日本には800万戸を超える空き家が全国に点在しているといわれています。相続などで空き家として放置された住宅は、周辺の環境を悪化させたり、防災や防犯面でも問題となって、社会的な解決方法が模索されている途中です。国では、空き家対策特別措置法を制定。放置している空き家を積極的に対処していて、所有者に重いペナルティーが課せられるようになりました。所有している空き家は早期に今後の活用法を選んでいくことが大切。この記事では、空き家の活用方法を具体的に紹介しながら、メリットやデメリットをまとめてご紹介します。
空き家対策・活用のポイント
空き家をそのままにしておくと固定資産税や管理費用など、さまざまなコストが毎年かかります。活用されないまま放置された不動産ほど大きな負債はありません。2015年に施行された空き家対策特別措置法によって、放置された空き家は行政で厳しい対応が取られます。売却もしない、管理もしないままでは、最終的に行政側に解体されてその費用は所有者が負担することに。そうなる前に、早めの空き家対策や活用が必要なのです。
相続などで空き家を手に入れた場合、どういった活用方法が考えられるでしょうか。主に次の3つの方法があります。
1.貸す
2.利用する
3.更地活用する
大まかな活用法ですが、たいていの空き家活用はこの3つに分類できます。
1.貸す
多少のリフォームや修繕を加えて、貸家として活用します。空き家を放置することなく、定期的な不動産収入が得られるので無駄がありません。
また、最近人気のシェアハウスとして活用するケースも増えています。独身者を中心に同じ屋根の下で共同生活を行うシェアハウス。安い家賃と他者との交流ができるため、都会を中心にニーズが高まっている賃貸住宅の一種です。
2.利用する
自分の手で空き家を使った民泊経営がその代表例。観光に人気のエリアでは宿泊施設が不足している地域で一般の住宅やマンションが民泊を経営する例が増えてきました。賃貸物件としてのニーズは見込めないものの、観光客の宿泊需要が望める場合、民泊にして国内外の旅行客に利用してもらうのです。多くの場合、空き家の所有者は民泊専門の管理会社に依頼して、貸し出すだけで収益を上げられます。
3.更地活用する
賃貸やシェアハウス、民泊経営などが難しい空き家は、いったん更地に戻して新しく賃貸住宅やマンション、宿泊施設やテナントビルを建設するといった活用法もあります。また、更地にすれば月極駐車場やコインパーキング、店舗などの貸土地の活用も可能です。
また、更地にすると、空き家のままより売却して処分しやすくなります。活用法が見出せないときは、思い切って処分して現金化、という方法も残されています。
次からは、いま紹介した3つの活用法をさらに具体的に掘り下げていきましょう。
空き家のおすすめ活用法 その1 賃貸物件にする
空き家の活用法でもっともナチュラルで収益につなげられる方法です。思い入れのある家だから手放したくない、将来的に住む予定がある、といった場合に賃貸物件なら再び住居として使えるメリットがあります。また、空き家をそのままにしておくより賃貸住宅として活用する方が老朽化を防げるほか、不動産会社に管理を委託すれば自分たちで日常管理する必要がありません。
賃貸物件で家賃収入を上げるには、空き家の状態がある程度良好なこと、立地がよく住みやすいことが大切です。とくに空き家が古い場合は、賃貸募集しても入居者が集まらないことも。老朽化が進んでいる空き家はリフォームや修繕が必要です。台所や浴室、トイレといった水回りのリフォームや、現在の耐震基準に合わせた耐震化工事を考えなければなりません。
比較的状態が良ければ、エリアによるものの賃貸物件は一定のニーズが見込めます。とくに日本では戸建住宅に新築で住むことが多く、賃貸住宅よりマンショやアパートに需要が流れやすいからです。そのため、もともとの賃貸住宅数は限られていて、転勤などにともなって一定期間賃貸での住宅を探している人たちにヒットします。また、賃貸住宅は数年以上の入居期間となるケースが一般的です。その間、安定して家賃収入が得られるので、収益を出しやすいといえます。
とくに経済的なコストパフォーマンスからいえば、固定資産税や修繕費用を家賃収入から得られるのが大きなメリットです。空き家のまま放置していても、毎年の固定資産税や修繕などにかかる管理費用は発生します。空き家の固定資産税の優遇制度が厳しくなったため、なおさら節税対策は空き家を所有し続けるうえで悩みの種です。その点、修繕やリフォームで初期費用はかかるものの、ある程度賃貸住宅として稼働すれば収支バランスが取れて安定して不動産収入が得られるのです。空き家を解体して更地にしたり、宿泊施設などで利用したりするより、一番手間や費用がかからないのがメリットと言えるでしょう。
