Q: 相続税は今後も強化されるのでしょうか?
A: 可能性は高いでしょう。税務調査も名義預金の調査を中心に強化されると見られるので、しっかりとした財産管理が必要です。

基礎控除の再引下げ、生命保険の非課税枠縮小も

相続税は明治38年(1905年)に創設された古い歴史を持つ税金です。戦後の税制の骨格を決めたとされる「シャウプ勧告」による見直しがありましたが、基本的には富裕層が負担する税金でした。
ところが、2015年からの改正で様相は一変しました。基礎控除が戦後初めて引き下げられ、中流層まで課税対象が拡大したからです。

基礎控除はそれまでの「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」となりました。
基礎控除が戦後初めて引き下げられたのは、現在の地価水準が約30年前と同じくらいなのに、基礎控除が引き上げられたままで、課税対象者が減少しているのが理由でした。

消費増税で低所得者の税負担が増える中、バランスをとるため中流層や裕福層の負担を増やしたという事情もあります。
政府は高齢化で増える一方の社会保障財源を確保するため、消費増税を中長期的に進める方針です。
こうした中では、今後も中流層、富裕層への増税は続くでしょう。相続増税はそのための有力な選択肢です。
2015年から相続増税に踏み切ったばかりですから、すぐに増税に踏み切る可能性は低そうですが、基礎控除の再引き下げなどは有力な選択肢です。

また、以前検討されたことがありますが、生命保険の非課税枠の縮小、または対象者の絞り込みも考えられます。非課税枠は「500万円×法定相続人の数」ですが、これの対象者を配偶者や同居の子供らに限定するという案が一度検討の俎上に上ったことがあります。生命保険業界の強硬な反対で陽の目は見えませんでしたが、財政当局の頭の中には常にあるはずです。
富裕層の課税強化という意味では、「被相続人と相続人がともに5年を超えて国内にいなければ国外保有財産には相続税がかからない」という仕組みもいずれ見直されるでしょう。

預貯金に対する調査が厳しくなる

制度的に増税になるだけでなく、制度の運用においても課税強化は進みそうです。現在、相続税の約30%が税務調査され、そのうち約80%が申告漏れを指摘されています。
相続税の調査は厳しい部類に入りますが、中でも税務当局がよくチェックするのが預貯金の申告漏れです。土地は登記簿などを調べれば把握できます。株式も取引記録が税務署に把握されています。

ところが、現在のところ被相続人の預貯金を全体として把握することはできません。利子所得は源泉分離課税で支払調書が税務署に提出されないので、税務署も被相続人の預貯金の全体像を把握するのに苦労しています。
取引があると見られる金融機関に調査することで大半をつかんでいますが、国外の者は把握しにくく、国内でも漏れがあることは否定できません。

一方で「名義預金」もあります。これは、実質的には被相続人のものなのに、名前だけ相続人のものになっているもので、税務調査ではこうした名義預金を割り出して、相続財産に加算することが頻繁に行われています。

今後の税務調査はこうした申告漏れとなっている預貯金の割り出しに全力が注がれるでしょう。
そのための手段として有力なのがマイナンバーと言われています、2018年から預貯金との紐付けが任意で始まり、その数年後には預貯金の取引に強制的に使われそうです。

そうすると、被相続人の預貯金の全体像は税務所に把握されることになり、番号使用に伴う本人確認の強化で名義預金も減ってくると見られます。
そうなれば、利子所得も総合課税の対象になる可能性があり、相続税の基礎控除も引き下げられるかもしれません。相続税はさらに大衆課税の様相を強める可能性があります。

一方で、遺言を書けば基礎控除の枠を増やそうという構想もあるようです。
こうした減税の可能性も考えられなくはありませんが、全体としては限定的な措置となるでしょう。
相続税は増税、課税強化の方向で間違いなく、その前提で生前贈与などの相続対策を練る必要があるかもしれません。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

-コメント-
相続問題は相続人によって異なります。相続人は親族であり、その後も長い時間をかけて付き合う可能性が高い相手。だからこそ、円滑に、そしてお互いが納得した遺産相続手続きを進めたいですよね。