相続登記の義務化が開始される見込みがある中、相続税等の財産評価の適正化について理解しておきたいと考えている方が増えています。ここでは廃止された広大地の評価と新設された地積規模の大きな宅地の制度の差異について解説しながら、大きな宅地の相続や贈与に対する節税について詳しく説明していきます。
路線価の廃止とは?
土地評価の路線価の廃止とは、広大地の評価が廃止され新たに地積規模の大きな宅地の評価が設立されたことを意味しています。路線価そのものがすべて廃止され、路線価が発表されなくなるわけではありません。
ここで説明する路線価の廃止とは、広大地の評価が廃止されることにより、広大地の評価で用いていた広大地が路線価に面していた場合の評価方法が廃止されたという意味です。
広大地の評価は平成29年度の税制改正により既に廃止されており、平成30年1月から「地積規模の大きな宅地の評価」が適用されています。地積規模の大きな宅地の評価でも路線価を用いることはありますので、路線価自体が廃止されてしまったと誤解しないよう注意してください。
路線価とは
路線価とは国税庁の公式HP内で次のように説明されています。
相続税や贈与税において土地等の価額は、時価により評価することとされています。しかし、納税者の皆様が相続税等の申告に当たり、土地等についてご自分で時価を把握することは必ずしも容易ではありません。そこで、相続税等の申告の便宜及び課税の公平を図る観点から、国税局(所)では毎年、全国の民有地について、土地等の評価額の基準となる路線価及び評価倍率を定めて公開しています。
路線価の路線とは不特定多数が通行する道路と考えると分かりやすいでしょう。分かりやすく説明すると地域の道路に面する宅地の評価額という意味で、つまり路線価とは道路に面する宅地の評価額から求められる宅地の評価額のことです。課税価格を計算する基準となる評価額になります。
この路線価には、相続税や贈与税の課税価格を計算する基準となる相続税路線価と、固定資産税や不動産取得税、登録免許税を計算する基準となる固定資産税路線価の2種類があります。基本的に路線価と呼ばれている場合には相続税路線価のことを意味していることが多いですが、文脈からどちらの路線価であるか推測しなければならないこともあります。
廃止される理由
広大地の評価が廃止されたのには理由があります。
そもそも相続税の広大地評価とは、一般的な宅地として売却することが難しい広い土地の評価額を下げることのできる評価方法のことです。たとえば戸建てが10軒以上建てられる土地を宅地として売却する場合、広い土地をすべて宅地にするわけにはいきません。道路も必要になりますし、公園も必要となる可能性があります。
こうした道路や公園分の土地が必要となれば、宅地として利用できる面積が減少してしまいます。このような潰れ地や土地が広いことによる利便性の低さにより価値が低下していることを考慮され、広大地は土地の評価額を下げることができたのです。広大地の評価を適用することができた場合、最大で65%もの評価額を下げることが可能であったことから多くの方が利用していた制度です。評価額を下げることで相続税や贈与税の節税効果があります。
しかし、この広大地に関する適用要件はあいまいで、専門家でさえその判断が難しいと言われていました。そのため、本来は広大地として認められない土地が広大地の評価を適用されてしまうケースや、要件を満たしているにも関わらず広大地の評価による税制優遇を受けられないケースが後を絶ちませんでした。
さらにこの広大地の評価は、土地の形状が一切考慮されることがないなど、非常にあいまいな評価方法であることから、問題点が多い制度として平成29年の税制改正により廃止されるに至りました。
いつから始まるのか
広大地の評価は平成29年に廃止されている制度です。平成30年1月から、広大地の評価が廃止されたことにより、地積規模の大きな宅地の評価が新設されています。
