父が会社を経営しており代表取締役に就いていました。長男もその会社で働いています。二男である私は、実家を出て、独立して生活しています。
先日、父が突然に亡くなってしまいました。遺産分割について話し合うにあたり、会社も相続することになるのでしょうか。

1 何が相続財産になるか

まず、会社を経営していた方が亡くなった場合、会社の財産や故人の代表者たる地位も相続財産となるのでしょうか。
そもそも、会社自体は相続の対象となることはなく、代表取締役たる地位も代表者の死亡により消滅します。つまり、会社を引き継ぐことと、死亡した会社代表者の相続のこととは、別個で検討していくことになります。ここでは、代表者の方の相続について触れておきます。

故人名義の銀行預貯金や、故人が所有者となっている不動産等については勿論、相続財産となりますが、会社に関係するものの中で相続の対象ととなるのは、株式会社であれば「株式」、有限会社であれば「出資持分」ということになります。
会社の代表であった故人が、会社の全株式を所有していた場合や、有限会社の出資持分を持っていた場合、会社の支配権が相続人の手に入ることからあたかも会社そのものを相続したように誤解されてしまうところがあります。
ところが、株式会社や有限会社という会社組織になっている場合には、会社の財産は、あくまで会社の財産であり、代表者の相続による影響は受けません。会社には、わたくしたち自然人とは別に、法人格が与えられており、それによって権利を持ったり、義務を負ったりするので、会社そのものは相続によって影響は受けないのです。

ただし、中小企業や個人経営に近い規模の小さい会社では、後継者問題が考えられます。先ほども述べたとおり、故人の株式あるいは出資持分は、相続の対象になるため、相続発生後、遺産分割の内容次第では、後継者問題に発展してしまうことも考えられます。

そこで、そういった問題を事前に回避するためには、後を継いでほしい者に、代表者の方自身が所有する株式や出資持分を相続させる、若しくは遺贈する旨の遺言を用意しておくことが望ましいのではないかと思われます。ただし、会社の規模によりますが、株式や出資持分を全部相続させたからといって当然に代表取締役の地位を引き継ぐというわけではありません。株式会社であれば、株主総会と取締役会での選任が必要であり、有限会社であれば社員総会の選任が必要なのです。

 

2 会社への貸付

また、会社への貸付金があればそれも相続財産となり、遺産分割の対象となります。
しかしながら、会社の経営状況が悪く、貸付金が実質的に回収不能な状態だと、それは単なる名目だけとなってしまい、実質は資本金のようなものとなってしまうこともあるでしょう。名目だけの貸付金を相続したとしても、それは相続税の課税対象として計算されてしまいます。
そのような場合には、貸付金の債権放棄することも検討した方がよいと考えられます。そうすれば、その貸付金を相続財産ではなくなります。

 

3 死亡退職金

会社によっては、死亡退職金が支払われる場合もあるかと思います。
所謂、死亡退職金とは、故人が在職期間中に亡くなった場合に、会社から支給される類のもので、「退職手当金」や「功労金」などの名目で支給されることが多いようです。
死亡退職金については、遺族の生活保障的な性質を有しているものであり、その支給については、会社の就業規則や退職金規程などで、故人が公務員であれば法律によって、それぞれ定められた人に対して支給されることになっています。

したがって、まずは故人の会社などに確認をする方がよいでしょう。
その支給規程において、死亡退職金を請求できる者の範囲や順位などが定められている場合には、その死亡退職金の請求権は受取人の固有の権利と解釈されます。つまり、死亡退職金は相続財産にはならず、遺産分割協議の対象とはならないということになります。

一方で、就業規則等に受取人の定めがない場合もあります。
この場合、裁判でも相続財産とする判決と、受取人固有の財産とる判決とがあるようで、事例によって判断も分かれるようです。
また、相続税の申告の際には、死亡退職金は課税対象とされる(ただし、非課税枠もあります。)ことにも注意が必要です。

上記の他にも、故人が事業を営んでいた場合には、負債があったり、その他様々な問題が生じたりすることもあります、お困りの際には、お気軽に当センターまでご相談ください。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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