2018年7月6日に、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「相続法」)が成立し、7月13日に公布されました。
 相続法が改正されたのは、昭和55年に配偶者の相続分を1/3から1/2に引き上げられて以来、約40年ぶりとなります。

 なぜ今、相続法が改正されたのでしょうか?
 また、改正の内容はどのようなものなのでしょうか?
 詳しくみていきましょう。

改正された相続法の内容とは?

 これまで改正がされてこなかった相続法が大きく改正されたのには、高齢化社会が進んでいることが背景にあります。今回の改正の主な内容は次のようなものです。

・配偶者居住権の新設

・婚姻20年以上の夫婦に対する優遇策(特別受益の対象外とされる)

・自筆証書遺言の遺言方式の緩和(自筆で作成しなければならなかった自筆遺言証書の内容の一部をパソコンで作成することを可能にするというもの)

・自筆遺言証書を法務局で保管してもらえるようになる

・自筆遺言証書の検認(相続人などの立会いの下、遺言書の開封と中身の確認を行うこと)が不要になる

・特別寄与者の新設(介護や看病などで被相続人に貢献した親族は相続財産の請求が可能となる)

・預貯金の仮払い制度の新設(遺産分割協議の前に預貯金を引き出すことができる)

 まず配偶者に関する改正ですが、高齢化社会が進むにつれて、相続開始時の配偶者の年齢も高齢になってきています。そのため、主には夫に先立たれてしまった妻などの“残された配偶者”を保護する必要がでてきたというわけです。
 残された配偶者の住居の保護や、財産の取り分が多くなるような仕組みが盛り込まれています。

 また、自筆証書遺言についての緩和がいくつかなされています。
 これは相続に関するもめごとを防止すること等を目的に見直されたもので、手続きが煩雑だった検認を不要にしたり、面倒だった手書き作成の一部をパソコンで作成することができるようになりました。これにより、遺言書の利用を促し、もめごとを防止しようというわけです。
 また、自筆証書遺言書を法務局に預けることができるようになりましたので、これまで発見されることなく終わってしまった遺言書などもあったかと思いますが、法務局に保管されるので発見されず終わることがなくなります。
 今後は、自筆証書遺言の利用促進が大きく期待されることになりますね。

 そして特別寄与者についてですが、これまでは例えば被相続人に対して長期間介護をしていたお嫁さんなどは、法定相続人(法律の規定によって相続人となる人の事で、被相続人の配偶者、子、親兄弟など)ではありませんので遺産をもらうことはできませんでした。これが今回の改正により、条件を満たせば遺産を請求することができるようになりました。

 さて、今回の改正について簡単にみていきましたが、この記事では主に仮払い制度について、さらに詳しくみていきたいと思います。
 仮払い制度とはいったいどのようなものなのでしょうか?

相続人単独では預金の払い戻しができなくなりました

 2016年12月に、最高裁判所にて判例が変更され、これまでは、「法定相続分(民法で決められた遺産の取り分のこと)に応じて自動的に配分する」とされていましたが、この変更により「共同相続された預貯金債権は遺産分割の対象となり、遺産分割までの間は、相続人単独での払戻しは原則としてできない」とされました。
 つまりは、相続人単独では預貯金の払い戻しができなくなったということです。
 
 そうなると、被相続人(亡くなった方)の葬儀費用や医療費など急ぎの支払いが困難になってしまう可能性がありますし、生活費をおろすこともできませんので生活にも困ってしまうかもしれません。ある調査によると、葬儀費用は約200万円近くになるそうです。高額のタンス預金でもしていない限り、この金額をポンと用意するのは簡単ではないのではないでしょうか。

新設された「仮払い制度」によって預貯金の引き出しができます!

そこで、今回の相続法の改正により、遺産分割協議が終わる前でも預貯金の引き出しができる「仮払い」の制度が儲けられました。

被相続人の預貯金は、被相続人が亡くなった時点で相続人全員の共有状態となりますので、例えば銀行口座などは口座凍結の状態にしておく必要があり、口座凍結されている間は、預金の払い戻しや名義変更をすることはできません。(とは言っても口座凍結はよほどの有名人ではない限り、銀行側が知らない限りは口座凍結にはなりません。しかし、共有財産となりますので揉め事になる前に口座を凍結しておいた方が良いでしょう。)

 仮払い制度は次の2つの手続きにより利用することができます。
●金融機関の窓口にて仮払いの請求する
共有相続人のうちの1人が、金融機関の窓口にて仮払いの請求をする場合は、
相続開始時の預貯金額×1/3×その相続人の法定相続分
この金額が、共有相続人のうちの1人が単独で仮払いを受けられる金額となります。

例えば1,200万円の預貯金があり、共有相続人が配偶者と子供3人で、長男が仮払いの請求をした場合、1,200万円×1/3×1/4=100万円が、長男が仮払いを受けられる金額です。
余談ですが、10月8日の法務省の省令案で、金融機関ごとの上限額を150万円とする案が出されているようです。そうなると、先ほど確認した葬儀費用には足りないということになります。共同相続人の協力が必要になってくる可能性もありますね。

ちなみに、受けた仮払金は、遺産分割の際に具体的な相続額から差し引かれます。

●家庭裁判所の保全処分を利用する
仮払いの必要性があると認められる場合、他の共同相続人の利益を害さない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになりました。
家庭裁判所に認めてもらえる限り、金融機関で請求する場合のような上限額は特に設けられていません。ただし、手間と時間がかかってしまいます。

仮払い制度の2つの注意点

 仮払い制度の注意点は、まず先ほど述べた限度額です。
 金融機関での仮払いは、1人当たりのもらえる金額が決まっています。また、法務省の省令案で上限を150万円とする案が出ていますが、今後どうなるかはまだわかりません。150万円より高くなるかもしれませんし、低くなるかもしれません。いずれにしても法務省令にて上限額が定められることは決まっていますので、仮払いを受ける際には上限額をきちんと把握しておく必要があります。

 また、仮払い制度の施行期日は、交付日である2018年7月13日から1年以内となっています。施行日についても別途政令が出されます。
 もし施行日よりも先に相続が開始しても、仮払いの請求はできませんのでご注意ください。

まとめ

 高齢化社会が進んでいることは日々メディアでも目にしますが、高齢化社会の影響で配偶者の保護を進めていかなければならなかったり、相続の件数の増加も避けられませんので、そのために自筆証書遺言に関する緩和をして、トラブルを減らしていかなければならなくなっている…など、法律の改正をするほどなのだと思うと、いよいよ高齢化社会の影響が強くなってきているのだと実感します。
 
 様々な改正が行われましたが、中には内容が複雑なものもあります。
 遺産分割協議を進める必要があるもの、またそれに関わるものなどもありますので、内容に不安がある場合は、弁護士さんなどの専門家に相談してみましょう。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。