もし、相続人の中に未成年がいた場合、普通に相続ができるのでしょうか?
仮に赤ちゃんが相続人だったら、相続についてどう判断するのでしょうか?
未成年者がいた場合の相続について、詳しくみていきましょう。
未成年者は財産上の法律行為が行えない
民法では、原則として未成年者は「制限行為能力者(※)」として、一定の法律行為が制限されています。
例えば携帯電話の契約や、本やゲームなどを中古ショップに売る際に保護者の同意が必要だったりします。このような財産上の法律行為を行うには保護者が「法定代理人」として手続きを進めることになっているのは、この制限によるものです。
※制限行為能力者…年齢及び判断力の程度を基準として、取引を行うこと等の行為能力を制限する制度で、制限行為をされている人のことを制限行為能力者と言います。簡単に言うと、一般の人より、判断力が不足している人のことです。
相続人の中に未成年者がいた場合、相続も財産に関する法律行為に当たりますので、法定代理人が必要です。
さて、では法定代理人とは誰がなるのか、どのような行為を行う人なのかというのを確認してみましょう。
親権者は未成年者の相続の法定代理人になれない
通常、法定代理人になるのは、未成年者の両親などの親権者です。
しかし、相続の場合は法定代理人を親権者にしてしまうと、お互いの利益が相反するものになってしまいます。そのため、親権者を法定代理人にすることはできません。
利益が相反するというのはどういう事かというと、例えば未成年者の子の父が亡くなって、相続人が母と未成年者の子の2人だった場合に、子が自分で物事を判断できない赤ちゃんだったとします。
通常は、相続人全員が遺産分割協議をして遺産の配分を決めるのですが、この場合に、母が法定代理人になってしまったら、母は遺産分割協議をすることなく、相続財産を全て自分が相続するような手続きができてしまうことになります。そうなると子は一切の相続をすることができなくなってしまいます。
このように、相続人の母と子は、利益が相反する立場となります。
そのため、民法によって親権者が未成年の子の法定代理人になることができないように規定をしているのです。
では、未成年の子はどうやって相続をするのかというと、「特別代理人」を選任します。
次はこの特別代理人についてみていきましょう。
未成年者の相続には特別代理人の選任が必要
相続人が親権者と未成年の子だった場合は、未成年の子のために特別代理人の選任を、家庭裁判所に申し立てします。未成年の子が複数人居る場合は、それぞれに特別代理人を選任します。
通常、特別代理人に選任されるのは、叔父や叔母などの法定相続人(法律の規定によって相続人となる人の事を言います。被相続人の配偶者、子、親兄弟などがこれに当たります)ではない親族です。そのほかにも、弁護士や司法書士、社会福祉士などの相続の専門家が選任されることもあります。
特別代理人は、通常は親権者などが候補者を決めて申し立てをします。
ですので、特別代理人の候補者となる親族がいない場合などは弁護士などの専門家に依頼をする方法を取ります。
特別代理人選任の申立を受けた家庭裁判所が、特別代理人を選任します。
特別代理人は、未成年の子の代わりに遺産分割協議書に署名捺印をします。
これで遺産分割協議が成立し、未成年の子に遺産が分配されることになります。
●特別代理人選任申立の手続きについて
<申立人>親権者・利害関係人
<申立先>子の住所地を管轄する家庭裁判所
まず、申立の時点であらかじめ、遺産分割協議書の案を提出しなければなりません。
この案の内容が、未成年者の子に不利である場合は、通常は裁判所が認めてくれません。先ほどの例だと、法定相続分(民法で定められた遺産の割合)は母1/2、子1/2の割合になりますので、子に1/2以上の割合で遺産を相続させる内容でないと認められないというわけです。
例外として、親権者が子の面倒の一切をみている場合などは、親権者が法定相続分を超える割合での相続をすることも認められることもありますが、いずれにしてもその判断は家庭裁判所が行います。
●特別代理人選任申立の必要書類
・申立書
・申立人及び未成年者の戸籍謄本
・特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票
・利益相反に関する資料(遺産分割協議書案、不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)など)
※事案により、また、申し立てをする裁判所によって必要書類は異なります。あらかじめ管轄の家庭裁判所に確認をしておきましょう。
●特別代理人選任申立の費用
・(子一人につき)収入印紙800円
・連絡用の郵便切手(各家庭裁判所により異なります)
また、別途次の費用も必要な場合があります。
・戸籍謄本や住民票の取得費用
・弁護士などの専門家に依頼する場合はその費用
法定相続分通りの相続登記は親権者が法定代理人になれる
そもそも、法定相続分通りに相続をする場合は、遺産分割協議を行う必要がありませんので、相続人の中に未成年者がいた場合でも特別代理人を選任する必要もありません。
そのため、法定相続分通りの相続をした場合の不動産の相続登記は、先ほどの例だと母1/2、子1/2ずつで不動産を共有することになり、母と子の共有不動産となります。
この場合は、親権者が法定代理人として相続登記をすることができます。
●相続不動産を売却する場合
法定相続分で相続をした不動産を売却する場合も、相続登記と同様に親権者が法定代理人として手続きをすることができます。
この場合は、一度共有名義で相続登記をした上で、共有名義のまま不動産の売却の手続きを行います。そうすると、未成年者の子のために特別代理人を選任し、遺産分割協議を行う必要はありません。
●未成年者の子が特別受益者だった場合
未成年者の子が、被相続人(亡くなった方)の生前に、相続分を超える財産の贈与を受けていた場合は、特別受益者となります。
特別受益者とは、被相続人からの生前に財産(特別受益)貰っていることを理由に、他の相続人との間で公平を図るため、相続分が少なくなる相続人のことを言います。
未成年者の子が特別受益者だった場合は、その旨を証明する書面を提出すれば、相続登記をすることが可能です。その旨を証明する書面を「相続分なきことの証明書」と言います。
●相続分なきことの証明書
相続分なきことの証明書は、未成年者の子が特別受益者だった場合は、親権者が作成することができます。相続分なきことの証明書の作成は、事実を証明するだけなので、利益相反行為に該当しないとされているためです。
相続分なきことの証明書を作成は、印鑑証明書の取得ができれば未成年者自身でも作成することが可能です。
もし、母に不動産を単独名義で登記をさせたい場合、子供が複数いれば、全員分の相続分なきことの証明書を母が取得することができれば、単独名義での登記が可能です。
この方法は、実際に特別受益を受けた未成年者の子がいる場合に使われるものですので、特別代理人の選任を避けるために使用するものではありません。
まとめ
未成年の子を遺してこの世を去ってしまうのは、特別なことではありません。
未成年の子との遺産分割は、通常よりも少し作業が増えてしまいますので、配偶者の方は伴侶を失った悲しみの中大変だと思いますが、子供のためにきちんと遺産分割をしてあげなければなりませんね。
相続については、素人では難しい部分があります。弁護士や司法書士など、相続のプロに、わからないことは聞いたり依頼したりすることをおすすめいたします。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
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