1. よくある遺産相続トラブルとは?
遺産相続のトラブルは他人事ではありません。平成29年度の裁判所統計を見ると、遺産相続で揉めて家庭裁判所に持ち込まれたケースのうち、75%が遺産額5,000万円以下のいわゆる「普通の家庭」です。そして係争の内容をみると不動産が関係しているものがほとんどです。つまり遺産相続のトラブルは、ごく普通の家庭で起こっているのです。
なぜこうなるのでしょうか。最も大きな理由は、遺産の主なものが不動産だからです。不動産は売却しない限り、預貯金や株式のように1円まで分割することができません。もともと小さな土地を相続人の数で分割をすると、狭小住宅すら建てられない可能性もあります。また親の面倒を見るために相続人の一人が既に実家で一緒に暮らしていた場合は、分割はさらに困難です。売却・分割をするということは、その人の住居をとりあげることになるからです。かといってその相続人に不動産の全てを渡すと、他の相続人には不公平になります。
ここで例をあげて説明します。
亡くなった人(=被相続人)は父。
相続人は3人、長男・次男・長女。このうち長女が父親の面倒をみるために同居をしている場合です。
現金や預貯金類の場合は簡単です。単純に3分割できます。
遺産内容と額 | 長男 | 次男 | 長女 | |
現金・預貯金類 | 300万円 | 100万円 | 100万円 | 100万円 |
ところが不動産を、既に被相続人と同居していた長女がそっくり引き継ごうとすると
遺産内容と額 | 長男 | 次男 | 長女 | |
家と土地 | 1,800万円 | 0 | 0 | 1,800万円 |
合計の遺産・相続額 | 2,100万円 | 100万円 | 100万円 | 1,900万円 |
と、長女が他の2人より1,800万円も多い不公平な結果になります。
これを解消するためには長女が長男・次男に対して代償金を支払わなければなりません。
長男 | 次男 | 長女 | 合計 | |
受取額 | 100万円 | 100万円 | 1,900万円 | 2,100万円 |
長女からの代償金 | 600万円 | 600万円 | ―1,200万円 | |
最終受取額 | 700万円 | 700万円 | 700万円 | 2,100万円 |
けれども一気に1,200万円の代償金を支払うことができる人は、それほど多くないことが予想されますね。さらにこれまでの同居の功績は、などと金銭換算できない感情の問題が入ってくると、遺産相続でトラブルが起きがちなのです。
そして一旦トラブルになってしまった場合には、当事者同士の話し合いで解決をするのは難しいでしょう。感情的なもつれから話し合いは揉め、その時に抱いたマイナスの感情はずっと残る、というまさに「争続」になりかねません。
遺産相続で揉めた時に頼りになるのが「法のプロ」である弁護士です。弁護士は第三者として相続人の間に入り、争いを仲裁することができます。弁護士のアドバイスによって、相続人全員が法的根拠に基づいた相続分を要求できるので、全員が納得する相続が可能になるのです。このように弁護士によって、相続のトラブルを解決できるのです。
参考:裁判所 司法統計
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/057/010057.pdf
2. 遺産相続に関わる弁護士の料金は?
