相続では、被相続人(死亡した人)の遺言がない場合には、法定相続分の割合で相続することを原則とし、法定相続分以外の割合で遺産分割しようとするときには、遺産分割協議が必要となります。

遺産分割協議は、各相続人に、遺産の何を、どれだけ相続されるかについて話し合う場のことを言いますが、話し合いを行うためには、被相続人の財産を全て洗い出すとともに、協議に参加できる相続人も確定させる必要があります。

 

■遺産分割に参加できるのはだれ?

遺産分割協議に参加できる相続人にはどのような人がいるのかを知るためには、民法で定めている相続人(法定相続人)を知る必要があります。法定相続人となる人には、大きく分けて2つの系統があります。

まず、被相続人の配偶者です。

生きていれば常に相続人として遺産分割協議に参加できます。配偶者以外の法定相続人には、被相続人の子ども、孫など(直系卑属)、被相続人の父母、祖父母(直系尊属)、被相続人の兄弟姉妹がいます。
ただし、被相続人が死亡した場合に、これらの法定相続人が全て遺産分割協議に参加できるわけではありません。

子どもがいれば遺産分割について協議するのは配偶者と子どもであり、その場合、父母や兄弟姉妹は参加することはできません。
次に、子どもがいなければ配偶者と父母らで遺産分割協議を行います。
父母が共に死亡しているものの、祖父母のいずれかがまだ健在であれば、その祖父母が配偶者とともに遺産分割協議を行うことになります。

子どもも父母もいなければ、配偶者と兄弟姉妹がそれぞれ相続人として遺産分割協議を行うこととなります。
以上のように法定相続人にも順位があります。

なお、被相続人が死亡した時点ですでに子どもが死亡していて、その子どもに子ども、つまり被相続人から見た孫がいれば、その孫が相続人となり、「代襲相続人」と言います。
被相続人が死亡した時点で、子も孫もいるがいずれも死亡しているものの、ひ孫がいれば、「再代襲」と言って、ひ孫が相続人になります。実際には少ない事例かもしれませんが、直系卑属については、何代までも再代襲することになるのです。
一方で、兄弟姉妹が相続人となる場合、被相続人が死亡した時点で、兄弟姉妹のいずれかが死亡していれば、その子ども(被相続人の甥姪)までは代襲相続します。しかしながら、相続人が兄弟姉妹の場合の代襲相続はその1代までに限ることには注意が必要です。

ここで注意したいのは、被相続人が以前結婚していたときの子どもや被相続人が生前に認知した婚外子です。
前の配偶者や認知した子どもを生んだ母親、認知していない子どもは相続人とはならないため、遺産分割協議に参加することはできません。
しかしながら、以前結婚していたときの子どもや認知した子どもは、相続人として遺産分割協議に参加する権利があります。
これらの人を除いた協議は法律的に無効となり、協議をやり直す必要がありますから、被相続人が生まれてから死亡するまでの全ての戸籍謄本を調べてみましょう。

 

■未成年の相続人や、認知症の相続人がいる場合は

遺産分割協議は、民法で決められた法定相続分を基準に行うことが一般的です。配偶者と子どもが相続する場合、法定相続分は各2分の1です。子どもが複数いれば2分の1を均分します。これはこんな婚内子であっても婚外子であっても同じです。

子どもが未成年(20歳未満)の場合も注意が必要です。一般的に子どもが未成年の場合はその親が法定代理人となりますが、未成年者の法廷代理人である親が子どもに代わって遺産分割手続きに参加すると、親も相続人である場合は、親と子どもは「利益相反の関係」、つまり親が多く取得すると子どもが不利益になるという事態になりかねません。

そこで、親は子どものために家庭裁判所に対して特別代理人(親権者に代わって未成年者を代理する人)の選任を申し立て、その特別代理人が未成年の子に代わって遺産分割協議に参加する必要があるのです。

また、相続人である配偶者が認知症などで判断能力が低下しているということも考えられます。

この場合は「成年後見制度」を利用します。成年後見制度には判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの種類がありますが、その制度により選ばれた成年後見人、保佐人または補助人が相続人である配偶者に代わって遺産分割協議に参加することになります。

ただし、保佐人や補助人が遺産分割の協議を行うためには、遺産分割協議をすることについての代理権を与える旨の審判を家庭裁判所に申し立てる必要があります。なお、成年後見人らが他の相続人である場合も、利益相反の関係になりかねません。この場合でも、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、その特別代理人が遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割協議の対象となる財産や協議に参加する相続人の範囲が確定すると、いよいよ協議の開始となります。協議と言っても基本的には身内同士の話し合いですから、感情に流されがちになります。協議がお互いに譲り合う精神でいい方向に働けばいいのですが、悪いほうに向くと収拾がつかない争いごとに発展しかねません。

 

■相続人の範囲と順位のまとめ

➀配偶者
・夫または妻は常に相続人になる
・前の妻や夫、内縁者は相続人にならない

➁第一順位(子ども)直系卑属
・子ども先に死亡している場合には、子どもの子どもである孫(直系卑属)が相続人になる
・養子も相続人になるが、相続税法上、相続税の総額を計算する上では実子がいる場合には1人まで、いない場合には2人まで
・民法上は養子が何人でも差し支えない

➂第二順位(父母、祖父母)直系卑属
・被相続人に子どもがいない場合、父母が相続人になる
・父母も死亡している場合は祖父母

➃第三順位(兄弟姉妹、甥、姪)
・被相続人に子ども、父母らがいない場合、兄弟姉妹が相続人になる。
・兄弟姉妹が先に死亡している場合には、その兄弟姉妹の子(甥や姪)

 

■法定相続人と法廷相続分のまとめ

第一順位→子ども(直系卑属)2分の1、配偶者2分の1
第二順位→親(直系尊属)3分の1、配偶者3分の2
第三順位→兄弟姉妹4分の1、配偶者4分の3

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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