母には多額の借金があるため,相続放棄をしたいと考えています。
母が亡くなりました。父は既に他界しているので,相続人は子供の私(長女)と弟(長男)の2人です。
父の時は,特に負債はなかったので相続放棄はしませんでした。母に借金があることは知っていましたが,私は嫁いで夫の戸籍に入っており,姓も変わっているため関係ないと思っていました。
母が亡くなってから2ヶ月程経過したある日,A社から借金の残金を支払ってほしいという旨の手紙が届きました。利息を含めて約200万円,私はそのうちの半分(法定相続分)を支払う必要があると書いてありました。
そうしたところ,法律事務所に相談をした弟から連絡が入り,私も相続が発生したその日から3ヶ月以内に相続放棄をしなければ相続を承認したことになると言われました。
更に弟が相続放棄をした場合,残りの借金を私が全て払わないといけないと言われました。
無関係だと思っていたものですから,慌てて私も自分なりに調べると,相続する意思がないのであれば,家庭裁判所に相続放棄の手続きを行わなければいけないことが分かりました。
弟は,弁護士に依頼して相続放棄の手続きを行っているようですが,私は費用をかけたくないので自分でやりたいと思います。裁判所から用紙はもらっているのですが,適当に書けば大丈夫でしょうか?
あと母には,未支給の年金があるのですが,相続放棄をした場合受け取ることは出来なくなるのでしょうか?
1 未支給の年金について
相続放棄をした場合でも,未支給年金については受け取ることは可能です。
未支給年金とは,亡くなられた年金受給者に支給すべきだったものが,まだ支給されていなかった年金です。未支給年金は,死亡した年金受給者の「配偶者,子,父母,孫,祖父母,または兄弟姉妹」であって,「死亡の当時に生計が同一だった方」が受給することができます。(国民年金法19条1項,厚生年金保険法37条1項,国家公務員共済組合法45条,地方公務員等共済組合法47条など)
本件の場合も,未支給年金については受け取ることは出来ると考えます。
但し,既に故人に支給された年金については,遺産に含まれますので相続放棄をした場合,受け取ることは出来ませんので注意して下さい。
2 手続きについて
インターネットなどが普及した昨今,書面の作成方法など様々な情報をインターネットから入手することが可能となりました。裁判所のホームページ等にも詳しく説明されており,一般の方にも分かりやすくなってきました。
ですから,本件のようにご自身で手続きがしやすくなり良かったと考える反面,時には情報を誤って受け取ってしまい,失敗された方の相談があるのも事実です。
本件の相談者は,費用をかけずにご自身でやられるとのことでしたが,相続放棄の期限が既に1ヶ月を切っており手続きを急ぐ必要がありました。また,書類に不備が見つかり,大変慌ただしい手続きになることが分かったため,ご依頼をれることになりました。
3 まとめ
上記でも述べられているとおり,相続放棄の手続きは,民法では,自己のために相続の開始があったことを知ったときから,3ヶ月以内にしなければならないと定められています。
どうしてもこの期間中に相続放棄の申述が出来ない特別な事情がある場合は,この期間中に管轄家庭裁判所に,期間の伸長を申立てることで,家庭裁判所がこの3ヶ月の熟慮期間の伸長を認めてくれます。(民法第915条)
ですから,状況に応じては相続放棄の期間の伸長をすることも考えられますし,そもそも,負債を相続したくないがために相続放棄をするのに,その手続きを間違ってしまい負債を相続してしまっては元も子もありません。
また,相続放棄をした法定相続人は,『初めから相続人でなかったこと』になります。このご相談の事例では,相談者と弟が相続放棄をした場合,第2順位である直系尊属(父母,祖父母)が相続人となります。(民法889条)直系尊属もいない場合,第3順位である兄弟姉妹,相続開始時に兄弟姉妹が先に亡くなっていた場合は,その代襲相続人(甥,姪)が相続人になりますが,子供の場合とは違い再代襲は認められず,甥,姪の一代限りです。(民法889条)
ついては,第2順位,第3順位の方が相続人となった際に,相続をしないのであれば,それぞれ相続放棄の手続きをしなければなりませんので注意が必要です。
4 最後に
相続放棄の手続きは,専門家に依頼しなくても行うことは可能です。
しかし,戸籍謄本など必要な書類を集めるだけでも,大変骨の折れる作業となりますし,時間も要します。
期限があることですから,手続きが分からない方や,その他何かご事情がある場合は,悩まずにすぐ当センターに相談をしましょう。
当センターでは,相続に関するご相談を無料で承っております。お気軽にご相談下さい。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。