Q:一番もめない遺産分割の仕方はどのようなものでしょうか?
A:相続人の状況に応じて具体的な公平さが保たれるような分け方が紛争を起こさない分け方です。特別受益や寄与分を考慮するのは最低限の条件です。

〔家族それぞれの事情を思いやる〕

相続は被相続人、相続人の状況に応じて千差万別であり、「これが一番よい」という理想を示すのは難しいものです。ただ、相続人同士がもめずに遺産分けができ、それぞれの立場から被相続人に感謝できるような相続にしたいものです。

そこで、理想型とは言いにくいかもしれませんが、相続人が紛争に巻き込まれない遺産分割はどういうものかを考えてみましょう。
実は、民法にも遺産分割の基準について次のような条件があります。

「遺産の分割は遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする(民法第906条)。」抽象的ですが、よく読むとなかなか「味がある」規定ぶりとなっています。遺産の内容と相続人の状況などをよく勘案した遺産分けを心がけるように示しているからです。

特に重要なのは、それぞれの相続人が置かれた状況を考慮することでしょう。相続人の状況はいろいろです。親から生前に多額の財産をもらってマイホームを購入した人、亡くなった親と同居して介護などの世話をよくしていた人、生涯のある相続人、離婚して子どもをつれて実家に戻ってきた相続人などさまざまです。

遺産分割協議では、まず相続人同士がお互いの状況の情報を共有し、理解し、思いやって、遺産の具体的な分配の仕方を考えることが大切です。
親から生前に多額の財産をもらってマイホームを購入した人は、他の相続人から指摘される前にそれを明らかにしたほうがいいでしょうし、亡くなった親と同居して介護などの世話をよくしていた相続人にはその貢献を遺産分割にできるだけ反映させることが必要です。障害のある相続人にはできるだけ多くの財産を分けたり、場合によっては他の相続人が成年後見制度を活用して後見人を努めたりする必要があるかもしれません。
下記の例は、親から生前に多額の財産をもらっていた相続人と、亡くなった親と同居して介護などの世話をよくしていた相続人がいる場合の具体的な相続分の決め方を示したものです。

特別受益と寄与分を同時に勘案した分け方です。

 

特別受益と寄与分を考慮した法定相続分の修正例

ケース:相続人が妻A、子どもB、子どもCの三人で被相続人の死亡時の相続財産は5,000万円、Bの寄与分600万円、Cへの生前贈与(Cの特別受益)1,000万円の場合

① 被相続人の死亡時の相続財産に特別受益を加算し、寄与分を差し引いて、相続財産額を修正
[5,000万円+1,000万円(特別受益を加算)-600万円(寄与分を差し引く)=5,400万円]

② 修正後の相続財産額で法定相続分を計算し、そこから特別受益を差し引き、寄与分を加算する。各相続人の修正後の具体的な相続分は以下の通り(カッコ内は修正前の相続分)
妻A:5,400万円×2分の1=2,700万円(5,000万円×2分の1=2,500万円)
子B:5,400万円×4分の1+600万円=1,950万円(5000万円×4分の1=1250万円)
子C:5400万円×4分の1-1000万円=350万円(5000万円×4分の1=1250万円)

※法定相続分は配偶者2分の1、子どもB、Cはそれぞれ4分の1ずつ
実際の相続はいろいろな要素が入り組んでいて、このようにすっきりとは計算できないかもしれませんが、紛争を起こさないためにはこうした計算をすることで具体的なに考えることが大切です。

まとめ役が重要

相続は、感情的な対立になると、こうした具体的な思考方法が忘れられがちです。遺産分割は相続人の間の一種の交渉ごとです。交渉を進めるためには、お互いに具体的な案を出しそれを摺り合わせていく必要があります。そのためには数字を交えたリアルな話し合いが必要です。
また、話し合いですから「まとめ役」が必要です。

一方の親が残っている「一次相続」では、残った親が紛争を起こさないように子どもをまとめる役割を担うことが多いようです。
しかし、残った親も死亡し、子どもだけの相続となる「二次相続」の遺産分割協議では、誰かがまとめ役に徹しないと紛争が起こりかねません。一般的には長男がその役割を期待されるところですが、最近は「力不足の長男」も少なくありません。一方で、相続のときだけ「長男風を吹かせる」といったようなケースも珍しくなく、それが紛争に拍車をかけることもあります。

今は戦前までのような「家督相続」の時代ではありませんから、まとめ役は長男に限定せず、柔軟で現実的な考え方ができる人に任せるほうがいいでしょう。
被相続人となる親が、生前に遺産分割案をまとめておくのも手かもしれません。特に紛争の原因となりがちな特別受益や寄与分については、当事者である親が一番わかっているはずですから、その中身を親の立場からまとめておき、それを踏まえて親が子どもの家計や家族構成などを総合的に勘案してバランスの取れた分け方を考えて子どもにも示しておけば、実際の遺産分割も円滑に進む可能性があります。

遺言は親の一方的は意思表示ですが、生前に子どもの意向も確かめた上での遺産分割案のほうがより現実的かもしれません。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。