特別受益者の相続について

私は5年前に、父親から自宅購入資金の贈与を受けました。その場合、父親が亡くなった際の相続はどのようになりますか。なお、父親が亡くなった際の相続人は、母親A、長男B、長女C(相談者)の3人となる見込みです。

⇒父親から贈与を受けた自宅購入資金は、生計の資本として贈与に当たりみなし相続財産(特別受益)に該当するので、特別受益の持戻しとして各相続人の相続分は計算し、特別受益者は、一応の相続分と特別受益額が等しいか、又は特別受益額が一応の相続分より多い時は、相続分を受けることができません。
しかしながら、父親から持戻しの免除の意思表示がある場合は、共同相続人は法定相続分割合での相続となります。

特別受益制度とは

共同相続人の中に、亡くなった人(被相続人)から遺贈を受けたり、婚姻・養子縁組ため又は生計の資本として贈与を受けたりした者がいる場合には、その受益額(贈与額)を相続財産とみなし(みなし相続財産)、その者の相続分を縮小させ、共同相続人間での公平を図ることを目的とした制度があります。簡単に言うと、子供が親からもらったお金は法律上「特別受益」とされ、そのお金はいわば「相続財産の前渡し」と見なされます。この遺贈や生前贈与を受けた相続人を「特別受益者」といい、特別受益分を遺産の中に回復させることを「特別受益の持戻し」といいます。

なお、被相続人の死亡前の贈与時期についての制限はありません。
これを今回の相談例に当てはめてみると、共同相続人は母親A、長男B、長女Cの3人で、「特別受益者」は、相談者である長女Cとなります。

 

特別受益の持戻しの要件

特別受益の持戻しが認められる要件は、➀被相続人が共同相続人中のある者に対して遺贈をしたり、婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として贈与したりしたこと、➁被相続人が持戻しの免除の意思表示をしていないこと、の2つが挙げられます。

要件の中の➀の婚姻・養子縁組のためとは、婚姻や養子縁組のための持参金・嫁入り道具・支度金等の財産の贈与を示し、➀の生計の資本とは、居住用の土地・建物の購入代金、開業資金等の贈与や学資について、兄弟姉妹の中で1人だけ大学や大学院までの学費を出してもらった場合には、生計の資本として贈与があったと考えることができます。

しかしながら、遺贈はこのような目的でされることは要せず、遺贈された財産は、まだ相続開始当時の財産に含まれていることから、加えるべき特別受益額は「贈与の価額」となりますが、減ずべき特別受益額は「贈与又は遺贈の価額」となります。
なお、共同相続人には、相続についての単純承認者及び限定承認者を含みますが、相続を放棄した者は、初めから相続人でなかったことになることから共同相続人には含まれません。また、相続放棄をした者は特別受益を持ち戻す必要はありません。
要件②の補足として、遺産処分自由の原則から、被相続人が持戻しの免除の意思表示をしたときは、特別受益は相続財産に算入されません。

遺贈に関する免除の意思表示は、遺言で行う必要がありますが、生前贈与に関する持戻しは遺言で行う必要はなく、贈与と同時や贈与後に適宜行ってもよいとされています。
ただし、持戻し免除の意思表示の結果、特別受益者の相続分が他の相続人の遺留分を侵害するときは、相続人から遺留分減殺請求権を行使されることはあります。

 

特別受益でもめないためにすべきこと

本当は、遺言書に特別受益について金額まで明確に記されていれば相続人達は納得せざるを得ませんが、積極的に遺言書を残してくれるケースは多くありません。

とはいえ、相続人同士でのトラブルを回避するためには、聞き取りをし「誰々に幾ら遺したいのか」を聞いて書面化することをお勧めします。

書面の形式は問いませんが、特別受益の内容、特別受益の額、贈与した人の自筆のサインと押印・日付だけは必ず書面化しましょう。
遺言書と異なり録音も証拠とはなりますが、相続人の1人が「こんな声ではなかった。」と言いだすと、「声紋鑑定」は非常に難しく、証拠として認められない可能性が高くなり、トラブルが長期化してしまうケースも多いです。

面倒がって必要なこと(書面での証拠化)を怠った場合が最もトラブルが起きやすく、また泥沼化し、不利益になってから対処しようとしても「時すでに遅し」とただ嘆くだけとなってしまうことも多いのです。損をしてしまうのはいつも「知識不足の人」「やるべきことをしない人」で、知識不足ややるべきことをしないで損をしても誰も救ってはくれません。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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