生じたならば確定申告を行う必要があるということになります。

 ご存じのとおり、確定申告は、所得があった年の翌年に行います。期日はほぼ毎年決まっており、2月16日から3月15日のあいだです。
 たとえば、2018年9月に売却したなら、2019年2月16日〜2019年3月15日が申告期間となります。

 ただし、提出期限が土・日・祝日の場合は、期限が後ろ倒しになるため、たとえば3月15日が日曜日だった場合は翌日の月曜日に納税すれば大丈夫です。

 確定申告にはいくつかの書類を揃えておく必要があります。申告する段階になって、紛失していることに気がつくと面倒ですので、前もってきちんと整理しておくようにしましょう。必要書類は以下の通りです。

確定申告のための必要書類

  • 確定申告書
  • 譲渡所得の内訳書
  • 売買契約書
  • 所得費及び譲渡費用等の領収書のコピー
  • 譲渡所得申告のチェックシート

 確定申告書は、申告書B第一表と第二表、申告書第三表(分離課税用)を提出することになります。譲渡所得の内訳書は、確定申告書付表兼計算明細書(土地・建物用)を提出。売買契約書とは、買主と売主とのあいだで取引に合意したことを明確に示すものです。
 その他、諸々の領収書は写しが必要となりますので、コピーしてから保管しておきましょう。
 譲渡所得申告のチェックシートは、国税庁のホームページをみると「譲渡所得関係」の項目で公開されています。内容をみると細かいチェック項目がありますが、これに従ってきちんとチェックしていけば、スムーズに納税ができるようになっていて便利です。
 もし不明点があった場合は、税務署や役所へ問い合わせたり、相続の際にお世話になった弁護士さんなどに相談しておくことをおすすめします。

取得費加算の特例とは

 現実問題として、不動産を相続したとしてもそれにかかる相続税の支払いに困り、結局その土地を手放すというケースも少なくありません。
 相続した不動産の価値次第では、税金の方がかさんでしまい、全体でマイナスとなってしまうことも考えられます。たとえば、誰も買い手のつかない過疎化地域の不動産などはこれにあたるでしょう。
 せっかく不動産を相続し、細かい手続きを行っても、それによって支出が生じてしまうようではあまりに実りがないので、これに対して設けられた特例が、取得費加算の特例です。この特例が適用されるには、要件があります。

  1. 相続、あるいは遺贈によって財産を取得した者
  2. 財産を取得した者には、相続税が課税されている
  3. 相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に、財産を譲渡している

 以上のような要件を満たす人は、取得費に加算するべき相続税額を控除されます。譲渡所得のなかから、この税額を差し引くことができるので、支払税額が少なくて済むのです。

まとめ

 親から相続した不動産は、そのままでは売却できないので名義変更が必要です。売却する方法は仲介を使うものからオークションまでさまざまですので、都合に合わせて選びましょう。
 売却後には確定申告が必要なので、ぜひ専門家に相談しながら間違いのないように進めてください。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。