この度、父が急死してしまいました。
母は10年前に亡くなっており、法定相続人は、長女であるわたしと、長男である弟の2人だけです。
父はもともとギャンブルが好きな人でしたので、現金や預貯金などは殆ど残っていません。
一方で、父の死後、遺品の整理をしていたところ、消費者金融や信販会社の支払い明細や督促状が出てきました。
わたしも弟も、父とは離れて暮らしていたため、父が借金をしていたことはまったく知りませんでしたが、年金生活だったことを考えれば、ギャンブルするためのお金を、貸金業者からの借入で賄っていたようです。そこで明細等が残っていた各貸金業者に問い合わせをしたところ、貸金業者4社に対して300万円ほどの借入が残っているようです。
相続放棄をした方がよいのでしょうか。
回答:相続が開始したら
相続が開始した場合、相続人は次の3つのうちのいずれかを選択することができます。
1 相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ単純承認
2 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄
3 被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認
※相続人が、2の相続放棄又は3の限定承認をするには、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。その申述は、民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています。
借金があっても、過払い金が戻ってくる場合もあります
被相続人が借金を残して亡くなられた場合は、他に相続財産がなければ相続放棄を検討することになると思われます。そのときに気を付けなければならないのは、いつ、どこから借りていたのか、を確認することです。
消費者金融や信販会社からの借入の場合、借入年数によっては、払いすぎた利息(所謂「過払い金」)が発生しており、借金がなくなるだけでなく、逆に過払い金が返還されることもあるからです。
そもそも、金銭消費貸借の利息は利息制限法によって、次のように定められています。
金銭を目的とする金銭消費貸借契約における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする(同法1条1項)。
1 元本の額が10万円未満の場合 年2割
2 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分
3 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分
しかしながら、消費者金融や信販会社などの貸金業者による貸付けは、上記制限利率を超えた利息での契約となっていることが多かったのが実情です。
これは、当時の出資法(正式には、「出資の受け入れ、預り金及び金利等の取締に関する法律」)5条2項所定の年29.2%を超えない限り、刑事罰には問われなかったからです。
このように、利息制限法を超えるが出資法には違反しない範囲の利息を「グレーゾーン金利」といいました。
所謂、このグレーゾーン金利を巡り裁判で争われた結果、利息制限法の上限を超える金利を支払っている場合で、支払い過ぎた金額が借金の元本を超えた場合には、その超過部分の金額を貸金業者から返還してもらえることになります。「過払い金」の正体は、これまで支払ってきた「グレーゾーン金利」なのです。
過払い金返還請求権も相続します。
取引年数によっては、過去の取引を見直すことで、今ある借金が帳消しになり、逆に過払い金が返還される可能性もあります。過払い金が発生していれば、その相続権も当然に相続されます。
過払い金が発生しているか否かは、貸金業者から取引履歴を開示してもらい、利息制限法に基づく引き直し計算を行わなければ、正確に判断することはできません。取引内容によっては、過払い金が発生していても、債務が残ってしまうことも考えられます。
貸金業者に履歴の開示を請求し、過払い金の有無を確認するためには、それなりの時間を要することになりますが、前述のとおり、相続するか否かは3か月以内に決めなければならないことになります。
相続するか否かを検討する期間を延長してもらえる場合があります
近親者が亡くなると、遺族は、葬儀や役所への届け出、その他さまざまな手続きやその後の法要などが続き、なかなか相続についてきちんと考える時間的な余裕がないことも多いと思います。
生前から被相続人の財産をきちんと把握していればそんなに問題はないでしょうが、遺産の確認にはそれなりに時間を要するものです。また、両親が離婚しているなどの理由で、一方の親と疎遠になっていたところ、急にその親が亡くなったとの連絡が来るなど、相続人には該当するものの被相続人の状況がまったく分からないといった状況もあるでしょう。そうなってしまうと遺産の有無や内容の確認には、相当の時間を費やすこともあるでしょう。
相続人が、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月(この期間を「熟慮期間」とも言います)以内に相続財産の状況を調査してもなお、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことができます。
但し、熟慮期間の伸長を求める申立ては、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります。
なお、熟慮期間は相続人ごとに進行するので、相続人が複数いるような場合は、1人の相続人が期間の伸長の申し立てをしても、その他の相続人の熟慮期間には影響を与えません。したがって、相続人全員が期間の伸長をしたい場合は、相続人全員がそれぞれ申し立てをしなければいけません。
借金があるから即相続放棄を選択するのではなく、まずはきちんと遺産の内容を確認してから判断しましょう
今回の相談者は、遺産は借金しかないので相続放棄をした方がいいか、との相談でしたが、上記のとおり、借金も内容をよくよく確認してみると、プラスの遺産になることもあり得るのです。
被相続人の財産調査は、ときには非常に手間も時間もがかかるものです。
特に負債があるような場合には、安易に判断せずに、一度法律の専門家に相談してみることをお勧めします。
当センターは、無料でご相談を承っていますので、お気軽にご相談下さい。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。