半年前に継母が亡くなりました。継母は,先妻に先立たれ,当時3歳の私を抱えていた父と再婚し,私の母となってくれました。その後,自分の子も作らず,本当に私を大事に育ててくれました。
父が10年前に亡くなった時には,父の財産は全て継母が相続し,その後も穏やかに生活していました。
しかし,継母が急逝してしまい,私は相続の手続きも手につかないまま気がつけば3ヵ月が過ぎていました。
そして,ようやく気持ちも落ち着いてきて,不動産の名義や,継母の貯金などの整理を始めようと戸籍を取寄せたところ,私と継母は養子縁組をしていなかったため相続人でないことが判明しました。
私と継母は一緒の戸籍に入っていたので,無知であったといえばそれまでですが,想像だにしなかった結果に愕然としています。そして,さらに驚いたことに,継母には離婚歴があり,前夫との間に娘が1人いましたが,前夫が親権を取得し,前夫と生活を共にしていたようで,その後音信が途絶えていたようでした。
戸籍の調査を依頼した司法書士からも,唯一の相続人は実子である前夫との子なので,遺産は全てこの子が相続することになると説明を受けました。ただ,その子が相続放棄をしてくれれば何とかなるだろうと言われましたが,私は不安でなりません。
継母との関係がゆるぎないものであったからこそ,父の遺産も全て継母に相続させたのです。このままでは私は住み慣れた家まで失いかねません。仮に,その子が全ての遺産を要求してきた場合,私は父の相続に遡ってどうにかできるものなのでしょか。毎日不安で気が狂いそうです。
1 戸籍謄本について
ご相談者は,継母と同じ戸籍であったことから当然親子であったと認識していたようですが,あくまでもこれは,お父様の戸籍に継母が婚姻によって入籍してきたのであって,その時すでにご相談者は出生によってお父様の籍に入っていた為,同一の戸籍となっているだけなのです。
仮に,シングルマザーが再婚し,夫の戸籍に入籍した場合,自動的に連れ子が入籍することはなく,養子縁組によってのみ入籍することが出来ます。
昨今は,子連れでの再婚も多く,新たな親子関係が築かれますが,既にご存知のとおり,一緒に生活をしているだけでは,事実上の親子ではあっても,法律上では親子にはならないのです。法律上の親子ではないとなれば,当然相続人となり得ないことは明白です。
2 法定相続人
継母が急逝され,ご相談の内容から考えれば遺言書はなかったと思料します。戸籍の調査により,唯一の相続人である実子の存在を知り,落胆されているお気持ちは十分に理解していますが,然しながら民法が定める相続人は配偶者と血族(直系尊属として子や孫。直系卑属として父や母。傍系の血族として兄弟姉妹や姪甥)に定められています。当然養子縁組をすれば,血縁がなくとも同等の立場の法定相続人となります。
3 相続放棄
唯一の相続人である実子が,ご相談者の気持ちを汲み取って全ての相続を放棄してくれれば問題は解決するように思われますが,継母には兄弟姉妹はいなかったのでしょうか。仮に養女が相続を放棄した場合でも,継母の父母,兄弟姉妹が存命であれば,相続はそちらに移動します。さらに,その方々が全て亡くなっていた場合はその子どもたちまで移動します。
つまり,継母の姪甥までが法定相続人となるのです。
4 特別縁故者
法定相続人がすべて相続放棄を,相続人なしと確定された場合に限り「特別縁故者への分与」という制度が認められています。民法は特別縁故者を「被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養監護に努めた者その他被相続人と特別の縁故のあった者」と規定しています。特別縁故者は,相続人の場合は違い,特別縁故者とされるかは裁判所の裁量に委ねられています。ご相談者の場合,継母と生計を同じくしていた者として見なされ,特別縁故者となることに問題はないと思料しますが,法定相続人と違って,特別縁故者の相続税額は,通常の相続税額に2割相当額を加算した金額となります。
5 相続人からの贈与
特別縁故者の手続きには時間もかかることが予想される為,贈与税はかかりますが,相続人に一旦相続してもらった遺産を,相続人から贈与してもらうという方法も考えられます。
6 お父様の遺産の返還
10年前にお父様が亡くなられた際,すべて継母が相続したとの事ですが,その時点に遡って,遺産分割協議のやり直しは可能です。しかし,それには相続人全員の同意が必要です。すでに継母が亡くなっている今,やはりその実子が継母の相続人として,遺産分割協議に同意しなければ協議のやり直しは出来ません。
7 まとめ
ご相談者が継母の遺産を受け取るには「特別縁故者の分与」「相続人からの贈与」「遺産分割協議のやり直し」の3つの選択肢があると思料しますが,どれをとっても相続人の意思にかかっています。相続人が認めてくれなければ,残念ながら何の手立てもなく,すべての遺産は相続人のものとなります。
相談者の方の心中はお察ししますが,まずは実子へ連絡をし,進めていかなければなりません。ご相談者の気持ちを理解して下さる方であれば問題はないのですが,そうでない場合も当然予想されますので,連絡は慎重に行って下さい。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。
なお,やはりこのような場合には,法律の専門家に委ねることも必要だと考えます。一度ご検討下さい。ご相談者の希望に添った結果となることを願っています。