今、全国各地で空き家が社会問題になっています。相続したもののそのまま放置されて老朽化をたどる空き家が、増え続けているのです。親の住んでいた実家の一戸建てを相続しても、マンション住まいや離れた場所にマイホームを建てているケースが増えているのも理由の一つ。これまでは空き家をそのままにしていてもとくに自分自身に問題が起こることはありませんでした。しかし、2015年、法律で空き家対策が進められることとなり、たとえ住んでいなくてもまとまった固定資産税や費用を負担しなければならなくなっています。この記事では、相続した空き家をそのまま放置していると社会にどういった問題を引き起こしてしまうのか。空き家対策の法律とは何か。そして、空き家相続でしっておきたい基礎知識をまとめてご紹介します。
具体的な空き家問題とは?
全国的に空き家が急増している日本。定期的に管理できるなら大きな問題はありませんが、相続してからそのまま放置していると、所有者の気づかないところでさまざまな影響を社会に与えてしまいます。
老朽化で倒壊する危険がある
日本の住宅は木造で建てられていることが多く、石やコンクリートとちがって人が住まないと老朽化しやすい特徴があります。木造家屋は風通しをこまめにおこなわないと湿気がたまりやすく、柱や梁に使われている木材が傷みやすいからです。また、日本では1981年に住宅の耐震基準が改正されました。それ以前の住宅は耐震度が低く、地震や風水害で老朽化した住宅が倒壊、崩壊するリスクが高いのです。空き家が住宅地にあれば、倒壊したため近隣の住宅も被害がおよぶ可能性が高まります。
犯罪を誘発しやすくなる
空き家は犯罪のアジトにしたり、放火や不法投棄の場所に選んだりと、犯罪者を呼び込むおそれがあります。誰も住んでいないとわかれば、不法侵入して犯罪の拠点にしやすいからです。人目が行き届かない空き家は、放火のリスクが高くなります。敷地内にゴミや木くず・紙くずがあるだけで、火を付けられやすくなります。
また、誰も居ない空き家に犯罪者が集まってたむろする、犯罪の実行場所に使われるといった危険も。不法侵入や不法占拠、ゴミの不法投棄など、さまざまな犯罪の温床になりやすいのです。
周辺の景観が悪くなる
老朽化した建物や塀、敷地内の雑草は伸び放題。これでは周辺の住宅地がいくら美しくても、景観を破壊してしまいます。景観を悪化させてしまう空き家は、衛生面でも問題に。蚊やハエなどの繁殖、野良猫や野良犬などの動物のすみかになって感染症や糞尿の臭いの被害もおきやすくなります。
また、一軒の空き家があるだけで、そのエリアの犯罪率が上がって、治安の悪化につながることも。空き家に落書きや不審火が続けば、犯罪行為がエスカレートして凶悪犯罪を誘発する可能性が高まるからです。
倒壊で被害に遭った隣家の賠償が発生する
老朽化したまま管理しない空き家が、もし倒壊してしまった場合、隣家に被害がでる可能性があります。管理しなかった責任から、輪禍の被害によっては億を超える損害賠償が請求されることも珍しくありません。もし、被害で隣家の住人がケガや死亡した際の損害賠償責任は計り知れなくなるでしょう。
このように、「別に住まないし、面倒だからそのままでいいや」と空き家をそのまま放置していると、自分の想像もしない社会的責任や損害賠償の責めを負う可能性があるのを知っておきましょう。
知らないと危険。空き家対策特別措置法について
増え続ける空き家問題に行政として対応できる空き家対策の法律が運用されています。2015年に施行された「空き家対策特別措置法」です。
空き家対策特別措置法は、これまで所有者に任せられていた管理や解体といった空き家の管理を、最終的に行政が行うことができるようになったもので、強制力をともない罰則もあります。そのため、今、誰も住んでいない住宅を所有している、将来空き家になり売る住宅を相続する可能性がある場合はぜひ知っておきたい法律といえます。
空き家対策特別措置法とは?
