先日、母方の祖母が亡くなりました。
配偶者である祖父は既に亡くなっており、子は母と、母の兄(伯父)の2人でしたが、いずれも祖母より前に亡くなっています。
伯父には子がいなかったため、祖母の法定相続人は孫である私だけだと思っていました。
そこで、相続に関する手続を進めようと、戸籍を確認したところ、祖母には別に子供がいたことがわかりました。
親戚に確認したところ、祖母は祖父と結婚するだいぶ前に、別の男性との間に子供を授かっていました。しかしながら、二人は結婚せず、またお互いに当時は経済的な事情で子供を育てる余裕がなかったために、やむを得ず、生んだ子は生後間もなく別の家庭に養子に出された、ということを聞きました。
祖母としては、若い時分に産んだ子で、しかも生後間もなく養子に出していたこともあり、自分の子であるという認識が薄かったようです。両親が認知していないという子であれば、この人物は法定相続人ではないですよね。
さて、今回の相談ですが、子供の認知にまつわる相続について確認していきたいと思います。
■両親ともに子供を認知しないことはあり得るのか?
まず、認知についてお話したいと思います。
認知とは、婚姻関係を結んでいない状態で、女性が子供を生んだ場合、法律上の父親が不明という扱いになります。
そこで、父親である男性が自分の子供だと認め、市区町村役場に認知届を出すことがができます。これを「任意認知」といいます。
ところが、男性が自分の子供だと認めない場合には、法的な手続きをとって強制的に認知させることとなります。
この場合、家庭裁判所に認知調停を申し立てます。裁判所は調停委員を交えて男性の説得を試みます。調停で男性が納得しない場合、調停は不調になり、家事審判に移行しますが、男性の実子であることが明らかな場合には、裁判所が審判によって認知させるという決定を下すことになります。しかしながら、審判でも不服申立てができますので、その場合には訴訟を提起して裁判で争う、という流れになります。
現在ではDNA鑑定ができるため、生物学上の父子関係を証明することが可能となりました。男性がDNA鑑定を拒否すること自体が調停や裁判で不利に働くため、男性の実子であればほとんどの場合で強制的に認知させることができるでしょう。
これを「強制認知」といいます。
一方で、男性が自分の子供だと認めなかった場合、生まれてきた子供は、母親である女性が市区町村役場に出生届を提出することで、母親の戸籍に入ることになります。その際、戸籍上の父親の欄は空白となってしまいます。
子供は必ず母親から生まれてきますので、両親が結婚していない場合でも、子供と母親との法的な親子関係は確実であるため、母親に「認知」という考え方はないのです。
なお、出生届には嫡出子、非嫡出子の別を記す欄があります。婚姻中に生まれた子は「嫡出子」婚姻届を出していなければ「非嫡出子」になります。
したがって、今回の相談内容から考えれば、母親が生んだ子供を別の家庭に子供を養子に出したとしても、また男性が自分の子供として認知していなくても、母親から生まれてきたことには間違いないので、母親との親子関係は消えません。母が亡くなれば、その子供は法定相続人となるのです。
■認知をしたときに発生する子供の権利
男性がその子供を認知してくれた場合、子供にはどのような権利が生じるのでしょうか。
➀戸籍の父親の欄に父親の名前が記載される。
上記でも触れたように、女性が未婚で子供を生み、男性が認知しないままで出生届を提出すれば、戸籍の父欄は空白のままですが、男性が認知することによって、戸籍に父親の名前が記載されます。
ただし、認知届を出しても子供の姓は変わらず、戸籍の異動もありません。子供は母親の姓を名乗り、母親の戸籍に入っていて、親権も母親にありますが、父親とは法律上の親子関係になります。
民法では以下のとおり規定しています。
【民法第779条(認知)参照】
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
【民法第784条(認知の効力)参照】
認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。
【民法第789条(準正)参照】
父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
つまり、認知しても婚姻していなければ、非嫡出子のままという事になってしまいます。したがって、父親は出生届の届出人になることはできません。
非嫡出子が父親の氏を称することを希望する場合には、認知をした上で、家庭裁判所への「子の氏の変更許可」の申し立てをして、裁判所の許可を得る必要があります。
家庭裁判所の許可を得た後に,父親の戸籍の市区町村役場に届出をして父親の戸籍へ入籍して、はじめて父の氏を名乗ることができるのです。
➁「養育費」をもらうことができる。
認知することにより、法律上の親子関係が発生します。すると、扶養義務が生じますので父親から扶養料(養育費)をもらうことが可能になります。
逆に、将来父親の生活力が無くなった場合には扶養する義務が生じます。
【民法第877条(扶養義務者)参照】
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
また、男性が認知をした後でも、親権者は原則母親のままですが、両親同士で定めれば、親権者を父親に変更することも可能です。
【民法第819条第4項(離婚または認知の場合の親権者)参照】
父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父が行う。
➂父親の法定相続人になれる。
これも上記でご説明したように、法律上の親子関係となっているので、父親が死亡した場合は法定相続人になることができます。
■任意認知の要件
➀認知能力
認知の意味・内容を判断する意思能力があれば,自ら認知をすることができます。
➁認知に承諾を必要とする場合
認知は,認知する者の単独行為であって,認知される者の承諾を必要としないのが原則ですが,成年の子を認知するには,成年の子の承諾を得なければならないと規定されています。
【民法第782条(成年の子の認知)参照】
成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。
胎児認知する場合には、母の承諾を得なければならないと規定されています。
また、死亡した子でも、その子に子や孫(直系卑属)がいる場合には認知をすることができます。その場合、直系卑属が成年である場合はその者の承諾を得なければならないと規定されています。
【民法第783条(胎児又は死亡した子の認知)参照】
1.父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
2.父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。
今回は認知について説明させて頂きました。
改めて冒頭の相談内容については上記で説明したとおり、祖母が未婚で生んだ子も法定相続人となりますので、今後、相続の手続きを進める上では、この法定相続人と遺産分割協議を行う必要がありますね。
また余談ですが、この子供については、父親が認知していれば、父親の法定相続人にもなりますし、養父母の相続人にもなるのです。
相続の事案というのは、本当に様々なケースがあります。
特に相関関係が複雑であればあるほど、ご自身で判断して行動すると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。ご家族の方が亡くなった場合、まずは正確な相関関係を把握することが大切です。
その上で、明らかにその関係が複雑であり、誰が法定相続人になるのか悩まれた場合には、即座に専門家に相談することをお勧めします。
当センターでも相続事件については様々なケースを取り扱いした実績がありますので、まずはお気軽にご相談してください。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。