※こちらの記事の内容は法改正により一部変更された内容が記載されている点があります。
修正された内容はコチラ「相続法の改正で、変更されたポイント」をご覧ください。

奥様のご両親に今後発生する相続についてのご質問を頂きました。

ご相談者の方は,長女である奥様と結婚し,義父母共に養子縁組をしていらっしゃる,所謂婿養子です。
義理のご両親は健在ですが,現在はご夫婦共に,介護施設に入居しています。また,二女は既に亡くなっており,子(甥御さん)が2人います。
仮に,義父がお亡くなりになった場合,配偶者である義母,長女,亡二女の代襲相続人*1である甥2人と,それに加え,義父と養子縁組をしているご相談者が法定相続人となります。
ご両親は常々,どちらが先に亡くなっても,自分たちは相続しない,と仰っており,甥2人に対しては幾らかの現金を渡し,残りの大部分を長女とご相談者に相続させるという内容で公正証書遺言書*2を作成していらっしゃるようです。
ところで,そもそもこのような内容での相続手続きは可能なのでしょうか?

結論から申し上げると,相続手続きは可能です。
故人の意思を尊重するためにも,遺言書の内容は優先されるべきものです。
しかしながら,本件の場合,遺言書どおりの相続をした場合,代襲相続人である甥の遺留分の侵害をしてしまうことが考えられます。その場合,遺留分相当額に満つるまでの差額について請求されてしまう可能性があります。

ここで,参考までに,「遺留分」についてご説明をしましょう。
相続財産の遺留分とは,最低限相続できる財産を,残された相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人に保証している権利です。遺言書の内容は優先されるべきものですが,たとえば「愛人に対し全財産をあげる」という遺言書を残した場合,残された遺族は,生活ができなくなるという事態もおこり得ます。あまりにも不利益な事態を防ぐため,遺産の一定割合を保証する制度が遺留分です。
遺留分の侵害とは,自らの遺留分権利が遺言によって侵害されている場合のことを言い,自分の相続した割合が遺留分を下回ると分かったときは,遺留分相当の額を請求できる権利があります。このことを「遺留分減殺請求」といいます。

遺留分減殺請求ができる相続人は,配偶者・直系尊属(父母・祖父母など自分より前の世代で,直通する系統の親族,養父母も含む)・直系卑属(子・孫など自分より後の世代で,直通する系統の親族,養子も含む)で,兄弟姉妹は除かれます。

それでは,各相続人の遺留分の具体例を挙げておきましょう。
法定相続人が・・・
配偶者のみ   配偶者が2分の1
子供のみ      子供が2分1
配偶者と子供    配偶者が4分の1 子が4分の1
配偶者と父母    配偶者が3分の1 父母が6分の1
配偶者と兄弟姉妹  配偶者が2分の1 兄弟姉妹は遺留分なし
父母のみ      父母が3分の1
兄弟姉妹のみ    兄弟姉妹には遺留分なし
※代襲相続による相続人にも遺留分の権利があります。

 

遺留分の基礎となる財産

遺留分を計算する際の相続財産は,亡くなった方の死亡時に有していた財産とは異なります。
1 遺贈
2 死因贈与
3 亡くなった方が生前に贈与した財産
4 相続人が受けた特別贈与
5 遺留分を害することを知ってなされた不相当な対価をもってした有償行為は贈与とみなされます。

上記の財産から,相続発生時の負債(公租公課などの公法上の負債も含む)を差引いたものを基準に遺留分の計算をします。

 

遺留分減殺請求の仕方

「遺留分減殺請求」をするという意思表示をするだけでよく,請求を証拠に残しておくため,内容証明郵便(配達証明付)で行うのがよいでしょう。相手が請求に応じない場合,家庭裁判所に遺留分減殺の調停の申立てをすることができます。

遺留分を侵害する遺言であっても,無効になるわけではありません。遺留分を取り返す権利を行使するかどうかは相続人の自由であり「遺留分減殺請求」が行使されるまで有効な遺言として効力を有します。
なお,遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,相続開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅します。また,相続開始時から10年を経過したときも,同様となります(民法1042条)のでご注意下さい。

*1 代襲相続人とは・・
被相続人の子が,相続開始以前に死亡している場合や,相続欠格事由に該当している場合,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その相続人の子供が代襲して相続人になります。(民法887条2項)

*2 公正証書遺言書とは・・
公証役場で公証人に作成してもらう遺言書であり,自筆証書遺言のように,家庭裁判所で検認手続きを行なう必要はないため,相続開始後,速やかに遺言の内容を実現することができます。
また,公証役場に原本は保管されています。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。