放置された空き家は、倒壊のリスクや犯罪の誘発、衛生環境の悪化など、さまざまな問題を近隣に与えてきました。空き家対策特別措置法以前は、住宅の管理はあくまで所有者に任せられていて、たとえ危険性が高くても思うように行政が対応できないといったジレンマが続いていました。自治体によっては条例を制定して、空き家の所有者に指導することはできるケースもありましたが、法的な拘束力がないため思うような解決には至らなかったのです。
そこで、国は全国の空き家問題を解決するための法律を作りました。それが、空き家対策特別措置法です。
2014年11月に国会で成立、翌年の2015年2月に施行された法律によって、空き家の調査や管理指導、指導しても改善が見られない空き家を「特定空家」に指定して、強制的に管理を求めるようになりました。最終的に、特定空家の所有者に罰金を科することができるようになって、また行政が解体を行ってその費用を所有者に支払わせるといったしくみもこの法律で実現しています。
「空き家」と「特定空家」
空き家対策特別措置法では、「空き家」を次のように定義しています。
「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)(法2条1項)」
居住されているかどうかは、建物に人の出入りがないこと、水道や電気などの使用が確認できないこと、などから行政が判断します。
また、長年にわたって放置状態で危険と思われる空き家を行政が調査して、適切な管理や解体処分が必要と判断されるものは「特定空家」に指定できます。
調査は、自治体の職員や市区町村から委任された建築士や土地家屋調査士が担当。実際に空き家に立ち入り調査をするのがポイントです。
特定空家の条件は主に次の4つです。
1.倒壊のリスクが高い
住宅の外壁や基礎部分、屋根に損傷があって、倒壊の可能性がある空き家です。そのまま放置すると倒壊して近隣に安全上の問題が発生する危険性が認められること。
2.衛生環境を悪化させるリスクが高い
ゴミの不法投棄や排水がとどこおって不衛生になる可能性が高いものです。害虫や悪習の発生が心配される空き家も対象となります。
3.周辺の景観を悪化させている
老朽化した住宅を修繕しないまま放置している、庭木の剪定や除草も行っていないため周辺地域の見た目を大きく損ねる空き家です。防犯面や安全面、衛生面だけでなく、こうした景観も条件に含まれているのが空き家対策特別措置法の特徴といえます。
4.周辺の生活環境の防犯面で問題がある
人の目が行き届かない空き家は、放火や不法占拠、犯罪の実行場所に使われるなど、犯罪の温床になる可能性が高まります。治安の悪化を防ぐため、特定空家に指定して早期の改善を図るのも、空き家対策特別措置法の大きな目的です。
このように、「特定空家」とは、空き家のマイナス面が実際に地域社会の安全な暮らしを脅かす危険性が高まったと認められるものが指定されると考えられます。
特定空家になるまで
空き家対策特別措置法はできましたが、空き家ならすぐに「特定空家」に指定後、解決できるわけではありません。
法律を適用して指定するまでには、行政による段階的なアプローチが必要です。まず、市区町村は法に基づいて空き家に立ち入り調査を実施。「特定空家」と判断されれば、その後、次の順番で空き家の所有者に対応を求めます。
1.助言又は指導
「特定空家」に指定されたことを伝えて、適切に管理するようにアドバイスしたり、具体的な対処法を教えるなど、所有者が自分の意思よる解決を支援します。
2.勧告
助言又や指導でも改善が見られなかった場合、再度立ち入り調査をして2次判定の結果、行政指導を行います。また、勧告以降、固定資産税の特例から除外されます。
助言・指導、勧告の段階までで改善されれば、特定空家の指定は解除されます。
3.命令
命令以降は不利益処分といて、行政による深刻な対応が取られます。期限を設けて、改善するように命令。違反した場合は過料50万円以下となるのがポイントです。
命令を受けても期限までに改善できない場合は、行政代執行へ。空き家を行政の判断で解体してその費用を所有者に請求します。必要があれば、財産や収入の差し押さえも行います。
つまり、空き家を放置しつづけていって、何の対応もしないままだと、行政側が解体します。その処理費用を徴収されるのはもちろん、罰金もともないます。そのため、遅くとも特定空家に指定されたらすぐに解決策を検討して、今後の空き家の取り扱いを考えなければならないのです。
固定資産税の特例とは
これまで空き家がそのまま放置されていた理由の一つに、税制上の問題がありました。人が住んでいるかどうかにかかわらず、土地や家屋など不動産には固定資産税がかかります。また、住所によってさらに都市計画税の納入も必要です。
相続をして納税義務が発生すれば、一度も済んだことのない空き家の固定資産税や都市計画税でも納入義務が発生します。
しかし、住居は人が生活する基盤となる財産です。住宅目的の不動産の場合、「住宅用地の特例」が適用されてきました。