遺産相続について弁護士に相談してみようか。そう思った時に気になるのは費用ですね。遺産相続に関わる弁護士費用の内訳は、法律相談料、着手金、報酬金、日当、手数料、実費が基本です。このうち主な費用は着手金と報酬です。着手金は20万円からが相場で、報酬金は一律ではなく「得られた経済的利益の〇%」と、結果が反映される場合が多くあります。またトラブルによって弁護士費用は異なりますし、各事務所によっても設定費用が異なりますから、最初におおよその費用を聞き、実際に依頼する前には見積もりを出してもらうとよいでしょう。
弁護士費用が事務所やケースによって異なるのは理由があります。弁護士費用は、以前は弁護士会が定めた報酬規定に沿っていました。それが2004年に撤廃されて基本的に自由となりました。自由と言っても、ある程度の指針が必要ということで、今でも以前の弁護士報酬規定(以下、旧報酬規定)を使っている事務所と、自前の弁護士報酬規程を使う弁護士事務所が混在しているのです。また一つのケースでも着手金は自前の制度、報酬金は旧報酬規程、としている事務所もあります。
遺産相続に関わる旧報酬規程と新しい料金体系をご紹介します。
A.【日弁連の旧報酬規定による相続問題の弁護士費用計算表】
1. 法律相談 | 相談料 | 30分に5000円から2万5000円の範囲内の金額 |
2. 訴訟事件 | 着手金 | 事件の経済的利益の額が300万円以下の場合:(経済的利益の)8% 300万円を超え3000万円以下の場合:5%+9万円 3000万円を超え3億円以下の場合:3%+69万円 3億円を超える場合:2%+369万円 ※事件の内容により、30%の範囲内で増減額できる ※着手金の最低額は10万円 |
報酬金 | 事件の経済的利益の額が300万円以下の場合:(経済的利益の)16% 300万円を超え3000万円以下の場合:10%+18万円 3000万円を超え3億円以下の場合:6%+138万円 3億円を超える場合:4%+738万円 ※事件の内容により、30%の範囲内で増減額できる | |
3. 調停および示談交渉事件 | 着手金・報酬金 | 2. に準じる。ただし、それぞれの額を3分の2に減額できる ※示談交渉から調停、示談交渉または調停から訴訟その他の事件を受任するときの着手金は2. の2分の1 ※着手金の最低額は10万円 |
4. 日当 | 半日(往復2時間を超え4時間まで) | 3万円以上5万円以下 |
1日(往復4時間を超える場合) | 5万円以上10万円以下 |
さらに『遺産分割請求事件は、対象となる相続分の時価相当額。 ただし、分割の対象となる財産の範囲及び相続分について争いのない部分については、 その相続分の時価相当額の3分の1の額』という規定もあります。このうち「分割の対象となる財産の範囲および相続分について争いのない部分」の線引きは難しいので「話し合いでどれくらい相続分が増えそうか」「その場合の報酬金はいくらか」という2点を弁護士に確認しておきましょう。
B. 【新しいタイプの費用体形】
旧報酬規程の計算方法は、相談者にとってわかりにくいですね。そこで新タイプのわかりやすい遺産相続の弁護士費用体系を用いる法律事務所もでてきました。新タイプのポイントは以下2点です。
・着手金は10万円~30万円と固定型。
・報酬金は獲得相続額の10%が相場。
このように弁護士事務所によって料金体系が変わりますので、依頼する前に見積もりをとっておくとよいでしょう。
参考:(旧)日本弁護士連合会報酬等基準
3. 遺産相続に関わる5種類の弁護士費用とは
遺産相続に関わる弁護士費用は、以下の5種類が想定されます。
1. 法律相談料
弁護士に仕事を依頼する前に、相談した際にかかる費用です。
2. 着手金
弁護士に具体的に依頼した場合、当初に支払う費用です。手続きが協議から調停に移行した場合などには、追加で着手金が必要になることもあります。
3. 報酬金
問題が解決した場合に、解決内容に応じて払う費用です。解決したときに回収できた金額に比例して、報酬金も高くなることが普通です。
4. 手数料
手続きに必要になる単発の業務にかかる費用です。たとえば、申立の手数料や書面1通を作成したり、調査をしたりする場合です。
5. 日当
弁護士が遠方に出張したりする場合に発生する費用です。これは交通費とは別に、弁護士が時間を割いたことに対する報酬として支払う必要があります。