一方で、賃貸住宅として整えたからといって、募集に応じて入居者がみつかるかといえばそうではありません。せっかく修繕やリフォームをしても、長期間、借り手がつかないケースも珍しくなく、その間の初期費用の支払いは持ち出しになってしまいます。
とくに賃貸物件はエリアによる需要の差が大きいのが特徴です。転勤などで人の移動が多い大都市圏や主要な地方都市は賃貸で住まいを探している人たちも少なくないでしょう。しかし、地方でも郊外や山間部のようにもともと人口が少なくて、賃貸住宅で暮らすイメージのないエリアでは、入居者の募集をかけても思うように借り手が見つからないといった悩みをよく耳にします。また、修繕やリフォームをしたとはいっても、近隣に新築で賃貸住宅が生まれれば、空き家を活用してある程度古さの目立っている住宅の人気は下がります。そうすると、最初はスムーズに借り手がみつかって家賃収入があったものの、転居以降、次の入居者を募集しても見つからないリスクも考えなければなりません。
さらに、賃貸住宅には貸主責任がともないます。貸家の場合、電球交換や壁紙の張り替えのように借り手の責任でメンテンアンスをおこなう範囲と、水道や電気をはじめ住まいに関わる基本的な設備の修理・修繕は貸主の責任で対処する必要があります。契約によっては、エアコンや給湯器の故障をすべて面倒見る場合もあるなど、家賃収入よりも修繕費用のコストが上回る可能性もあります。
空き家の賃貸は貸した後も、責任を持って住宅を維持する責任がともないます。法的に定められている場合が多いため、不動産会社に管理を代行してもらうのが一般的です。
空き家のおすすめ活用法 その2 シェアハウス
シェアハウスも空き家の有効活用の一つで、最近注目されています。シェアハウスの運用管理を専門に扱う不動産会社もあるので、運営を依頼することも可能です。空き家が遠方にあって運営が難しい場合や、プロに管理を任せて安心して収益を手にしたい場合など、代行を頼むといいでしょう。
シェアハウスは、20代や30代の若者をターゲットにするところが比較的多いです。基本的に単身者用の賃貸物件となるため、独身者向けで空き家のリフォームや改装を進めます。また、最近はアーティストやクリエイターが住みやすいシェアハウスといったように、入居者の職業ジャンルを絞ってシェアハウスを開発する例も増えていて、ユニークなカラーを出すのも入居率を高めて収支計画を安定させるポイントです。近年、シェアハウスが全国各地で増えています。専門サイトも登場しているので、自分の持つ空き家をどのようにリノベーションすれば借り手にアピールできるのか、基本的な方向性をまずしっかり描いていきましょう。
シェアハウスのメリットは、空き家をそのまま賃貸住宅にするよりもまとまった家賃収入が得られること。賃貸物件にすると入居者1世帯に対してからしか家賃は入ってきません。しかし、シェアハウスなら入居者1人当たりの家賃は少なくなるものの、部屋数に合わせた入居者が見込めるので、家賃の一人あたりの単価が割高になるからです。賃貸で月額15万円の賃貸物件より、1部屋5万円なら5室あれば25万円という計算が成り立つということ。
また、シェアハウスは入居者同士のつながりがあるため、空室ができても情報が広がって入居者が入りやすい、もし一人退去しても他の部屋の入居者から家賃が入ってくる、といったリスク分散にも役立ちます。賃貸住宅でまるごと一棟貸し出すより、家賃収入が完全に途絶えてしまう心配は少ないということです。
ただし、シェアハウスは一つの家に多人数が集まって共同生活を行います。個室は分かれていても、キッチンやトイレ、リビングは共有スペースのため、決められたルールで生活しなければなりません。マンションやアパートより、入居者同士の距離が近いだけに、シェアハウスで心配されるトラブルの代表的なものです。そのため、一人の入居者がルールを守らないと、入居者でトラブルになって、退去者が出る、近隣に迷惑をかけるといったデメリットも生まれます。
とくにシェアハウスは入居者の世代が若い、職業や生活スタイルもさまざま、外国人の入居者も増えています。最低限のルールを徹底させるようにして、トラブルを未然に回避する工夫が必要です。
