※こちらの記事の内容は法改正により一部変更された内容が記載されている点があります。 修正された内容はコチラ「相続法の改正で、変更されたポイント」をご覧ください。 |
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1. 昔より書きやすくなった遺言書!?
遺言をきちんと残しておくことで、のちのちトラブルになる可能性が大幅に減少します。そのため、日本では遺言を残しておく人の数は増加するばかりです。ただし、遺言というとどことなく複雑で難しいイメージが定着していることも事実で、遺言書を残しておきたいと考えたとしてもなかなか作成に踏み切れないものです。
実際、これまでは遺言書の作成が難しいという側面が否めませんでした。たとえば、財産目録を自筆で書かなければならかったり、裁判所で検認という手続きをしてもらう必要があったりして、面倒なことが多いのです。また、作成した遺言はきちんと安全なところに保管していないと、偽造されたり見落とされたりするリスクもあります。
・財産目録
一定時点において、所有している財産を全て網羅した一覧表のこと。
しかし現在、2020年4月1日に施行されると言われている法改正により、個人でも遺言書を作りやすい環境が整いつつあります。作成手続きの煩雑さを解消するべく法改正が行われ、幾分か、遺言作成が手軽になりました。大きく変更されたところは以下の2点です。
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・自筆証書遺言
全文と日付を本人が直筆で書き、署名・捺印のある遺言書のこと。
こうした法改正によって、個人でも気軽に遺言を作ることが可能になり、争いごとに発展しそうな芽を少しでも摘み採ることができるようになったのです。
法務省が出す、新しい遺言の書き方
自筆証書遺言にはメリットとデメリットがあります。
メリット | ・本人が直筆するため偽装を防止できる。 |
デメリット | ・保有する全ての資産を一字一句間違わずに記載するのは大変。 ・もしも誤字や脱字があれば無効になることもある。 |
そこで、法務省が提案する新しい遺言は、要の部分は署名などを直筆で行い、細かい資産の情報など間違いやすい部分は必ずしも本人の直筆でなくても良いとしています。直筆でなくても良いのは以下のような箇所です。具体的には、不動産の所在や地番などを記載した物件等目録はパソコンなどで作成し、プリントアウトして署名と捺印すれば有効となります。ただし、遺言書本文は、自書することが必要です。
このように、改正後はパソコンなどで作成する部分と自書する部分の両方を、使い分ける方法がとられることになります。
遺言以外にも、相続法改正で変わった3つのこと
今回の相続法改正では遺言に関する事柄以外にも、変更が加えられた部分があります。念のため、おさえておくとよいでしょう。
1.配偶者の居住権の保護
◇配偶者短期居住権
被相続人(相続される人)の配偶者が、相続が開始された時点で住んでいた建物については、無償で居住できる権利を有することになります。ただし、期間は決められていて、下記のうち、遅い方の日までです。
- 建物に関して遺産分割が確定した日
- 相続開始日から起算して6ヶ月を経過する日
◇長期居住権
配偶者が相続開始した時点で居住していた建物について、以下の場合は建物を無償で使えるという権利です。
- 遺産分割で配偶者居住権を取得するものと思われる場合
- 配偶者居住権が遺贈目的の場合
- 被相続人と配偶者のあいだで、配偶者居住権を取得させるという死因贈与契約がある場合
2.遺産分割に関する改正
◇配偶者保護
婚姻期間が20年以上の夫婦の場合、居住目的の不動産は遺産分割の対象としません。
◇仮払い制度
遺産としての預貯金のうち、3分の1は他の相続人の合意なしに、配偶者が権利を行使できるようになります。
3.遺留分制度について
これまでは、20年前の贈与も遺留分の対象とされていましたが、改正後は10年前まで期限が短縮されます。
・遺留分
相続人に法律によって確保された最低限度の財産のこと。
離婚後に遺言書が出てきた!? 相続権ってどうなるの?
