数次相続とは?

数次相続というのは、法定相続人が遺産分割協議を行う前に死亡した場合に、別の法定相続人がこの相続権を引き継ぐものです。

例えば、家族として父親、母親、2人の子供がいたとしましょう。
この場合の数次相続とは、例えば、父親が死亡して、父親の財産の遺産分割協議を行う前に、母親が死亡したような状況です。
2人の子供は、父親の法定相続人でもあり、さらに母親の法定相続人でもあります。
父親の財産の遺産分割協議を行う際には、基本的に、母親と2人の子供が行う必要があります。
つまり、数次相続とは、相続がこのように重なって複数回発生するような状況のことを言います。

 

読み方が似ている「相次相続」との違いは?

数次相続と相次相続というのはよく似た言葉ですが、意味はちょっと違っています。
相次相続というのは、相続が続けて発生するものです。

しかし、数次相続の場合は、遺産分割協議が行われない状態で相続が続けて発生するものです。
また、相次相続の場合は、特例として相次相続控除というものが設定されています。
というのは、相続が続いて発生すると、税金を最初の相続の時に納付したにも関わらず、再度多くの税金を次の相続の時に納付するのは余りにも負担が大き過ぎるあるためです。
そのため、相続が一定期間のうちに続けて発生した時には、最初の相続の際に納付した一部の相続税を次の相続の時に差し引くものです。
相次相続の場合は、このように、遺産分割協議が終わっていることが条件になって制度が設定されています。

つまり、数次相続は遺産分割協議が行われていない時に次の相続が発生した場合、相次相続は遺産分割協議の後に次の相続が発生した場合になります。

 

「数次相続」と「代襲相続」のちがい

数次相続というのは、相続が発生して遺産分割協議を行う前に法定相続人が死亡した時に、相続権を法定相続人が引き継ぐことです。
一方、代襲相続というのは、本来の法定相続人が相続する前に死亡しているので、相続権をその子供が引き継ぐことです。

 

具体的な数次相続の例

質問

先日、父が急逝しました。
相続人は、母と長男であるわたし、長女である妹の3人です。
父はギャンブルが好きで、消費者金融や信販会社などからの500万円近い借金を遺して亡くなってしまいました。

そんな調子ですから、預貯金はほとんどなく、住まいも賃貸であったため、相続する財産と呼ばれるようなものはほとんどありません。相続人であるわたしたち親子3人は、相続放棄を検討しています。
その旨を、父方の伯父に相談したところ、祖父の遺産相続が終わっていないから、相続放棄はやめるように言われてしまいました。

資産家であった祖父が昨年死亡し、父が遺産分割の話し合いをしていることは知っていました。父は祖父からの相続分が入れば、借金はすぐに返済できると常日頃から言っていました。しかしながら、父が祖父の遺産を相続する前に亡くなってしまったため、父の財産は借金しか遺っていません。そこで、まずは父の相続について相続放棄をし、祖父の相続については子であるわたしと妹が、代襲相続人として、遺産分割の話し合いに参加すればよいと思っていました。
どういうことなのでしょうか。

回答

まず、結論から申し上げると、伯父様の言ったとおり、お父様の相続放棄については一度白紙にされて検討しなおした方がいいのではないかと思われます。
そもそも「代襲相続」とは次のように定められています。

「被相続人の子が、相続開始以前に死亡したとき、又は891条の規定(相続人の欠格事由)に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる(民法第887条2項前文)」。つまり、子どもが被相続人である親より先に死亡している場合に、孫が本来の相続人である子の代わりとなって、親の相続をする、という制度です。

今回のご相談者は、この代襲相続の制度を誤って解釈してしまっているようでした。祖父の相続が終わらないうちに、祖父の相続人であった父が死亡してしまった。

一方で、父の相続については、負債が多いために相続放棄をしようと思っているが、他方では、資産家であった祖父の相続については、父の代わりに父の相続人であるご相談者が相続することができる、と考えていたようで、これを代襲相続だと思ってらっしゃったとのことでした。ところが、これは代襲相続でなく、単なる「数次相続」なのです。

「数次相続」とは、被相続人の遺産分割が終了する前に相続人が死亡してしまい、その地位を相続人の法定相続人が引き継いでいる状態のことをいいます。
たとえば、父が死亡し、母と兄弟2人の3人が法定相続人であったとします。父の相続について、まだ何も話し合いや手続きをしていない状況で、相続人の1人である母が死亡してしまうような場合が「数次相続」の状態です。

この場合、子である兄弟2人は、父の相続人でもあると同時に、母の相続人でもあります。父の遺産分割については、父の相続発生時相続人であった母と子の3人で行うべきでしたが、父の相続開始後に母も亡くなってしまったため、父の遺産分割協議については、兄弟2人と、母の法定相続人でもある兄弟2人が母の立場で、遺産分割を行うこととなるのです。勿論、母の遺産分割については、別途、母の法定相続人である兄弟2人で行うこととなります。
このように、相続手続きが終わらない状況で、その相続人間で新たな相続が発生し、相続が重なってしまう状況のことを「数次相続」というのです。

つまり。「代襲相続」と「数次相続」は、亡くなった順番の違い、ということになります。

今回の相談事例について言えば、相談者の父が亡くなる前に、父方の祖父が亡くなっているため、これは数次相続となります。したがって、父の法定相続人である母と、長男及び長女が、父の立場で祖父の遺産分割に参加することになります。

この順番が逆で、仮に、父が祖父よりも先に亡くなっていた場合は、代襲相続となり、子である長男と長女のみが、父に代わって、祖父の遺産分割に参加することとなります。
ここで、問題になるのが、今回のような事例で、一方で父の相続については負債の方が多いことから、父の法定相続人である母と長男及び長女が、相続放棄をしてしまうとしましょう。相続放棄が家庭裁判所で受理されると、その効果は父の相続発生時に遡り、その相続放棄をした相続人は、はじめから相続人でなかった、という扱いになってしまいます。

ところが、父は祖父が亡くなった時点では生きており、祖父の法定相続人でした。その祖父の遺産分割が終わらないうちに父は亡くなってしまったので、他方では、父の法定相続人である母と長男及び長女が、父の立場でそれぞれが祖父の遺産分割に参加できることになるのです。しかしながら、父の相続について相続放棄をしてしまうと、父の相続人でなくなってしまうため、祖父の相続についても当然に相続することができなくなくなってしまうということです。

つまり、祖父の遺産相続について、父の立場で相続する財産が、父の相続財産にもなるということです。祖父が資産家であるとのことでしたので、相続するプラスの財産があるのではないでしょうか。それらを亡くなった父の立場で相続し、父が抱えていた負債と相殺してもなお、負債が残ってしまうようであれば、その時に父の相続については、相続放棄の手続きを検討すれば良いのではないかと思われます。父の相続について相続するか否かは、祖父からの相続についても併せて確認した上で、慎重に検討しなければならないということです。

今回のご相談のように、相続の発生した順番で、相続関係が大きく異なることもあります。相続人が異なれば、当然法定相続分も変わってきます。数次相続になるのか、代襲相続になるのかは、相続の発生した順番がポイントになるので、相続が重なったり、たて続いていたりするようなときは、ひとつひとつの相続について、慎重に確認をした上で、検討しましょう。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。