「個人再生手続中の夫が他界した場合,借金は無くなるの?」
ご相談内容は,夫が癌を患っています。夫は負債を抱えており,昨年12月より個人再生手続の申立をしたうえで,債権者への弁済を開始しています。夫が万が一のとき,負債は無くなりますか?

1 まず,個人再生手続とは

民事再生法の改正によって,平成13年からスタート手続きです。
借金の返済が厳しくなった人に対して,民事再生法13条の規定に従い,返済負担額の圧縮と返済計画の立案を支援するという国の救済措置です。
債務整理には,大きく分けると3通りの方法があります。

一つは任意整理と呼ばれている方法で,これは債権者と和解交渉をして,将来の利息を極力減らしてもらって3年から5年の長期分割で返済をしていく方法です。
もう一つは,自己破産と呼ばれている方法で,これは裁判手続で,自身の生活状況を説明した上で,最終的には借金を免除(これを「免責」といいます)してもらう国の救済制度です。
そして,最後の一つが民事再生(個人再生)と呼ばれる方法で,これは任意整理をするのは難しいものの,さまざまな事情から自己破産だけはしたくないという人のために,一定額の借金を返済し財産も守れるという両者の中間的な制度なのです。

個人再生手続きについて簡単に説明をすると,住宅ローンなどを除く借金の総額が5000万円を超えない個人が,将来の収入から一定額(借金の2割程度)以上の金額を債権者に原則3年間で分割弁済する計画(再生計画案)を裁判所に提出します。そして,債権者の過半数かつ借金金額の半分を超える反対がなければ,裁判所は再生計画案を認可するものとされています。(「小規模個人再生手続」といいます。)あとは,この再生計画案に従って一定額の返済をすれば,残りの借金(借金の8割程度)を免除されるという制度です。(なお,個人再生手続には,「小規模個人再生」のほかに,サラリーマンなど一定の給与などで生計を立てている人は,債権者の反対の有無を問うことなく裁判所の認可を得られる「給与所得者等再生」手続も利用できます。)

 

2 相続では「借金も財産のうち」です。

ご主人は元々借金があり個人再生手続をした後,無事認可決定を受けたうえ,昨年12月から弁済を開始しているとのことですね。
将来ご主人が,弁済をしている期間中に他界した場合,亡くなってしまったのだから,そのまま再生計画も借金も無くなるのでは?と考えがちですが,相続では「借金も財産のうち」です。
相続人は,再生債務者の死亡時の財産と債務を承継することになります。  よって,再生計画に基づいた弁済義務というのは,実はその故人の相続人
に引き続きその義務が課せられるため,残っている弁済金については,相続人が継続して支払っていかなければならないのです。

一旦確定した再生計画は,債権者から裁判所に対して取消しの申立がされて,それを裁判所が許可しない限り取消しにはなりません。
それでは相続人は,何が何でも代わりに支払いをしなければならないかというと,そうではありません。
もしも,プラスの相続財産も全て相続放棄をするならば,個人再生手続きで残ってしまった弁済金の支払い義務もなくなります。

しかしながら,相続財産に不動産などの価値が高いものがあり,残りの再生計画通りの弁済を相続人が継続しても損をしないのであれば,再生計画に沿って相続人がそのまま支払っていくという方法も検討できると思います。
相続放棄の手続きを行なうには期限が定まっています。もし,故人の相続財産に負債が含まれているようであれば,まずは早めに当センターにご相談ください。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。