ここでは、宗教法人が事業承継、あるいは相続を行う場合に税金はかかるのか、についてできるだけわかりやすく解説していきます。宗教法人は基本的に非課税という印象がありますよね。実際のところはどうなっているのか、順を追って見ていきましょう。

そもそも宗教法人とは?

これは法律によってきちんと定められています。昭和26年4月に施行された宗教法人法によると、「宗教団体が、礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため、 宗教団体に法律上の能力を与える」とされています。

ざっくりと解説すると、「寺院や教会といった礼拝のための施設」を所有しており、「宗派や教団といった統括する組織」が存在する団体(これを宗教団体と呼びます)に対して、「信教の自由を保障するために法人格を与える」といった内容です。宗教法人を名乗るためにはまず宗教団体である必要があるわけですね。そして、宗教法人を設立するためには、包括している都道府県知事あるいは文部科学大臣に対して実に様々な手続きが必要となります。ちょっとお告げを受けたから今日から私も宗教法人、とはいきません。

では具体的にはどういう法律なのか? というと、「信教の自由、政教分離を確保しながら、宗教団体に法人格を与える、そのため、宗教に対し国家は最小限度の関与にとどまる」という感じでしょうか。信教の自由や政教分離政策というのは憲法の一種ですね。それらの憲法を順守しながら、宗教団体の自主性や自律性を認めるために、政府は必要最低限しか関与しませんよ、と言っているわけです。

宗教法人ってどれくらいあるの?

現在、日本国内にはおおよそ182,000もの宗教法人が存在します。

その内訳は神道系が約85,000、仏教系が約78,000、キリスト教系が約4,700、その他宗教が約15,000となっています。予想通りと言いますか、神道と仏教がぶっちぎりですね。
そして、年間に行われる事業承継や相続の件数はというと、正確な数字ではありませんが、おおよそ6~12%、10,920~21,840件ほどであると予測されます。なんだかすごい数字ですね。宗教法人がこれほど存在しているなんて思ってもみませんでした。

 

具体的な事業承継って?

宗教法人の場合、その多くが親族承継、すなわち親から子への相続となりますが、親族に受け継ぐ意思がない、あるいは親族がいないなどの理由で親族以外への承継を行うケースがあります。あるいは信者の減少に伴い法人を他人に譲渡したりすることもあります。

どのケースであっても、まず必要なことは責任役員会で後継者を決定することです。責任役員というのは檀家さんや氏子さんの代表者たちのことです。お寺の場合は護持会ともいいますね。彼らは常日頃から寺や神社を守りより発展させるべく活動をしています。たとえ宮司や住職であっても、責任役員会の意見を無視して後継者を決定することはできません。

次に、どこからどこまでを承継するのかを決定する必要があります。これは主に課税対象部分に関してですね。
宗教法人には様々な免税措置がありますが、何もかも全部非課税なんてことはありません。収益を得ているものに関しては課税対象なのです。と言ってもピンとはきませんよね。具体的な例を挙げて行きましょう。
例えば喜捨やお布施。これは「信仰心を形に表したもの」であるので非課税です。宗教的行為の一環とみなされます。お守りやおみくじなどの販売に関しても同じです。

しかし、例えば駐車場に料金が発生する場合、これは営利目的の行為と見なされますので課税対象となります。信者さん向けの駐車場であれば、すでにお布施やら何やらをいただいているわけですから、無料でよいのです。
あるいは、結婚式やお葬式。儀式そのものに関しては非課税ですが、そこで出される飲食物を販売したり、衣装や物品などでレンタル料を取った場合には課税対象となります。
すなわち、宗教そのものに関わる施設や宗教的行為に必要なものに関しては、問題なく承継対象ですが、+αのお金儲け部分に関しては対象外になる、ということです。線引きは非常に難しく、その時々によって変わるようです。

ちなみに、意外かもしれませんが住職さんや宮司さんは普通に納税者です。所得税に住民税、消費税等々、大抵の場合は会計士さんと相談をして、ちゃんと確定申告をしてるんですよ。むしろ立場があるのできちんとしている方かもしれませんね。お布施や寄付などが信者さんから寺社仏閣へ入る際には非課税ですが、そこから給料を支払うと所得税がしっかりかかるのです。

もう一つ、信者さんたちの行く末を決定する必要があります。通常の引継ぎでしたら何の問題もありません。今まで通り檀家や氏子として活動していけます。ですが、宗教法人を取りやめた場合や事業承継の仕方によってはこれまで通りの活動ができなくなる場合があります。

例えば普通のお寺さんだったのが、機械式の集合慰霊方式に変わってしまったら、どうでしょう。経営的観点から責任役員会が納得したとしても、檀家さんの方はこれまで通りとはいきませんよね。檀家をやめお寺を去る方もいらっしゃるかもしれません。
このような場合にどう対応するのか、事前にきちんと決めておく必要があります。責任役員自体の交代を迫られるケースもあります。

事業承継のメリットとデメリットって?