4. 弁護士費用の目安!分野別まとめ
ここでは遺産相続に関わる弁護士費用の目安を、分野別に紹介します。
A) 遺言書作成:手数料10~20万円
ただし、遺産の額や遺言書の複雑さによって手数料の額が上がることもあります。また、公正証書遺言を作成する場合には、公証人の手数料が遺産の額によって約5000円から10万円程度、実費として必要になります。
B) 遺言の執行:手数料30万円~
遺言の執行とは相続人への遺産分配など、遺言内容を確実に実行・実現させることです。この「遺言執行手数料」は遺産額や相続人の数によって金額が変わります。旧報酬規程では「300万円以下であれば30万円」「300万円~3000万円の部分については遺産の2%」「3000万円~3億円の部分は1%」「それ以上の部分は0.5%」と定められています。
C) 相続放棄:手数料 10万円~
借金などマイナスの財産が多い場合や、相続争いをさけたい場合には「相続放棄」が有効です。この手続きを弁護士に依頼する場合、10万円ほどの家庭裁判所への申立手数料がかかります。事前に相続財産や相続人を調べる場合、別途調査費用がかかります
D) 遺産分割協議:着手金20~30万円/報酬金 旧報酬規程
遺産分割協議には、着手金と報酬金がかかります。その金額は遺産の金額やトラブルの内容によって異なりますが、最低着手金を20~30万円としている弁護士が多く見られます。報酬金はA.日弁連の旧報酬規程が目安となります。
E) 遺留分減殺請求:着手金、報酬金 旧報酬規程/内容証明郵便手数料3~5万円
遺留分とは遺言の内容にかかわらず、相続人が最低限相続できる財産のことです。この権利が侵害された場合、その事実を知ってから1年以内に「遺留分の減殺請求」をしなければ、遺留分を得られません。弁護士に依頼する場合の費用は、A,日弁連の旧報酬規定が目安です。さらに内容証明郵便作成手数料として3~5万円が必要です。
F) 財産調査:手数料3万円~30万円
手数料に幅がある理由は、相続財産調査と一口に言っても、ケース毎に相続財産調査に要する手間暇が異なり、そのために相続財産調査に必要な実費等の額も異なるからです。財産金額によって手数料を決める事務所もあります。
G) 相続人調査<:手数料2万円~5万円、事務手数料2万円程度+実費
相続人の調査には戸籍の取り寄せなどの手数料と実費がかかります。
H) 成年後見:報酬 2万円~6万円
法定後見制度では家庭裁判所によって報酬額が決定されます。弁護士に法定後見になってもらう場合の報酬額の相場は2万円~6万円程度です。また、このほかに不動産の売却などが行われれば、その取引金額に見合った報酬が支払われます。
5. 弁護士ができること
ここで遺産相続に関して弁護士ができることを時系列に沿ってまとめてみましょう。
【遺産相続の事前対策として弁護士ができること】
1:遺言書の作成
2:成年後見の申立て手続き
3:死後事務委任契約
4:財産管理契約
5:見守り契約
【遺産相続発生後に弁護士ができること】
6:遺産分割協議の代理交渉
7:遺言書の執行
8:遺産分割協議書の作成
9:遺産分割調停および裁判
10:相続放棄、限定承認
これら以外にも、弁護士は相続人の代理人となることができるので、基本的に相続関連のすべての手続きについて、本人に代理して手続きを進めることが可能です。また相続人同士の揉め事の仲裁は弁護士にしかできません。他の士業の人がするのは法律違反です。さらに家庭裁判所など、裁判所へ代理人として出廷できるのも弁護士だけです。
6. まとめ
遺産相続で最も避けたいケースは相続人同士による争いです。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。それが相続人当事者同士の話し合いでうまく行けば、それ以上のことはありません。でももし少しでも遺産相続の内容や手続きに納得がいかない、不満だ、疑わしいという場合には、直接当事者同士で話し合うと感情的にもつれてトラブルになる可能性もあります。そんな時、最も力強い味方は「法のプロ」である弁護士です。今は無料相談に応じてくれる弁護士も増えています。まずは無料相談をしてみましょう。身近になった弁護士の力を借りて、円満な遺産相続手続きをすることも、賢い選択肢の一つと言えるでしょう。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。