先日、とある司法書士の先生から手紙が届き、わたしの実父が亡くなったとの知らせを受けました。
そして、父親の相続については放棄して欲しい旨が書かれていました。

わたしの両親は、わたしに物心がつく前に離婚しており、わたしは母親と一緒に暮らしてきました。母親はその後再婚し、今は妹もおり、親子4人で仲良く暮らしています。
その手紙によると、亡くなった父親も再婚し、後妻さんとお子さんが2人いらっしゃるようでした。
父親とは父母の離婚後、一度も会ったことも連絡したこともなく、住んでいる場所すら知りません。勿論、そのご家族ともお会いしたことはありません。実父の相続について権利があるとは思ってもみなかったので、どうしたらいいのか悩んでいます。

【回答】

まず、ご相談者は実子である以上、法定相続人となり、両親の離婚によって、配偶者は互いに法定相続人でなくなります。

しかしながら、両親の離婚によって、母親が子の親権や監護権等を得て、子が父親と同居していなかったとしても、父親との親子の縁が切れてしまうわけではありません。子である相談者は第1順位の法定相続人のままであり、当然に父親の相続については権利があります。
つまり、父親の相続については、後妻と後妻と父親の間に生まれた子2人、及び相談者が法定相続人となり、相談者は他の子と同じ割合の相続分を主張することが可能となるのです。

ただし、亡くなられた実父と疎遠だったのであれば、相続財産をよく確認する方がよいでしょう。預貯金や不動産、有価証券などの所謂プラスの財産ばかりであればいいでしょうが、借金など所謂マイナスの財産がある場合などは注意が必要です。
民法では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(民法第896条)と定めており、一旦相続すると、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も承継することになります。プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多かったり、負債しか残っていなかったりするような状況であれば、相続放棄を選択することになると思います。

ここで注意しなければならないのは、プラスの財産もマイナスの財産も両方あるような場合です。たとえば、遺産分割で特定の相続人が、プラスもマイナスも全ての財産を相続すると決めたとしても、それはあくまで相続人間での取り決めであり、万が一、全てを相続するとした相続人の債務の履行が滞れば、債権者は各相続人に対し、法定相続分どおり請求できてしまうのです。

今回の相談事例のように「相続分を放棄して欲しい」と言われた場合などは特に、相続財産の内容をきちんと把握する必要があります。仮に、負債を含む遺産分割の中で自分はなにも相続しない旨の協議書を作成したり、相続分を放棄する旨の書面を作成したりしたとしても、万が一、債務が履行されなければ、法定相続分の債務については請求されてしまう恐れがあるのです。つまり、なにも受け取らないつもりであったにもかかわらず、マイナス分だけ請求されてしまうこともあるということです。

したがって、マイナスの財産を含む遺産分割の中で、たとえば今回の相談事例のように、疎遠だったからなにも相続しない、とか関わり合いになりたくないから、など何らかの事情で相続しないのであれば、念のため相続放棄の手続きをすることも検討する方が良いのではないかと思われます。

相続放棄の手続きは、被相続人に相続が開始されたことを知った時から3か月以内に、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に、その旨を申し立てます。その申し立てが受理されると、その申し立てをした相続人は、はじめから相続人でなかったとみなされます。相続財産の確認に時間がかかり、3か月以内に相続放棄をするのか、しないのかの判断が難しい場合には、相続放棄と同じ、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に対し「相続の承認又は放棄の期間の伸長」という申し立てをして、調査検討する時間(熟慮期間とも言います)を伸ばしてもらうこともできます。
「遺産相続」というと、どうしてもプラスの財産にばかり目が行きがちですが、きちんと相続財産全体を把握した上で、相続するか、若しくは相続放棄をするのかを慎重に検討した方がいいでしょう。

 

切っても切れない親子の縁

様々な理由で、親と疎遠になってしまう場合があるでしょう。
たとえば、子が独立して親元を離れて生活していたり、親子喧嘩がエスカレートして、親から勘当をつきつけられてしまったりするなど、何らかの事情で親と連絡をしなくなってしまう、と
いう場合もあるでしょうし、今回の相談事例のように、両親が離婚しており一方の親と疎遠になってしまうこともあるでしょう。

また、養子縁組をしていれば、養子は養親と生活をしているため、実親とはまったく疎遠になるということもあるでしょう。
しかしながら、いずれの場合でも、実親子関係が消滅することはなく、子は親の相続については、必ず第1順位の法定相続人となるのです。

実親の再婚と養子縁組について

たとえば、今回の事例では、母親は再婚しています。ところが母親が再婚しただけでは、子である相談者と再婚相手には、親子関係は生じません。勿論、「お父さん」と呼ぶこともあるでしょうが、親の再婚だけでは法的な親子関係は生じません。そのような場合に、「養子縁組」の制度が利用されるのです。

「養子縁組」とは、血縁関係のない者、または血縁的には親子関係にあっても嫡出親子関係のない者の間に、法律上の嫡出親子と同一の身分を成立させるための届出であり、市区町村の役場に届出を行うことで成立します。

したがって、相談者と母親の再婚相手は、養子縁組の手続きをすることで初めて、法的な親子関係が生まれ、それによって養親・養子相互に扶養の義務が生じたり、相続する権利を得たりするのです。
つまり、相談者が母親の再婚相手と養子縁組をしていれば、実親の相続だけでなく、養親についても相続することとなります。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。