※こちらの記事の内容は法改正により一部変更された内容が記載されている点があります。 修正された内容はコチラ「相続法の改正で、変更されたポイント」をご覧ください。 |
先般、夫が亡くなりました。
わたしたち夫婦に子はなく、夫の両親は共に健在であるため、法定相続人は妻であるわたしと夫の両親の3人です。
夫は両親の浪費癖を以前から危惧していたこともあり、生前から、財産は全て妻であるわたしに遺す、と事ある毎に言ってくれていました。また、自筆の遺言書で、全ての財産を妻であるわたしに相続させる旨も書き遺してくれていました。遺された財産としては、現金が約1000万円と現在の評価額が約2000万円の自宅不動産くらいです。
夫の死後、その遺言書を夫の両親に見せたところ、日付の記載がないのでこの遺言書は無効である、と言われてしまい、法定相続分で分割するよう迫られています。
夫とは夫婦二人で仲良く暮らしてきましたし、せっかく夫がわたしのためにと遺してくれたという夫の意思を無駄にしたくないと思っています。
やはり、遺言書が無効であれば、夫の両親が言うように遺産分割協議をしなければならないのでしょうか。夫の意思を実現する方法はないのでしょうか。
■自筆証書遺言は様式が重要
そもそも遺言とは、自分が生前に築いた財産について、その処分方法などを言い残しておく、最期の意思表示になるものです。
遺言は満15歳になれば、たとえ未成年であってもすることができます(民法第961条)。
また、民法第960条では「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定めており、遺言が遺言者の真意に基づくものであることを確かなものにするために、民法第967条以下で厳格な方式を定めており、この方式や手続きに従ったものでないと認められないのです。
そのうち、自筆証書遺言とは、遺言者が、紙に自ら遺言内容の全文を書き、且つ、日付と氏名を書いて、署名の下に押印して作成する遺言書です(民法第968条1項)。
これは全て自筆で書く必要があり、パソコンやタイプライターなどによるものは無効とされてしまいます。また、加筆訂正、その他の変更についても、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、且つ、その変更の場所に押印をしなければ、その効力を生じない、と記載方法については厳格に規定されているのです(民法第968条2項)。
これらの要件を欠いたものは、原則、無効となるため、今回のご相談内容の遺言書についても、日付が記載されていないことから無効になってしまうと考えられます。
■遺贈と死因贈与の違いは?
そもそも「贈与」とは、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる(民法第549条)と規定されています。
「遺贈」とは、遺言によって、財産の全部または一部を、相続人又は相続人以外の人に無償で贈与することをいい、その効力は、遺言者が死亡した時に発生します(民法第964条)。
一方で「死因贈与」とは、贈与する者の死亡によって効力が生じる生前の贈与契約のことをいいます。
遺贈も死因贈与も、財産を無償で贈与する点、及び贈与者の死亡によって贈与の効力が生じる点で共通しており、民法でも「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」(民法第554条)とされています。
それでは「遺贈」と「死因贈与」はどこに違いがあるのでしょうか。
第一に、「遺贈」は贈与を受ける者(受遺者)の意思に関係なく、贈与する者(贈与者)が一方的に意思表示をすれば足りる単独行為であるのに対して、「死因贈与」は、贈与者と受贈者との間で「あげます-もらいます」という両者の意思の合致(契約)が必要となります。
第二に、「遺贈」は遺言によってなされるため、遺言書(書面)によらなければならないことに対し、「死因贈与」は必ずしも書面による必要はありません。
第三に、「遺贈」は遺言によって行われるため、その内容を受遺者に知らせずに行うことができますが、「死因贈与」は上記のとおり「あげます-もらいます」の意思の合致が必要となるため、受遺者にその内容を知らせることができます。
■遺言書が無効でも、死因贈与を主張できる場合がある?
上記のとおり、遺言書は厳格に様式を定めていることから、形式上の不備がある場合は無効となってしまい、今回のご相談事例で夫が書かれていた遺言書も法的には無効になってしまうと考えられます。
遺言が無効であれば、相続財産は法定相続分に従い相続人の共有財産となるのが原則です。
しかしながら、遺言書の内容が被相続人の真意であるにも関わらず、形式の不備によって全ての遺言を無効とすることは妥当ではないとのことから、遺言者(贈与者)と受遺者が生前に話し合って内容を確認していた場合には、生前に、贈与者の亡くなった後に財産を贈与する旨の合意があったものとして、遺言とは別に死因贈与契約成立していたものとして、遺言どおりの効果が認められる場合もあります。
死因贈与契約は、必ずしも書面でなく口頭だけでも、贈与者と受贈者の間で合意があったことが証明されれば認められます。その場合、遺言書については、形式の不備で遺言書としては無効であっても、遺言者(贈与者)が亡くなった後に受遺者(受贈者)に対して財産を贈与する旨の趣旨を含んでいるものとして、死因贈与契約の書面としてであれば扱われるような場合もあります。
過去の裁判例でも、自筆証書遺言としては形式不備により無効であるとされたにもかかわらず、死因贈与契約が成立していたとして、遺言書の内容どおりの効果が認められたものもあります。それらの裁判例では、遺言者が受贈者に対して遺言の内容を伝えており、また受贈者がそれに対して承諾していることを認定した上で死因贈与の成立を認めています。
しかしながら、遺言が無効のすべての場合において、死因贈与として遺言書の内容どおりの効果が生じるわけではなく、贈与者と受遺者との間での「あげます-もらいます」の意思の合致がなければ、その効果は生じないのです。
以上のことから、今回のご相談については、夫婦間で死因贈与契約があったものと認められる可能性も考えられる事案ではないかと思われます。
遺言書の形式上の不備だけで遺言内容の実現を諦めるのでなく、まずは一度ご相談してみてください。ご相談は無料で承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。