Q:「相続登記」を怠るとどうなりますか?
A:何代か前の所有者名義のまま放置されている場合は、法定相続人が多数に上る可能性があり、遺産分割協議ができないような場合も少なくありません。

相続登記をしないと生じる様々な不都合

不動産の登記は、不動産をめぐる様々な権利を公証する制度と言えます。一般の個人にも縁のある不動産の権利とそれにかかわる登記をまとめました。

主な不動産の権利には所有権と抵当権があります。前者は不動産を自分で利用するのはもちろん、他人に貸して収益を得たり、必要でなければ処分(売却など)したりできる権利です。
後者は、不動産を担保に融資する場合に、債権者が債務者に不動産の使用を継続させたまま、その価値を支配できる権利です。所有権についての登記には、まず「所有権保存登記」があります。

これは一戸建ての新築、自宅の建て替えのほか分譲マンションを購入した場合に行う登記で、所有権が誰にあるのかを最初に確定する重要が手続きです。

次に「所有権移転登記」例えば、不動産の売買などにより不動産の所有権者が変わった場合などに行う必要があり「相続登記」はこの一種です。「相続登記」とは、被相続人(死亡した人)が所有していた不動産の登記名義を相続人の名義に書き換えることです。被相続人の死亡から原則10ヶ月以内である相続税の申告と異なり、相続登記には申請期限がありません。

そのため、被相続人の名義のまま放置したり、法定相続人の間で話し合うのが面倒なので相続登記をしなかったりというケースがあります。

しかし、相続登記をしないと様々な不都合が生じることがあります。例えば、その土地を売却したくても被相続人の名義のままでは、売買による所有権移転登記ができません。実質的な所有権は移転しているはずですが、その登記がなされていないため誰が所有者なのかわかりません。したがって、現状では売買契約の売主が特定できない状態ですから、安心して売買契約を締結することができません。

相続登記が済んでいない土地の売主の相続登記には時間がかかる恐れがあります。相続登記をするためには、遺言書などがない限り、法定相続人全員により遺産分割協議を行い、全員の印鑑証明書付きの遺産分割協議書を法務局(登記所)に提出する必要があるからです。そのため買い手があきらめてしまうこともあります。

その土地を担保に融資を受けたい場合も、抵当権設定の登記ができないので金融機関は融資に応じません。

 

放棄すると相続人が増えて解決困難に

相続登記が一代されていないだけでも不都合があるのに、時には代々なされていないこともあります。そうした場合、つまり相続登記が長期間なされていないケースでは、難題が前の所有者の名義がそのまま残っているわけです。

相続登記未了で何代か目の所有者名義のまま放置されている場合は、法定相続人が多数に上る可能性があります。
登記上の名義人が三代くらい前の人の場合、法定相続人が20名以上になることも稀ではありません。

一般的に相続権が親から子、子から孫へと世代を重ねるごとに範囲が拡大し、子がない場合には兄弟姉妹にも権利の範囲が広がるため、法定相続人が多数になるのです。

遺言書がない場合は法定相続人全員による遺産分割協議が必要ですが、相続人が増え、相続人同士の間柄が希薄になるにしたがい、話し合いも難しくなると思われます。

一方、法定相続人は民法で規定された法定相続分を有しますので、相続登記がなされていない間は、各相続人が自分の法定相続分だけなら売却することも可能です。
もし、遺産分割協議により自分がその土地を相続することが決まっていた場合でも、相続登記がなされていない間に何らかの事情で別の相続分が自分の法定相続分を売却してしまえば、その土地の一部が他人名義になってしまう恐れもあります。

したがって、相続登記はできるだけ早い時期にすることをお勧めします。
なお、売買、贈与の場合は、買い手または受贈者(登記権利者)と売り手または贈与者(登記義務者)が共同して申請する必要があります。

登記の際には登録免許税を国に納める必要があります。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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