過去に受理されなかった相続放棄を再度相続放棄は可能ですか?

昭和61年に祖父が死亡しました。
祖父には、うえから長女、長男、次女、三女、二男の5人の子供がいました。
私は、そのうちの次女の子供にあたります。

今から十数年以上前ですが、祖父の相続人である母は、相続放棄の手続きを家庭裁判所に行いましたが受理されませんでした。

母以外の法定相続人である母の兄妹は、相続放棄が受理されています。
それから大分時間が経過しましたが、祖父の遺産である老朽化の進んだ空き家や農地、山林等について、どうにかしてほしいと度々連絡がくるようになってしまいました。
ついては、十数年以上経過していますが、母は再度相続放棄をすることは出来るのでしょうか?

 

相続放棄は、3か月以内にしなければならない

本来相続放棄の手続きは、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述をしなければなりません(民法915条)

手続きが間に合わない様な状況であれば、事前に家庭裁判所に期間を伸長してもらうよう申立てを行う方法もあります。

 

相続放棄の手続きとは

まずは、故人の最後の住所地の家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。
相続放棄の申述がありますと、裁判所ではその申述が本人の意思か否を審判し、真意であることが判明すると受理されます。
その後、必要に応じて「相続放棄申述受理証明書」の交付を受けて下さい。

 

再度相続放棄の手続きは出来るのか?

結論から申し上げますと”申立“は可能です。

当センターでは、再度の申立をしてほしいと言う依頼者からの相談で実際に申立たことがあります。
必要な書類や情報を網羅して、申立を行えば裁判所は受付だけはしてくれるようです。

しかしながら、原則は上記で説明したとおりですから、再度の相続放棄の申立を裁判所に無事に受理してもらうためには、それなりの理由がないと難しいでしょう。

 

ご相談の事例について

まず、母以外の兄妹は無事に相続放棄が出来たに関わらず、相談者の母だけ相続放棄を認めてもらえなかった理由が気にかかります。

この事例では、そもそも故人の死亡日からは3ヶ月を過ぎていましたが、債権者からの督促によって相続の開始を知ったため、それから相続人らは相続放棄の手続きを行っています。

上記理由であれば、裁判所は相続放棄を認めるでしょうし、現に母以外の兄妹らは相続放棄が認められています。

ですから、母の相続放棄が認められなかった理由に、そもそも相続放棄が可能なのか、できないのかを判断する重要な情報が含まれていると考えられます。

通常相続放棄申述の受理までに、裁判所が独自に調査するといったことも行いませんし、受理されないケースは稀です。

ですから、仮に再度相続放棄の申立を無事に受理されたとしても、第三者から異議が申立られる可能性などもありますので、再度の申立に拘るよりは、母に当時の事情や詳細を確認することが重要でしょう。

なぜなら、相続放棄が無効になるケースとは、相続放棄申述の受理後に第三者から異議を申立られているケースが多いからです。

 

相続放棄が認められなかったら・・・

相続放棄が認められなかったら、相続を単純承認したことになります。

※単純承認とは「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する(民法920条)。

簡単に言えば、相続はしたくないと言い続けていても、法的には相続をしたことになりますので、相続した
遺産については、母が責任をもつことになり、厳しい回答になりますが、負債についても同様です。

負債について支払うことが出来ないのであれば、債務整理で解決をする方法があります。
債務整理には、大きく分けると3通りの方法があります。

一つは任意整理と呼ばれている方法で、これは債権者と和解交渉をして、将来の利息を極力減らしてもらって3年から5年の長期分割で返済をしていく方法です。

もう一つは、自己破産と呼ばれている方法で、これは裁判手続で、自身の生活状況を説明した上で、最終的には借金を免除(これを「免責」といいます)してもらう国の救済制度です。
そして、最後の一つが民事再生(個人再生)と呼ばれる方法で、これは任意整理をするのは難しいものの、さまざまな事情から自己破産だけはしたくないという人のために、一定額の借金を返済し財産も守れるという両者の中間的な制度です。

将来母が負債超過の状態で亡くなった場合に、相続放棄を検討される際は、手続きを失敗しないように気をつけましょう。

 

借金の消滅時効期間

そもそも借金には、弁済期又は最後の返済から一定期間が経過すると消滅時効が成立します。いわゆる、時効というものです。

この期間は、貸主か借主のいずれかが商法上の商人であれば、商事債権として5年(商法522条)、いずれも商人でない場合には一般的な債権として10年です。(民法167条)

本件は、故人が亡くなってから既に十数年以上経過していますし、そもそもこの借金は時効が成立しているとも考えられますので、やはり母に状況をよく確認するべきです。

但し、時効期間が経過したからと言っても、自動的に借金が消滅する訳ではありません。消滅時効の『援用』をすることが必要です。『援用』とは、時効の利益を受けるということを相手に伝えることです。

具体的に言いますと、消滅時効を援用するという旨の通知を、配達証明付きの内容証明郵便で郵送するという方法があります。

また、裁判で判決をとられていたり、差押え又は仮処分、債務の承認等が原因で時効が中断している場合がありますので、よく注意して下さい。

 

最後に

相続放棄の手続きは、専門家に依頼しなくても行うことは可能です。
しかし、戸籍謄本など必要な書類を集めるだけでも、大変骨の折れる作業となりますし、時間も要します。
期限があることですから、手続きが分からない方や、その他何かご事情がある場合は、悩まずにすぐ当センターに相談をしましょう。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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