さらに、シェアハウスは短期で退去する割合が高くなります。単身で若者が集まるため、シェアハウスに合わないと思ったら気軽に転居できますし、仕事の都合にあわせて住まいを転々とする場合も少なくないからです。家族単位で入居する賃貸住宅よりも長期的な入居は見込めません。家賃収入がゼロになるリスクは少ない一方で、毎月の家賃売上が変動しやすく、運営が安定しづらいといった面も持っています。
なお、シェアハウスは賃貸住宅として利用するより、初期費用がかさみます。共有部分はもちろん部屋ごとのリフォームや家具、家電といった準備もあるため、リフォームや修繕にかかった費用を回収するまでに時間がかかる点に注意です。
空き家のおすすめ活用法 その3 民泊
2018年6月に、日本でも本格的に民泊がスタートしました。民泊ルールを定めた法律が誕生して、これまで不動産業界と観光業界で線引きされていた宿泊という概念が大きく変わったのです。
法的にはアウトだった民泊が正式に認められたことで、東京や大阪、京都といった観光ニーズの高い都市圏を中心に、民泊施設数が増えています。
民泊のシステムはアメリカ発祥の「Airbnb」(エアビーアンドビー)から一気に世界へと広まりました。日本でもこのサイトを活用して個人のマンションやアパート、戸建て住宅を宿泊提供する人が増えています。民泊の場合、オーナーは「Airbnb」など民泊専門のサイトに登録して希望者を募集します。運営に関しては自分で行うこともできますが、専門の管理会社に代行させるのが一般的です。
民泊が賃貸住宅よりすぐれているのは、収益性の高さ。たとえば賃貸住宅なら月の家賃が10万円でも、1日1万円の宿泊費で30日稼働すれば、20万円もの差になります。宿泊費は家賃よりも割高な設定でも十分にニーズがあるため、コストパフォーマンスが良いのです。
一方で、民泊は法律の規制が厳しく、年間の最大稼働日数は180日まで。つまり月単位15日程度しか民泊として提供できません。そのため、最大稼働日数いっぱいまで民泊利用者が出ればいいですが、宿泊ニーズは旅行シーズンに左右されやすいもの。月によってはほとんど宿泊がなかったという場合も考えられます。そのため、安定した収入による経営は難しいといえるでしょう。
空き家のおすすめ活用法 その4 更地活用する
老朽化が進んでいて賃貸や宿泊での利用が困難なら、解体後更地で活用する道があります。リフォームしても修繕費用だけかかって賃貸ニーズがない場合、シェアハウスや民泊でも立地や建物の魅力で人気が見込めない場合は一度更地にした上で、さまざまな活用法を検討してみましょう。
・不動産経営をする
更地に改めて建物を建設して賃貸収入を目指す方法です。マンションやアパート、戸建住宅を新しく作れば、古い空き家のままよりも入居希望者のニーズにマッチした物件が生まれます。マンションやアパートはとくにエリアによって人気が高いので、おすすめです。ただ、収益性は見込めるものの、解体や更地のための費用、建設費用や不動産会社への委託料など、初期投資にまとまったコストがかかります。入居率次第である程度早期に回収できるものの、多額のローンを背負うことになる点はデメリットです。
・駐車場経営をする
都市部の繁華街や住宅地では最近空き家を駐車場やコインパーキングとして転用するケースが増えています。空き家のままでは固定資産税や管理費用がかさむ。かといって、賃貸物件を新築するのはまとまった費用が必要となる。こうした費用面での心配を減らして、コストやリスクを非常に押さえられるのが駐車場のメリットといえるでしょう。月極駐車場なら中長期的に駐車代収入が見込めますし、立地によってはコインパーキングやカーシェアリングの駐車場として活用するほうが収益性が良いケースも。
駐車場やコインパーキングの経営は大手フランチャイズチェーンの会社に代行運営させることもできます。ブランド力が高いため、利用率も高まると期待できるため、積極的に利用してみるといいでしょう。
・店舗用の貸土地にする
コンビニやオフィス向けの土地として提供する方法です。一定期間で契約して更新または契約終了が選べるので、将来的に新たな土地活用を見込んだ運用ができます。
立地やエリア環境によっては借り手が見つかりやすく、安定した賃貸収入が得られるのでおすすめです。
・太陽光発電
山間部の空き家を更地にした場合の活用法としておすすめ。賃貸住宅のニーズも見込めない、更地で売却するのも難しいといった場合、太陽光パネルを設置して売電して、初期費用を回収しながら収益を目指す方法があります。
空き家のおすすめ活用法 その5 売却する
空き家を賃貸やその他の方法で活用するより、もっともコストが小さくてスッキリした方法です。不動産会社に依頼して仲介販売してもらう、または不動産会社に買取をしてもらう2つの手立て考えられます。