具体的には、住宅の建っている土地は、200平米までを小規模住宅用地として固定資産税は1/6、都市計画税は1/3に。200平米を超えた部分は一般住宅用地として、固定資産税は1/3、都市計画税は2/3に。一方で、更地の状態の土地はこうした減額が適用されないため、固定資産税や都市計画税がまともにかかっていました。
現に人が住んでいても、長年空き家の状態でも、固定資産税と都市計画税の特例が受けられていたことで、空き家の所有者からすると「わざわざお金をかけて更地に戻すより、そのまま放置していた方が税金がお得」というメリットがあったのです。
しかし、急増する空き家数を解決するため、国が定めた空き家対策特別措置法では、特定空家を住宅用地の特例から除外するとしました。つまり、空き家の管理をしない所有者には、そのままでも更地にしていても、まともに固定資産税や都市計画税を納めなければならなくなったのです。
特定空家指定と課税タイミング
空き家の立ち入り調査や特定空家の指定は、一年を通して市区町村が実施します。近隣の住民からの連絡や相談、行政による実態調査から特定空家の条件に当てはまりそうな空き家を見つけると、外観調査や所有者の把握、立ち入り調査が行われます。このように、必要に応じて判断が行われて、助言・指導、その後特定空家に指定となるのです。
一方で、課税のタイミングは毎年1回のみ。固定資産税や都市計画税の基準費は1月1日なので、もし特定空家に指定された場合でも、基準日までの前年中に改善をして自治体に指定解除してもらえば、住宅用地の特例が適用されまま。最大で6分の1の減額が受けられます。
もし年末が近づいて特定空家に指定されたら、年内に改善して自治体の担当部署に認めてもらうよう急ぐ必要があるわけです。
相続空き家に対する二つの特例
もし空き家を相続した場合、相続税と固定資産税・都市計画税の課税に気をつけなければなりません。空き家を持ち続けるにせよ、処分するにせよ、できるだけスピーディーにおこないましょう。
ここでは空き家など不動産を含めた相続財産をお得にする制度についてまとめて解説します。
●相続税の取得費加算の特例とは
親が亡くなって相続した不動産。住む見込みや利用する予定がなければ、売却処分で現金化したいと考える人も多いはずです。ただ、相続した財産にはまず相続税がかかります。晴れて不動産を自分のものになっても、売却すると利益に対して所得税と住民税が課税されることに。つまり、相続財産をそのまま売却するだけで、相続税・所得税・住民税の3つの税金がのしかかってくるのです。
ただ、これまで紹介したように空き家のままにしておいては、管理費用はもちろん、毎年の固定資産税や都市計画税も住宅特例が外れて思わぬ金額になってしまいます。
早めに処分したいとき、節税対策として知っておきたい制度、それが「相続税の取得費加算の特例」です。この特例によって『所得税』が安くなります。
▼相続税の取得費加算の計算方法
まず、特例なしで相続不動産を売却した場合、不動産を売却による譲渡所得は、
譲渡収入額ー(取得費+譲渡費用)
の計算式で算出します。
一方で、特例を適用して売却した場合は、
譲渡収入額ー(取得費(+不動産にかかる相続税)+譲渡費用)
となります。
つまり、取得費に「売却処分した空き家にかかる相続税」の金額をプラスして、譲渡収入額から差し引けることに。そのぶん、所得税や住民税の課税対象となる譲渡所得が少なくなるので、税金や押さえられるというわけです。相続税の金額分がなくなるだけでも、まとまった節税効果が期待できます。
ちなみに、相続では一般的な不動産取引の譲渡とちがって、登記の名義変更にかかった費用など取得費も被相続人から引き継ぐことができます。(取得費は、被相続人の取得費がハッキリしない場合、売却価格の5%で計算)
しかし、家屋のみ減価償却されてからの金額で、取得費の計算をします。
▼特例が適用される3つの要件
相続税の取得費加算の特例は、次の3つの要件をすべてクリアして初めて適用されます。
1.相続(または遺贈)で財産を取得したこと
※遺贈とは、遺言書によって財産を取得すること
2.取得した対象となる財産に相続税が課税されていること
3.取得した対象となる財産の売却が、相続が発生した翌日から数えて相続税の申告期限の翌日以降3年以内であること
※相続した不動産を相続が発生してから3年10ヶ月以内に売却した場合のみ
(※相続税の申告期限は原則10ヶ月以内)
(※例外的に2ヶ月の申告期限延長が可能)
▼取得費加算できる相続税の計算例
取得費に加算できる相続税の金額は、
相続人の相続税額×(譲渡財産の相続税評価額÷相続人の相続税の課税価格)
で計算できます。
ここで、親が5年前に3,000万円で取得した相続評価額5,000万円の土地を、相続から1年後に6,000万円で売却した場合を考えてみましょう。譲渡費用は400万円、相続税は250万円です。
・特例なしで通常通り計算したときの所得税・住民税