離婚後に遺言書が出てきた場合、遺言書の効力が及ぶ範囲は限定的です。注意点は三つあります。
一つめは、離婚すると、元配偶者の相続権は消滅してしまうことです。離婚後は夫婦関係が解消され、他人となるため、一切の権利が消滅し、被相続人の財産を相続することはできません。
二つめの注意点は、離婚しても子供の相続権がなくなることはないということ。たとえ、元配偶者が再婚していても条件は同じで、子供は実の両親の財産を相続することができます。もし、被相続人が遺言を残していたとしても、子供には遺留分があるため、その範囲内で相続分を請求することが法律で認められているのです。
最後の留意したいケースとしては、被相続人の再婚相手に連れ子がいた場合が挙げられます。連れ子をきちんと養子縁組していなかった場合は、相続人として認められません。再婚相手自身は入籍によって相続人となりますが、血の繋がりのない子供は養子縁組の手続きを踏んでおく必要があります。
遺言書の効力
前述したとおり、遺留分があるなど遺言書は万能ではありません。好き勝手なことを書いても被相続人の意図したとおりに遺産分割が行われるわけではなく、制限が設けられています。
遺言事項(遺言に書くと効果が発生すること)は、民法をはじめとする法律に定められています。遺言事項は主に以下のようなものが挙げられます。
- 財産処分に関する事項
- 身分に関する事項
- 遺言執行者に関する事項
また、遺言書の効力は、遺言能力のある人によって本人の意思で書かれたものでなくてはならないと定められています。遺言能力のある人の条件は主に下記の通りです。
・年齢が15歳以上の者
・正常な判断能力がある者
さらに、無理矢理に書かせた遺言書も当然ながら無効です。病気で判断能力が低下している人に無理に書かせたという事実があった場合はこれにあたります。詐欺や強迫行為によって書かせたものも、もちろん効力がありません。
遺言書で起きるトラブル
せっかく作成した遺言書がうっかりミスで無効になるというトラブルも考えられます。よくある事例を15件ご紹介しますので、おさえておきましょう。
- 自筆でなくパソコンなどで書いた自筆証書遺言書
- 録音した遺言書
- 遺言者本人が書いていない遺言書
- 日付のない遺言書
- 日時が不明な遺言書
- 押印のないもの
- 本人の署名がない遺言書
- 相続財産の詳細が明確でない遺言書
- 共同で書かれた遺言書
- 遺言作成日以外の日付が記載されているもの
- 公証人不在で作成された公正証書遺言書
- 証人として不適格な者を立会人とした公正証書遺言書
- 口述以外で伝えられた公正証書遺言書
- 証人が一時離席中に作成されたもの
- 証人の数が不足していた場合
遺言書は弁護士に依頼するとスムーズ
法改正されるとしても、難解な部分や面倒な手続きもある遺言書作成。失敗しないためにも専門家に依頼するのが一番です。しかし、専門家といっても誰に依頼すればよいのでしょうか。遺言書の作成について相談に乗ってくれる銀行もありますが、弁護士、司法書士、行政書士に依頼するのがより一般的です。
上述したどの専門家に依頼しても遺言書を作成することはできますが、もし遺産分割でもめてしまった場合、これを解決できるのは弁護士しかあり得ません。紛争に発展した段階で、改めて弁護士に依頼相談を行うことは非効率ですので、遺言書の作成時点で弁護士を選択しておく方がなにかとメリットが大きいです。
まとめ
遺言書の作成は、法改正によっていくらか簡単に行えるようになりました。それでも、やはり手間のかかることではありますし、法律の細かい部分を遵守できていないと無効になってしまうリスクもあります。自信がない場合は専門家の力を借りつつ、有効な遺言書を残すことで、あとでトラブルになるような事態を回避できるようにしたいものです。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続には様々な形があり、手続きや申請方法もケースによって異なります。専門知識が無い方は申請書の不備等で無駄な費用が掛かってしまう可能性もありますのでしっかりと相談することをおすすめします。