■遺贈は誰に対してでもできる

遺贈とは、遺言による財産の贈与のことです。
遺言の制度は、被相続人の生前における最終の意思を法律的に保護し、その人の死後にその実現を図るために設けられているものです。

財産の多い少ないに関わらず、人は誰しも自分の死んだあとのことが気になりますし、できることなら自分の思い通りになってもらいたいと願うものですが、かといって、生前に財産分けを口にするのはかえってトラブルになることもあるため、生前には伝えたくないこともあると思います。

そこで、民法では遺言の制度をつくり、死への旅立ちに心の安心感をあたえています。

 

1、口頭での遺言は無効です。

もっとも、遺言といっても、死の間際になって、家族を呼び寄せ「自分が死んだら、こうしてほしい、ああしてほしい」と口頭 で指示しても、法律的には何の効力もありません。民法で定められた一定の様式を備えた遺言書を作成しておいた場合のみ、法的な効果が与えられています。
遺言でできることはいろいろありますが、一般には財産の処分に関することがほとんどです。
この場合、財産を与える人、つまり遺言をした人を「遺贈者」といい、財産をもらう人を「受遺者」といいます。
したがって、遺贈は遺贈者から受遺者への財産の贈与ということになりますが、贈与とはいえ、人の死亡を原因として財産を取得すると言う点では相続と同じですから受遺者には贈与税ではなく相続税が課税されます。

因みに遺言書で誰かに財産を譲渡する場合「遺贈する」と表現する場合と「相続させる」と表現する場合の違いは?
「遺贈する」という表現は、相手が人間であればだれにたいしてもおこなうことができます。
これに対して「相続させる」という表現は、相手が相続権のある相続人でなければ、おこなうことができません。

 

2、受遺者は遺贈者が自由に決めることができます

なお、受遺者は誰でもかまいません。遺贈者が自由に決めればよいのです。妻や子など相続人はもちろん、相続権のない孫や 兄弟、血縁関係のない第三者でもかまいません。また、ときには「○○会社へ、金100万円を寄贈する」といったように、法人 に対して遺贈することもできます。

ただし、遺贈するにあたっては、遺留分に注意しなければなりません。遺留分を侵害した財産処分は、後日「遺留分の減殺請求 」が起こされ、かえってトラブルが生ずる恐れがあるからです。

 

■トラブルが生ずる恐れある遺留分とは

遺留分とは、法定相続人に与えられる最低限の遺産を相続する権利をいいます。被相続人は遺言によって、自由に自己の財産を 処分することができます。

しかし、特定の人に全ての財産を与えるという内容の遺言を残した場合に、本来の相続人が全く遺産を相続できないのでは公 平性が欠けてしまいます。
そこで、民法は相続人の利益保護という観点から、下記(1)~(3)のとおり、相続人が配偶者・直系卑属・直系尊属である場合に は相続財産の一定割合については必ず相続人が相続できるとし、遺言書による財産処分を制限しているのです。
(1)相続人が直系尊属だけの場合~法定相続分の1/3
(2)それ以外の場合~法定相続人の1/2
(3)兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

上記の結果、受遺者は遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けると、侵害した部分については相続人に財産を返還しなければならなくなるのです。

 

■次に、遺贈には包括遺贈と特定遺贈があります

遺贈はその内容によって、2種類に区分されます。一つは「包括遺贈」、もう一つは「特定遺贈」と呼ばれるものです。

1、包括遺贈とは、まず、遺産の全部または一部を文字どおり包括的に与えるもので、遺産全体に対する割合を示して遺贈することです。

たとえば、「自分の財産の五分の一を○○に遺贈する」とか「全財産の20パーセントを○○に与える」というように、遺産に対して一定の割合を示す方法です。

包括遺贈で財産を取得する者を「包括受遺者」といいますが、この場合は、指定された割合に応じて遺産を承継する権利があり、その意味では、相続分という一定の割合を持つ相続人とは立場上は同等になります。
このため、財産ばかりでなく、債務についても指示された割合だけは負担する義務があります。
もっともこの場合も債務超過であれば、包括受遺者にとって、ありがたい遺贈とはいえませんから、相続放棄と同様に、遺贈の放棄をすることが認められています。

2、特定遺贈とは、遺贈財産を具体的に特定して遺贈する方法をいいます。

たとえば「○○市○○町所持の土地200平方メートルを遺贈する」とか、「○○建
設の株式20万株を遺贈する」というように、目的物が明確にされているものです。
特定遺贈によって財産を取得する者、すなわち「特定受遺者」は、遺言で指定された財産を取得する権利が発生するだけで、債務については、とくに指示がないかぎり負担する義務はありません。この点では、包括遺贈と特定遺贈とはかなり異なったものです。

 

■死因贈与と遺贈はどこが違うの?

1、死因贈与には相続税がかかります

例えば、「入学試験に合格したらクルマをあげる」といえば、クルマの贈与に合格という条件が付いています。同じように、「私が死んだら100万円を贈与する」となれば、贈与する人の死亡という条件付き贈与です。これを一般に「死因贈与」と呼んでいます。
死因贈与も人の死亡を原因として財産が移転するという意味では、相続や遺贈と同じです。そこで、贈与とはいっても死因贈与の場合は、贈与税ではなく、やはり相続税が課税されることになっており、したがって、相続税という税は、以下のようになります。

(1)相続によって財産を取得した場合
(2)遺贈によって財産を取得した場合
(3)死因贈与によって財産を取得した場合

のいずれかで財産を取得した場合にかかってくるわけです。

2、遺贈と死因贈与の違いとは

遺贈は、財産を与える相手方の同意を得ないで行なえる単独行為ですが、贈与は「あげましょう 」「もらいましょう」という双方の合意のうえに成立する契約です。

つまり、遺贈では、遺言書を開けてみて初めて財産を与えられたことがわかった、ということがありますが、死因贈与では、あらかじめ合意されているわけですから、そのようなことはありません。

「死んだらあげる」といわれたら、あなたならどちらを選択しますか?
「遺言書に書いといてほしい」というより「死因贈与にしよう」といったほうが安心ではないでしょうか

いざ遺言書を開けてみたら何も書いて無かった。ということもあり得るのです。

 

■トラブルを防ぐためにも専門家に確認を

相続手続がわかっていても、身内の間でトラブルが生じてしまうと、やらなければならないことも先に進めることができなくなります。

相続争いが起きそうだ、あるいは、現実にトラブルが生じてしまっている場合は、弁護士です。弁護士が第三者の立場からアドバイスをしたり、各種の手続きの代行、相続人間の利害の調整役等もとり行います。

また、相続に備えて遺言をしたい場合、遺言書には一定の法的要件がありますから、不備な遺言書を作成しないためや、遺留分に反した遺言をしてトラブルが起きないようにするためにも、弁護士の助言を受けておくべきでしょう。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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