そのため平成30年1月1日以降に相続を受けた方から、地積規模の大きな宅地の評価が適用されます。
これまでの土地の評価方法
地積規模の大きな宅地の評価が適用される以前の、広大地の評価ではどのように土地の評価を行っていたのか詳しく説明していきます。路線価方式や倍率方式について理解することは、地積規模の大きな宅地の評価での土地の評価を理解することにもつながりますので、それぞれの土地の評価方法の仕組みについてしっかり理解しておきましょう。
路線価方式
路線価方式は広大地が路線価地域にある場合に用いられた評価方法です。路線価地域にある場合とは単純に、路線価がある地域のことです。
この場合の計算式は次の通りです。
広大地の価額=広大地の面する路線の路線価×広大地補正率×地積 |
広大地の面する路線の路線価は、国税庁の発表している路線価図により調べることができます。 路線価図は誰でも閲覧することが可能です。路線価図は読み方を理解していなければ書かれている内容が分かりにくいものですが、読み方自体は複雑なものではありません。広大地の面する路線の路線価を調べてみると200Aや500Dなどと数字とアルファベットが記載されているはずです。2千円単位で記載されていますので200Aが路線価である場合200千円、1平方メートルあたり20万円であることが分かります。数字の後ろのアルファベットは借地権割合を示すものとなっています。
続いて広大地補正率は地積(土地の面積)により決定するもので、次のような計算式で求めることができます。
広大地補正率=0.6-0.05×(評価対象地積÷1000㎡) |
これをもとに計算すると広大地補正率は次のようになります。
地積 | 広大地補正率 |
500㎡ | 57.5% |
1000㎡ | 55.0% |
2000㎡ | 50.0% |
3000㎡ | 45.0% |
4000㎡ | 40.0% |
5000㎡ | 35.0% |
倍率方式
広大地に面する路線価がない場合には倍率方式にて計算します。
この場合の計算式は次の通りです。
広大地の価額=広大地の倍率×広大地補正率×地積 |
広大地の倍率は国税庁の公式HPから確認することができます。路線価図同様、路線価図・評価倍率表を開きます。路線価が設定されていない場合、都道府県の評価倍率表から、倍率を確認してください。
広大地補正率は路線価方法時に説明した計算式となります。
実売価格
実売価格は実際に売買される(と予想される)価格のことですが、専門的には実勢価格と言います。実勢価格には明確な定義はありません。近隣での取引事例や経済状況、公共データ等から判断されることが多いです。
広大地の評価では直接的に実売価格(実勢価格)を用いて評価額を計算することはありません。しかし目安の1つとして実売価格(実勢価格)を調べることはあります。基本的に広大地の評価では、実売価格(実勢価格)を下回る評価額が算出されることが多いです。
これまでの土地評価方法の問題点
これまでの土地評価方法の問題点は、広大地であればどのような地形であっても一律で補正率を適用していた点にあります。路線価方式でも倍率方式でも、広大地の評価で適用される補正率は一律でした。そのため不整形地も整形地も同じ補正率となり、土地の形状によっては実売価格(実勢価格)を大幅に下回る評価額が算出されること も珍しいことではありませんでした。これによりメリットを感じていた方もいる一方、相続人間での不満が生じるケースも多く、相続人間で不公平が生じることにより遺留分相殺請求が行われることもありました。
また広大地の評価はその適用基準があいまいであることから、適用地であるか否かの判断が難しく制度をただしく活用することができない事例も数多かったのです。
今後の土地の評価方法は?