メリット

譲る側には様々な不安(後継者難や信者の行く末、はたまた老後の生活など)が解消されるというメリットがあります。なによりも、法人が継続する、名前が残ると言うことが一番かもしれません。また受け取り側にも、手続きの簡略化や各種優遇措置、あるいは慈善事業による企業イメージの向上などといった利点があります。

デメリット

デメリットとしては、他者である分これまでの伝統であるとか信者さんの気持ちがないがしろにされるかもしれないことがあげられるでしょう。受け取り側としても、せっかくイメージ向上を図ったのに大バッシングを食らって逆効果、なんてこともあるかもしれません。建物の増改築に多額の資金が必要になることもデメリットと言えるでしょう。

 

宗教法人の事業承継の問題点とは?

宗教法人の法人格は、信教の自由を順守するため、政府から取り消すことができません。これを悪用して、活動実態のない団体が法人格を取得し、それをインターネットなどで売買するというケースが多発しているのです。いわゆるペーパーカンパニーをでっちあげ、更に売り飛ばしているようなイメージです。
文部科学省や文化庁が主導で、不活動宗教法人の合併や解散を進めるよう各方面へ指導していますが、うまくいっていないのが現状です。このような宗教法人をだまされて事業承継してしまう可能性も受け手側にはありますね。

相続の場合はどうなの?

ほとんどの場合、信者さんの心情が一番安定するのが親族による相続です。むしろ当然と考えているケースも多いです。とはいえ、とんでもないドラ息子だったとしても強く否定しづらい、といったデメリットはあるでしょう。あるいは、相続者が思い切った「事業転換」を考えている場合は、親族以外への事業承継と同じような問題が発生するでしょう。

結局税金はかかるの?

宗教法人は一部の税金に対し優遇措置が受けられます。不動産所得税、事業税、印紙税、固定資産税、都市計画税、登録免許税、所得税、法人税などがそれにあたります。税率などは一概には決まっておらず、特定条件下で免除されたり、割合控除されたり、様々です。
相続や承継に関しては、僧侶の資格を持つ後継者であれば、宗教行為に関係するものは非課税となります。

贈与税は? そもそも贈与できるの?

一般的には、Aさん(個人)がBさん(個人)へ贈与を行った場合、受け取った側のBさんに贈与税が発生します。宗教法人の場合はどうなるでしょうか。

まず、Aさん(宗教法人)がBさん(個人)へと贈与を行った場合ですが、これは基本的にあり得ません。宗教法人の資産はAさんという個人の意思で他人に贈与することはできないからです。もしあったとしても、それはAさんの(宗教とは関りのない)個人的な資産をBさんへ贈与したということですので、通常通りBさんに贈与税が発生します。
逆に、Aさん(宗教法人)に対しBさん(個人)が贈与を行った場合、なんと、贈った側であるBさんに譲渡所得税が発生する場合があります。宗教法人であるAさんは非課税です。なんだかおかしな話ですね。どうしてこうなるのでしょう。

譲渡所得税って何?

所得税法の第59条に、「譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす」とあります。このままではさっぱりわかりませんね。少し整理してみましょう。

「譲渡所得の起因となる資産」を個人が法人に譲渡した場合、「その者」に、「その時における価格に相当する金額」に応じて「譲渡所得」を課す。もう一歩ですね。

「不動産などの資産」を個人が法人へ譲渡した場合、「譲渡した側」に、「その資産を取得した時点から譲渡した時点までで値上がりした金額」に応じて「譲渡所得税」がかかる、と。これならわかりますね。意味はともかくとして。
宗教法人は非課税だから土地を寄付しても大丈夫、などと早合点をすると、後から税金がやってきて驚くことになるかもしれません。信心の篤い方こそ注意しなければいけませんね。

実は、このよくわからない状況を回避するための特別措置、というものがあります。「租税特別措置法」という法令がそれです。ただし、この措置を受けるためには法令の定めるいくつかの要件をすべて満たす必要があります。

租税特別措置法とは?

これは非常に難しい法令ですので引用は避けて要点だけを述べることにします。租税特別措置法の第40条に、特定の要件を満たしている場合、譲渡所得税は免除されるとあります。
その要件というのは、以下の3点です。

1:その譲渡が公共の役に立つものであること
2:譲渡されてから2年以内に法人によって活用されること
3:譲渡した人物が脱税や減税目的でないこと

実際にはもっと細かく設定されていますが、あまりにも煩雑なので割愛させていただきます。これらの要件を満たしたうえで、国税庁長官の承認を受けられた場合に、譲渡所得税は免除されると思っていいでしょう。

 

まとめ

宗教法人の所有する(宗教関連の)ものに関しては、僧侶の資格を持った後継者であれば非課税で相続できます。仏教画や儀式に使われる道具、宗教法人名義の預貯金などがこれに当たります。それ以外にも、境内にある建物や施設などは基本的に非課税ですが、前述のような有料駐車場などは課税対象となる場合があります。

また、本堂をAさん、墓地をBさんにというように分割相続をすることはできません。たった一人の後継者のみが、全てを相続します。法人所有でない、個人の財産に関しては一般と同じです。
どこまでが法人でどこからが個人かという線引きは非常に難しく、その時々の判断にゆだねられます。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続には様々な形があり、手続きや申請方法もケースによって異なります。専門知識が無い方は申請書の不備等で無駄な費用が掛かってしまう可能性もありますのでしっかりと相談することをおすすめします。