Q:「遺言執行者」とはどういうことをする人ですか?
A:遺言の内容を実現する役割を担う人です。「遺言執行者」がいると相続手続き上も便利ですが、執行者を置いたことで紛争を引き起こすこともあります。

「遺言執行者」を指定するメリット

Aさんは万一に備えて遺言作りに取り組み始めました。妻はすでに死亡。相続人は長男、長女、次女の3人。遺産は家(土地と建物で相続税評価額は計4500万円)と預貯金(3000万円)の合計7500万円です。

Aさんは長男に家を相続させ、長男の嫁にも500万円の預貯金を遺贈しようと考えています。家には長男一家が同居しているほか、長男の嫁にも介護などの面で世話になったからです。長女と次女は嫁ぎ先が比較的裕福で持ち家もあるので、預貯金を1250万円ずつ相続させようと思っています。

ただ、懸念はあります。長男一家の相続分が全部で5000万円と遺産の約67%に達する点です。しかも相続人ではない長男の嫁に遺贈する内容では、長女、次女が納得しないのではないかと心配です。

長女や次女の遺留分(最低限の相続分)は遺産の6分の1(1250万円)。その分の預貯金を相続させることで配慮したつもりですがAさんは思案中です。
このような場合、Aさんは「遺言執行者」を遺言で指定するとよいでしょう。
遺言は法律的に大きな効果があります。遺言の内容が一部の相続人にとって不公平だったとしても、原則として遺言が優先します。

最も、遺言は自動的に実現するものではありません。相続人が遺言の内容にしたがって協力するからこそ実現するわけで、1人でも難色を示せば遺言の実現は滞ってしまいます。

また、金融機関によっては、所謂「争続」に巻き込まれるのを恐れ、相続人全員が合意したことを示す書類を求めるところもあるからです。それを払拭するために遺言執行者を遺言で指定します。遺言執行者は遺言で書かれた内容を実現する役割があります。

遺言執行者を遺言で必ず指定する必要はありませんが、いるとメッリトがある場合が少なくありません。
まず、相続手続きが円滑に進みます。遺言執行者は相続人の中に反対者がいても、名義変更などの手続を執行者の権限で出来るからです。
相続手続きは、財産の種類に応じて通常いろいろな添付書類が必要です。相続人がそれぞれ手続きをする場合は各人が添付書類を用意する必要があり、以外に大変です。

その点、遺言執行者にやってもらえば手間が省けます。遺贈を受ける人(受遺者)が相続人と疎遠なケースでも、遺言執行者がいると便利です。例えば、あるケースでは受遺者が遺言者の姪でしたが、相続人とは仲がよくなかったので困っていました。

そこで、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらったところ手続きがスムーズに進めることができました。
遺言者と前妻との間の子供や、認知した子供に遺産の一部を相続させる場合なども、相続人同士の面識がない場合も多く、遺言執行者がいるほうが円滑に進むようです。

 

弁護士など第三者を選ぶ方法もあります

最も、遺言執行者を置いたとことでかえって紛争を引き起こす場合もあります。例えば、遺言の多くを取得する相続人が遺言執行者になる場合です。
遺言執行は遺言書の内容を忠実に実現するだけなので、執行者は相続人や受遺者でもかまいませんが、遺産の多くを取得する人が遺言執行者になると、他の相続人が不審に思い、遺言自体の信憑性までも疑うケースが少なくないと言います。

Aさんの場合も、遺言執行者を長男にすると、長女、次女の不満は一段と高まることも考えられます。遺言執行者に親族を選ぶと揉め事の原因になりそうだと思われたならば、弁護士や司法書士など利害関係のない第三者を選ぶとよいでしょう。

遺言執行者を必ず指定しなければいけない場合もあります。

例えば、遺言で子供の認知をしたり、被相続人を虐待する相続人を遺言で廃除したりする場合です。遺言執行者が定められていない場合は、相続人らの申し立てで家庭裁判所が選任します。遺言執行者が基本的に必要ないケースは、遺言で法定相続分と異なる相続分を指定する場合などです。

なお、信託銀行は「遺言信託」という遺言書の作成支援や保管のほか相続財産の名義変更など遺言の内容を実現するサービスを行っています。この場合、遺言執行者は信託銀行自身が務めます。
ただ、信託銀行は、認知や未成年後見人の指定など身分に関する執行は引き受けられないことに注意が必要です。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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