広大地の評価が廃止され、平成30年1月から地積規模の大きな宅地の評価が新設されています。この地積規模の大きな宅地の評価は、従来の広大地の評価に比べさまざまな点が改正されています。
今後広大な土地を相続した方に向けて、地積規模の大きな宅地の評価について詳しく説明してきます。
地積規模の大きな宅地の評価の適用条件4つ
地積規模の大きな宅地の評価の適用条件について詳しく説明していきます。地積とは、土地の面積のことを意味しています。そのため分かりやすく表現するのであれば、地積規模の大きな宅地の評価とは、土地の面積の大きな宅地の評価方法のことを意味しています。
この評価方法は、広大地の評価が廃止されたことにより新設された評価方法で、広大地の評価が改正されたものと考えて良いでしょう。地積規模の大きな宅地の評価の適用条件は3つあります。
地積規模の大きな宅地の評価の適用条件 |
1.一定の面積以上であること |
2. 普通住宅地区や普通商業・併用住宅地区であること |
3.1と2に該当していた場合でも除外区域ではないこと |
1つ目は一定以上の面積であることです。地積規模の大きな宅地とは、三大都市圏内であれば500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上である必要があります。三大都市圏内とは、首都圏、中部圏、近畿圏の中の対象となる地域のことで、多くの場合は市町村ごとに対象地域が定められています。この三大都市圏に該当するかどうかについては、国土情報ウェブマッピングシステムで確認することもできますし、各市町村の役所にて確認することもできます。
2つ目は、普通住宅地区や普通商業・併用住宅地区であることです。該当する地区であるかどうかは、路線価図に記載されている地区区分確認することができます。そのため国税庁公式HP内から路線図を確認するか、あるいは各市町村の役所にて確認することができます。
そして3つ目は除外区域ではないことです。除外区域とは、開発不可能な市街化調整区域、工業専用地域、指定容積率が400%の地域(東京都23区の場合は300%)のいずれかに該当している区域のことです。容積率には指定容積率の他、基準容積率がありますので注意しましょう。指定容積率は役所にて都市計画図を見ることで確認できます。
このように地積規模の宅地の評価の適用条件は、宅地について路線価図や都市計画図などさまざまな情報を収集し確認していかなくてはなりません。そのためやや複雑であると感じられる方も多いですが、適用条件がこのように明確になったことにより、従来の評価方法に比べ非常に分かりやすくなっています。 広大地の評価の問題点が改正されたと言えるでしょう。
地積規模の大きな宅地の評価の詳細
そもそも地積規模の大きな宅地の評価とは、どのようなものでどのような方が行うべきものなのでしょうか。
結論から言いますと、地積規模の宅地の評価は広すぎる土地の評価額を減額することができる制度で、土地を相続した方や贈与を受けた方が行うべきものです。 減額補正を行うことにより、支払う必要のある相続税や贈与税を減額することができるためです。
地積規模の大きな宅地の評価は次のような計算式で行います。
地積規模の大きな宅地の評価額=路線価×各種補正率×規模格差補正率×地積 |
各種補正率とは、標準的な宅地に比べて奥行きが長いものや短いものに対して奥行価格補正、いびつな形である不整形地補正などです。さらに各種補正率のみならず規模格差補正率によっても、補正を行っていきます。
これにより、より具体的な数字を用いて土地の評価額を減額することができるようになりました。
地積規模の大きな宅地の評価の従来制度との違い
地積規模の大きな宅地の評価制度の従来制度との大きな違いは3点あります。
1つ目は制度利用の基準が明確化したことです。従来の制度では専門家の間でも制度を利用することができるかどうか分かりにくい点が多く、実際適用されるはずの土地が適用外とされたり、本来適用されない土地が適用されない等トラブルが起こっていました。本制度により、制度の利用基準が明確化されたことで、制度を利用する負担が大きく減ると共に、適切な制度利用が行なえるようになっています。
続いて2つ目は、制度を利用することのできる土地が広がったことです。従来の制度で適用外であったマンション用地、開発道路の負担のない土地、道路に沿って区画整備できる土地も、地積規模の大きな宅地の評価制度を利用することができます。
最後3つ目は、減額効果が減少する土地もある という点です。従来制度よりも、より土地の地形等に補正率を導入することにより、従来の制度よりも土地評価額は高くなると言えます。これは、より具体的に土地評価を行うことができるようになったためです。
