◎ご質問
離婚し、音信不通だった父が病死したとの連絡がありました。
同居している彼女から生前の治療費、介護費、葬儀代等の立替金120万円の請求が弁護士を通じてきました。
この請求は妥当なもので、請求に応じなければならないのでしょうか?
◎見解
生前の治療費・介護費は相続財産である
相続財産というと被相続人(亡くなった方)が有していたプラス財産のみを指すように思えますが、被相続人が有していたマイナス財産(借金等)も含みます。なぜなら、民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定しているからです。
生前の治療費、介護費は本来亡くなったお父様が負担すべき債務ですから、被相続人が有していたマイナス財産ということになります。
したがって、生前の治療費・介護費は相続財産となります。
プラス財産については、相続人の間で遺産分割協議を行い、誰が何をもらうのか決めることになりますが、マイナス財産については遺産分割の対象となりません。相続人間で法定相続分に従って当然分割されます。
したがって、お父様が有していた立替金支払い義務は相続の対象となり、相続人間で当然分割されます。
相続人の方は自己の相続分の限度で立替金の返還請求に応じなければならないと思われます。
◎葬儀費用は相続財産ではない
これに対し、葬儀費用は、被相続人が亡くなった後に発生するものですから、相続財産とはならず、喪主が負担するものと考えられています。
よくトラブルになるケースとして、喪主である兄弟の一方が葬儀費用を立替え、他方の兄弟に葬儀費用の分担を求めたところ拒否されるというケースがあります。
葬儀費用が相続財産であれば、法定相続分に従い当然に分割されますから、他の兄弟に葬儀費用の分担を求める権利が生じます。
しかし、葬儀費用は相続財産ではありませんから、喪主が他の兄弟に葬儀費用の分担を請求しても、法的には認められないことになります。
また、上記の法的な帰結にかかわらず、葬儀費用の負担者について相続人間の合意が可能な場合には、その合意内容に沿って負担者や各自の負担額を自由に取り決めることができます。
葬儀費用は相続財産ではないので、本来遺産分割の対象とはなりませんが、上記のような合意が成立したときは、葬儀費用の問題を遺産分割協議や遺産分割調停の中に持ち込み、一括して解決することもできます。
実務における調停での解決では、法定相続人の一人が喪主になり、葬儀費用を支払った場合、他の法定相続人が葬儀に出席している場合には、その葬儀費用が適正であり、かつもらった香典額を差し引いた上で出席した他の相続人に分担してもらうことで解決する場合が多いです。
もっとも、今回のケースでは、同居していた彼女が喪主になっています。同居していた彼女は相続人ではありませんので、遺産分割協議や遺産分割審判で解決することはできません。
法的にはあくまでも、葬儀費用は相続財産ではなく、喪主の負担になると考えられていますので、相続人の方は彼女からの葬儀費用の請求については応じる必要がないと考えます。
葬儀費用は喪主の負担になるとして、香典の帰属についてはどのように考えられるでしょうか。
香典は葬儀費用に充てることを目的とした喪主に対する特別の贈与と考えられています。
そのため、喪主が葬儀費用を全面的に負担することになっても、香典を全てその葬儀費用に充てることができますから、喪主の実質的な負担額は、葬儀費用から香典額を控除した残額ということになります。
※ケースについては、「大澤龍司法律事務所 相続これで納得!弁護士に聞く無料相談」
(http://osawalaw2souzoku.blog16.fc2.com/blog-entry-514.html?q=%E7%AB%8B%E6%9B%BF)
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。