遺産分割の対象となる財産や協議に参加する相続人の範囲が確定すると、いよいよ遺産分割協議の開始です。
協議といっても基本的には身内同士の話し合いですから、感情に流されがちになります。協議がお互いに譲り合う精神でいい方向に働けばいいのですが、悪い方向に向くと収拾が付かない紛争に発展しかねません。
遺産分割協議は、詰まるところ財産を分ける話ですから、できるだけ合理的、理性的に進めたいものです。
■「特別受益」分を加味して話しあいましょう
まず遺産分割協議では「特別受益」を相続財産に含めて分割を話し合う必要があります。
「特別受益」とは、相続人が被相続人から受けた生前贈与や遺贈(遺言による贈与)のことです。
例えば、父親が死亡して、相続人が兄と弟の2人だけで被相続人の死亡時点での財産は5000万円だとします。また兄も弟も被相続人から生前に贈与を受けていないとしましょう。この場合、紛争が起こらない分け方は5000万円を半分ずつ(2500万円)に分けることです。つまり、法定相続分どおりに分割するわけです。
ここで、父親の死亡時の財産は5000万円で変わらないが、兄は父親から生前、住宅取得のための資金として3000万円を贈与されていたとしましょう。この場合でも死亡時点であった5000万円を均等に分けるのが公平でしょうか?弟は怒るに違いありません。父親の生前も含めれば兄は父親から5500万円取得することとなり、2500万円にとどまる弟は不公平感を抱くでしょう。
こうした兄弟間のわだかまりを解決するには、兄が生前受け取っていたお金を相続財産に加え、それを均等に分けるものとして実際の相続分を決める必要があります。
被相続人から、生前に利益を受けた相続人は、いわば相続分の前渡しを受けたものとして、遺産分割では特別受益の分を相続財産に加えて具体的な相続分を算定する場合があります。これを「特別受益の持ち戻し」と指し、これによって法定相続分を修正して相続人の間の不公平を更正し、実質的な平等を図るわけです。
前述の兄弟のケースでは、特別受益を持ち戻すと相続財産は8000万円となります。これを均等に分けるとすると、2人はそれぞれ4000万円を受け取ればいいわけです。
兄はすでに3000万円をもらっていますから、4000万円から3000万円を差し引いた1000万円を死亡時点で残っている5000万円から取得し、残りの4000万円を弟のものにすればいいのです。兄としては目の前の財産から1000万円しかもらえませんが、公平を保つ上では仕方ないことかもしれませんね。
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■特別受益になるものとならないもの
ところで、被相続人の生前の贈与や遺贈であれば、すべて特別受益として持ち戻さないといけないかというとそうではありません。
例えば、被相続人が10万円程度を兄に当面の生活費として贈与していたとしても、そうしたあまり多額でない金額まで持ち戻していると複雑になり、遺産分割協議が滞る恐れがあります。住宅取得資金のような多額の贈与であれば記録や証拠が残っていることが多いのですが、親が子どもに生活費の援助をしていた証拠は残っていないことのほうが多いでしょう。 そうしたものまで持ち戻していたらキリがありません。
そこで、現実には、持ち戻しの対象となる贈与は次にまとめたようなものが一般的とされています。
・婚姻(養子縁組)のために被相続人から支出してもらった持参金や支度金などの費用。ただし、金額が少額で不要の一部と認められる場合には該当しないこともある。
・原則として、大学以上の教育のために被相続人の支出した費用または被相続人から贈与された金額
・子どもが独立する際に居住用の宅地を贈与した場合や、農家で農地を子どもに贈与した場合など
・動産、金銭、有価証券の贈与で、小遣い、慰労金、礼金の範囲を超え、相続分の前渡しと認められる程度の高額であるもの
また特別受益の財産については、次のように評価して価額を算定します。
・金銭については贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価格とするのが判例
・不動産、有価証券、ゴルフ会員権などは相続開始時の時価評価とするが一般的
例えば、親が結婚のために多額の持参金や支度金を渡したとか、子どもを大学に通わせるために負担した費用といった1回でも数百万以上になるような金額の贈与は、特別受益とすることが目立つようです。
なお、特別受益の有無や金額が原因で遺産分割協議が整わず、紛争が家庭裁判所の調停や審判に持ち込まれることも少なくありません。このようなケースは、相手方が特別受益を受けていることが争点になることが多くなると思われます。
その場合、相手方が特別受益を受けていた証拠を自ら提出することは考えにくいため、ある程度は、調停や審判を申し立てた側が、相手方の受けた特別受益について、何らかの証拠資料が提出でき方が望ましいでしょう。
生前に受けた特別受益については、判断が難しいケースも多く見受けられます。少しでも疑問に感じるようなことがあれば、お気軽に当センターへご相談ください。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
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