このように地積規模の大きな宅地の評価は、従来は制度を利用できなかった方々にとって非常に魅力ある制度ではあるものの、従来の制度により適用を受けていた土地に関してはその条件が厳しくなるという問題や、土地評価額が高くなるという問題もあります。
従来制度との適用地の試算比較
広大地の評価と地積規模の大きな宅地の評価では、どの程度土地評価額が変わるのか試算していみましょう。どちらも適用条件を満たしていると仮定します。
三大都市圏内に路線価90千円の土地面積2000㎡の一般宅地があります。
従来の広大地の評価の場合は、広大地補正率を用いて次のような計算式になります。
90,000×(0.6-0.05×2,000)=88,695,000 |
続いて同一条件で地積規模の大きな宅地の評価を考えていきます。まずは規模格差補正率を計算することになります。
90,000×0.90+75/90,000×0.8=0.72 |
規模格差補正率を導き出したら続いては奥行価格補正率と一緒に計算式にあてはめます。奥行価格補正率は国税庁が発表している奥行価格補正表にて求めることができますが、ここでは地積規模の大きな宅地の評価の試算で用いられることが多い0.95を適用し計算します。
90,000×0.95×0.72×2,000=123,120,000 |
広大地の評価と地積規模の大きな宅地の評価では、地積規模の大きな宅地の評価の方が評価額が高いことが分かります。試算しやすい用大きな数字での計算を行ってはいますが、実にその差は34,425,000円にも及びます。
これだけ大きな補正率の変化があり、評価額に大きな影響を与えることが分かります。
今のうちにできる対策とは
平成30年1月1日以前に相続を受けているものであれば、広大地の評価にて土地評価を行う方が、土地評価額は低くなり、支払うべき税金が少なくて済むと言えるでしょう。そのためできる限り、平成30年1月1日以前に生前贈与を行うことも節税効果が得られる仕組みでした。
しかし現在ではすでに地積規模の大きさな宅地の評価が適用されています。では、もう行うことのできる対策はないのでしょうか?
土地評価額が従来制度より高額になるケースが増加
従来の制度である広大地の評価より土地評価が高くなる可能性のある土地は6つあります。整形地の土地、適用地域外の中小工場地区、指定容積率が300%未満の土地、造成費のない土地、幅員4mの公道に接面する土地、奥行きが24m以上の土地です。
これらの土地では従来制度よりも減価額が少なくなります。もちろん地積規模の大きな宅地の適用により、従来の制度よりも減額額が高くなる土地もあります。条件等によりその差は異なりますが、試算によれば評価額が30%以上増加することもありえます。
土地評価が高くなる土地ではどのような対処を行っていくべきなのでしょうか。
まずは土地の減価要因をすべて知ることが大切です。広大地の評価制度とは異なり、他の補正率との併用が可能になった地積規模の大きな宅地の評価では、減価要因により土地の評価額を下げることができる可能性があります。減価要因を見逃さないことが何より大切です。専門家に相談し、減価要因の見逃しがないことをしっかり確認しましょう。
税務署はたとえ減価要因の見逃しがあった場合でも、その事実を教えてくれるわけではありません。そのため専門家と相談しながら、すべての要因を満たしているかどうか確認するべきです。
地積規模の大きな宅地の評価の適用条件を満たす
地積規模の大きな宅地の評価では、従来に比べ適用されるケースが増えています。しかし、従来の制度では適用地であった土地が面積基準を満たすことができないケースもあります。
この場合、面積基準を満たしておく必要があります。具体的には隣接地の買い増しです。相続または贈与を受ける者が複数であり区画ごとに所有する場合でも同様に、親子で共有するなど自己所有地へとすることで面積を確保しましょう。
この際、登記簿面積での判断は行わずできるかぎり実測を行うべきです。買い増し等負担も大きいものですので、必ず専門家に相談し節税効果がどの程度であるのか具体的な数字で話し合いを行った上で実施してください。
まとめ
広大地の評価が廃止され、地積規模の大きな宅地の評価が新設されたことに伴い、適用条件や土地評価額を導き出す補正率が大きく変更されています。地積規模の大きな宅地の評価は、従来の制度である広大地の評価に比べ適用条件が明確化し、補正率も土地の形状に合わせて考えることができるなど詳細になり、適用地も増えるなど利用しやすい制度になっています。一方、基準があいまいであるからこそ土地評価の減価が高かった土地では、従来よりも評価額が高まります。また適用地が増えたものの、一部では適用外と判断された土地もあるなど注意が必要です。専門家に依頼し減価要因を見逃さないなど対策を行いましょう。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。