仲介契約を結んで販売をしてもらう場合、相場やそれ以上で販売しやすい一方で、土地のニーズがなければいつまでも売れ残ってしまう可能性も。不動産会社に買取をしてもらえば、仲介よりは利益は少ないケースが多いですが、早めに売却先が見つかるのでその後の計画が立てやすいメリットが生まれます。
空き家の立地しているエリアの地元の不動産会社に相談したり、山間部なら田舎暮らしをターゲットにした都会からの移住者に強い不動産会社を選ぶといいでしょう。最近は、インターネットで土地の売却価格を簡単査定できる比較サイトも登場しています。自分の空き家の土地を売却した場合のおおよそのイメージがわかりますので、一度検索して使ってみましょう。
空き家活用ビジネス
国を上げて空き家対策に取り組む今、民間レベルでも空き家を使ったさまざまなビジネスが登場しています。
ビジネス例その1 カリアゲJAPAN
あきやカンパニーによる空き家をそのまま刈り上げて活用するシステムです。空き家の条件は築30年以上。空き家にただ済むだけではなくて、工房やオフィスなど小さな拠点にする目的の希望者に貸し出します。借り上げた空き家の契約期間は6年。一度改修をしてから空き家に住みたい借り手に貸し出します。ポイントは、貸家に必要な大家の初期負担が不要なこと。通常、空き家を賃貸住宅にする場合、リフォームや修繕にまとまったお金をかけますが、カリアゲJAPANでは家賃から修繕費用に充当していくので、オーナーは持ち出しがいらないのです。
一方で、借り主は自分の思い描くイメージで空き家を自由に使えます。リフォームや改修も可能。退去時の原状回復義務がないのがメリットです。また、空き家は賃貸住宅の相場より割安で借りられるのも魅力です。
ビジネス例その2 アキサポ
株式会社プロジェクトワンが運営する「アキサポ」は、地域と空き家との積極的な活用を考えるサービスです。現在、首都圏で広がっています。
最大の特徴は、地域で社会問題となりやすい空き家をその土地のニーズに合わせて積極的に活用。単に借り手を募集するのではなくて、リフォーム費用の負担から家賃収入の一部を大家に分配したり、管理やトラブル対応までトータルサービスを提供している点ですぐれています。
空き家がエリア内でどの程度ニーズがあるのか、現地調査をしっかり実施して賃貸住宅以外の活用法も提案してくれるのが特色です。
空き家活用をしている自治体
地方を中心に放置された空き家が問題になっています。そこで、全国の自治体では独自の空き家の活用サービスを整備しているケースも登場。その一部をご紹介します。
北海道・東北
青森県弘前市では、移住者を呼び寄せるため空き家の積極活用をスタート。「弘前市空き家・空き地利活用事業費補助金」を利用すると、空き家バンクへの登録のほか、移住者や所有者に購入費用や解体費用の補助金が出ます。
岩手県釜石市でも「釜石市空き家バンク」のサイトをスタート。定住の希望者にWEBで空き家情報を提供。市はあくまで情報提供のみで、契約手続きなどは不動産会社を利用するものの、地方の空き家の情報がわかりやすくまとまっています。
関東甲信越
過疎化が進む埼玉県秩父市を中心に周辺4町をカバーする「ちちぶ空き家バンク」。自治体を中心に地元の宅地建物取引業協会や地域新興団体がバックアップしている点が特徴です。移住の検討から実際に移住した後の相談窓口もサイトでつながっています。
新潟県新潟市は、空き家問題の解決に積極的に進出。地元の法曹業界や建築業界など民間のバックアップも受けながら、空き家問題の解決窓口となって解消に取り組んでいます。
関西
大阪府では、都市部に老朽化した木造家屋が密集しているエリアが点在。防災や防犯、環境リスクが指摘されてきました。府ではリフォームして活用するよう市民に啓発する一方、介護施設やコミュニティ拠点としての転用も支援しています。
空き家活用に便利なサービス
空き家を活用するには、まず所有する不動産の価値を知ることが第一歩です。
相場を調べられる一括比較サイトが多数誕生しています。空き家の基本的な条件を入力すれば、その場でおおよその査定額が表示。全国の不動産価格をカバーしている上、まとめて不動産会社をいくつも調べられるのがメリットです。
中古住宅の相場は地域や築年数、取り扱う不動産会社によって変動しやすいもの。全国的な相場を知ることで、その後の活用に役立つでしょう。
まとめ
空き家の活用はそのまま賃貸するほか、宿泊や更地活用など、さまざまな方法が考えられます。それぞれのメリット・デメリットを慎重に検討しながら、コストを考えてニーズに合わせた活用法を選びましょう。