計算1
売却価格6,000万円−(取得費3,000万円+譲渡費用400万円)=譲渡所得2,600万円
計算2
譲渡所得2,600万円×所得税率15%・住民税率5%=所得税・住民税 520万円
・特例で計算したときの所得税・住民税
計算1
相続税額 250万円×土地評価額5,000万円÷相続財産5,000万円=取得費加算額 250万円
計算2
売却金額6,000万円ー(取得費+加算額3,250万円+譲渡費用400万円)=譲渡所得 2,350万円
計算3
譲渡所得 2,350万円×所得税率15%・住民税率5%=470万円
改めて比較すると、特例なしでは520万円だった税金が、特例を適用すると470万円になって、50万円納税額が安くなりました。
このように、相続不動産に課税される譲渡所得税も、相続税の取得費加算の特例でかなり押さえられます。
▼注意点
節税効果が見込める相続税の取得費加算の特例ですが、いくつか気をつけたいポイントがあります。
1.2015年1月1日以降の相続では、節税率が低くなっている
従来は、売却処分した土地の取得費に加えて、相続不動産の土地の相続税額をすべて取得費として加算できました。しかし、2015年以降、売却した土地の取得費しか加算できないように法改正されています。
2.確定申告が必要
取得費加算の特例が適用されるには、所得税の確定申告が必要です。
確定申告では、「相続税の申告書の写し」「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」「譲渡所得の内訳書(土地建物用や株式用)」の3つの書類を用意します。
3.手続きは早めに
複数の相続人で遺産分割協議が長引いた場合、相続税の申告期限までに相続税の申告と納付をおこなう必要があります。
万一、期限までに遺産分割がまとまらない場合は、いったん法定相続割合で相続税の計算をして、後日修正申告が可能です。しかし、取得費加算の特例の期限は最大3年10ヶ月以内で動かせません。
取得費加算の特例を利用するなら、スムーズに相続分割協議を進める必要があります。
●空き家の発生を抑制するための特例措置とは
相続税の取得費加算の特例とは別で、空き家を売却して得た譲渡所得の控除特例があります。
控除額は3,000万円です。
・譲渡所得の特例のポイント
相続(遺贈)によって取得した居住用の土地や建物を平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却した場合、次の3つの要件すべてに当てはまれば譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できます。
特例の要件
1.昭和56年5月31日以前に建築された居住用家屋であること
2.区分所有建物登記がされている建物ではないこと
3.相続の直前までに被相続人(親など)以外が住んでいなかったこと
注意点は、空き家の相続のように、親が住んでいた土地や建物であって、古い住宅の場合に適用されることや、被相続人が老人ホームなどの介護施設に入所していた場合でも条件次第で適用されることなどです。
なお、この特例には、その他細かな要件があります。実際に適用を受けられるかどうかは、税務署や司法書士などに相談しましょう。
●自治体の解体費用の補助金制度
自治体レベルで、空き家解消の政策を実施しているところがあります。解体や除去費用の一部補助などが一般的です。
たとえば東京都の文京区の場合、特定空家に指定された空き家の解体費用を上限200万円まで助成。更地を文京区が無償借り上げするという条件ですが、需要が乏しく売却が難しい、解体費用が捻出できないといった人にはメリットが大きいでしょう。
また、同じ東京都でも荒川区のように、不燃化特区と呼ばれる木造住宅の建て込んだエリアで空き家を不燃化建造物に建て替えれば、解体除去や整地費用の全額、建築設計費や工事管理費の一部の助成が受けられる制度も。さらに、条件によって固定資産税や都市計画税の減免制度も用意されていて、空き家対策を強力に推進したい区の姿勢が表れています。
まとめ
相続したものの、住む予定がないから空き家のままにしておくと、社会的にも経済的にも、さまざまな責任とコストが発生します。とくに親から相続した土地や住宅をそのまま放置するケースが相次いだため、空き家対策特別措置法が制定。特定空家に指定されてなにもしなければ、固定資産税や都市計画税が倍増するばかりでなく、行政による解体で費用徴収
されたり、罰金を支払わなければならなくなることも。近隣の治安や衛生、安全のためにも、空き家問題は早めに解決する必要があるのです。
空き家対策特別措置法のほかにも、相続税や所得税が安くなる特例制度が用意されています。具体的な節税効果や計算方法は税理士や司法書士などに相談するといいでしょう。国や自治体の特例や助成制度をうまく活用して、相続した空き家を手放すか、それとも持ち続けるか、早めに検討してみてください。