Q:遺産分割協議をやり直すことはできますか?
A:相続人全員の合意があればやり直すことは可能ですが、贈与税が課税されてしまう可能性があるので注意が必要です。

〔やり直しが可能な場合〕

遺産分割のために相続人が話し合う遺産分割協議は、時に心身をすり減らすようなものになることがあります。それでなくても遺産分割協議書を作成したり、名義変更の手続きがあったり煩雑な手続きが多いことから「二度とやりたくない」という人も少なくないでしょう。

ただ、遺産分割協議の際には判明しなかった多額の財産が見つかったり、本来は協議に加える必要がある相続人を除外していたことがわかったりした場合はどうすればいいのでしょうか。
一般に、相続人が遺産分割協議書の内容に同意して署名捺印をすると、遺産分割は終了したことになり、原則としてやり直すことはできません。

しかし、終了した遺産分割協議が実は法律的に無効だったり、相続人がやり直すことに合意している場合は、一旦終了させた遺産分割協議を取り消したり解除したりして、改めて遺産分割協議をやり直すことが可能です。
まず前者ですが、法律的に無効である協議をそのままにしておくわけにはいきませんから、当然、遺産分割協議をやり直すことになります。

もっとも、遺産分割が無効で取り消される場合は非常に限定されています。
まず、相続人の一部が除外されて遺産分割協議が行われた場合です。例えば、当初から父親の前妻の子供が存在することがわかっていたのに、わざとその人を除外して分割した場合や、認知した婚外子を除いて協議を成立させた場合などです。

相続人でない人を加えて分割した場合も法律的には無効で、遺産分割協議をやり直す必要があります。
分割協議をまとめる過程で、一部の相続人をだましたり、脅かしたりした場合も無効です。これは民法上の法律行為・意思表示の無効・取消事由にあたるからです。

ただ、遺産分割協議の内容に関して不履行があったとしても、それを理由として遺産分割協議の無効を主張することはできないとされています。この場合は、遺産分割のやり直しを求めるよりも、合意内容の不履行について、調停や訴訟を通じて履行を求めることが必要です。

〔遺産分割をやり直すと課税されることも〕

法律的に有効で取り消す理由がない場合でも、協議を解除して、遺産分割をやり直すことができる場合があります。
一般に、法律行為を解除するには、当事者のうちの誰かが債務を履行しなかった場合の「債務不履行解除(法定解除)」と、当事者の合意による「合意解除」があります。
遺産分割協議の場合には債務不履行解除は認められませんが、相続人全員の合意によって協議を解除することは可能であるとされています。

遺産分割もほかの契約と同様、民法上の法律行為ですから、相続人全員の合意があれば、遺産分割のやり直しをすることができます。
例えば、いったん協議が成立して協議書までまとめたが、新たに財産が見つかり、それが思いのほか高額だったり、相続財産全体のかなりの部分を占めたりするような場合は、すべての相続人が「遺産分割協議をやり直そう」と主張するはずです。

遺産分割をやり直しても、相続登記上は問題ありません。新しい分割協議書にもとづいて登記し直せばいいのです。
もっとも、遺産分割のやり直しは税務上問題が生じる恐れがあります。
当初の遺産分割協議が無効とされない限り、各相続人は、遺産分割協議によって取得した財産の所有権があります。したがって、遺産分割のやり直しによる財産の再分割は、税務上はある相続人から他の相続人への財産の譲渡もしくは無償の場合は贈与として、所得税または贈与税が課税され、思わぬ税負担が生じる可能性があるからです。

例えば、前の遺産分割協議に基づいていったん相続税の申告書を提出した後に遺産分割協議を合意によってやり直す場合、ある相続人から他の相続人に対する財産の譲渡または贈与として税負担が発生する恐れがあります。
いずれにしても、遺産分割のやり直しはいろいろと面倒ですから、できるだけ1回の遺産分割協議で決着するようにするのがいいでしょう。

■遺産分割をやり直す場合

1 無効な遺産分割のやり直し

【無効な場合とは】
・相続人の一部が除外された場合
・分割時に判明していた相続人を除外した場合
・被相続人が認知した子供を除外した場合
・相続人でない人を加えて遺産分割をした場合
・詐欺や強迫によるなど意思表示に問題がある分割協議
【税務上の取り扱い】
・更生の請求が可能

 

2 相続人の合意による遺産分割のやり直し

・すでに相続登記がされていた場合でも、その相続登記を抹消した上で、新しい遺産分割協議書を添付して相続登記できる
・一度有効に遺産分割行った後に分割協議をやり直した場合は、贈与税がかかる恐れも

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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