Q:社会保険の手続きはどれくらいありますか?
A:「遺族年金」の請求などは早めにやらないと生活資金に影響が出かねません。社会保険労務士などの専門家に相談してみましょう。
親や配偶者の相続手続きでは遺産分割に関心が集まりがちですが、残された家族の生活を考えれば、公的医療保険や公的年金といった社会保険の手続きも忘れてならないものです。社会保険の手続きは申請が基本で役所から通知が来ることもないので、忘れずに手続きしましょう。家族が動かないと受け取れるものも受け取れなくなり、生活に影響が出ます。
公的医療保険
会社員らが加入する「健康保険」、年金生活者や自営業者らが加入する「国民健康保険」、75歳以上の高齢者らが加入する「後期高齢者医療制度」があります。
いずれも被保険者が亡くなると、埋葬費用の一部として「埋葬料」または「葬祭費」が支給されます。
健康保険の場合は5万円が支給されます。
被扶養者となっている家族が死亡した場合は、家族埋葬料として同じく5万円が支給されます。
国民健康保険、後期高齢者医療制度の場合は、市区町村により異なりますが、5万円前後が支給されます。手続きに必要な書類は、被相続人の死亡を確認できる死亡診断書の写しや被保険者証、葬儀にかかった領収書などです。戸籍謄本などはいらないので、家族でも比較的簡単に申請できるでしょう。
高額療養費の請求も忘れないでください。「高額療養費制度」とは、1か月にかかった医療費がある一定額を超えた場合は、その超えた金額を払い戻してくれる制度です。
公的年金
つぎに、公的年金の手続きも必要です。具体的には「遺族年金」です。遺族年金は加入者本人が亡くなった時に、その配偶者や子供に生活保障のため支給するものです。
日本の公的年金は全国民共通の国民年金(基礎年金)と、会社員らが国民年金の上乗せで加入する厚生年金保険があります。
国民年金だけに入っている自営業者の人などには国民年金から、会社員の家族や会社員だった年金生活者の家族には国民年金、厚生年金の両方から支給があります。
「遺族基礎年金」は18歳未満の子供がいれば受け取ることができます。子供がいる厚生年金加入者の家族は、遺族基礎年金と「遺族厚生年金」の両方をもらえます。遺族厚生年金は、子のない妻が受け取る場合で40歳以上である場合は65歳になるまでの間、「中高齢寡婦加算」がもらえます。
遺族基礎年金も遺族厚生年金ももらえない場合も、10年以上婚姻関係のあった妻には、妻が60歳から64歳までの間、「寡婦年金」が支給されます。これは、夫の国民年金の保険料が掛け捨てにならないようにという配慮から支給される年金です。
「死亡一時金」は、寡婦年金と同様に他の年金が受け取れないときに支給されるもので、年金形式ではなく一時金として支給されます。寡婦年金と死亡一時金の両方がもらえる場合はいずれか1つを選択しなければなりません。
未支給の年金の請求も忘れずに
このように、遺族年金は遺族である妻や子供の有無、その年齢などの
条件によって支給内容が変わって来ます。わからなければ、年金事務所で聞けばどの年金を申請したらよいか、申請の仕方はどうするかなどを教えてくれるでしょう。
また、未支給の年金の請求も忘れてはいけません。加入者が生きている間に受け取っていた老齢年金の支払いは年6回で、支払月(偶数月)の前月までの2カ月分が支払われます。
加入者の死亡によって受給権が消滅した月まで年金は支払われますので、亡くなった人が年金受給者であれば、常に1か月以上の未支給の年金がもらい残しになっていることになります。それを、生計を同じくしていた遺族が受け取ることができます。
こうした社会保険の手続きを専門家に頼む手もあります。公的医療保険や公的年金の手続きの専門家には、社会保険労務士がいます。特に公的年金は、手続きだけでなく、仕組みも公的医療保険よりわかりにくいので、社会保険労務士に相談しながら手続きも依頼するのがいいかもしれません。報酬は数万円程度かかります。
遺族年金の種類
◆遺族基礎年金◆
どのようなもの? 国民年金の第1号被保険者や老齢基礎年金を受給していた人が死亡した場合にもらえ年金
受給できる人 配偶者 18歳未満の子供(1級または2級の障害者は20歳未満)
金額や計算方法など 妻と子供1人 年間100万4600円
子供1人 年間78万100円など(2015年度)
◆寡婦年金◆
どのようなもの? 貴族基礎年金もらえない妻が60~64歳の間にもらえる年金
受給出来る人 妻
金額や計算方法など 夫が本来受け取れる金額の4分の3
◆死亡一時金◆
どのようなもの? 被相続人が国民年金に加入中で遺族基礎年金がもらえない場合に受け取れる年金
受給できる人 配偶者、子供など
金額や計算方法など 被相続人の保険料納付済期間による保険料納付済期間が3年以上15年未満は12万円
◆遺族厚生年金◆
どのようなもの? 国民年金の第2号被保険者(厚生年金保険に加入している人)や老齢厚生年金を受給していた人が死亡した場合にもらえる年金
受給できる人 配偶者(夫は55歳以上)
18歳未満の子供(1級または20未満)
父母(55歳以上)など
金額や計算方法など 死亡した人の在職中の平均標準報酬月額による
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。