相続放棄後の負債について
先日夫が亡くなりました。目立った財産は殆ど無く、負債が約350万円にも及んだため、わたしは相続放棄の手続きをしました。
私たち夫婦には子供がなく、夫は数年間寝たきりの状態であったため、私は仕事にも就けず、生活は逼迫していました。
そのため、私は夫のカードを使い借り入れをしながら夫の看病をしていました。
その後、夫が亡くなり、葬儀代などが必要となったため、私は夫名義のカードで2社から80万円のキャッシングをしてそれらに充てました。
しかし、先日そのカード会社から請求がきたため、私は相続放棄をしたことを伝えると、死亡日以降の借り入れが不正利用であることを問いつめられ、結果的に支払うことになってしまいました。
また、夫が入院していた病院から治療費の請求が届いたため、私は相続放棄をした事を病院に伝えましたが、病院から「医療費を支払う」という契約を取り交わしている以上、支払をして下さいと強く請求されました。
思い出せば、夫の入院費もままならなかった中、私は病院側から求められるまま確認も疎かに保証人として署名をしていたのです。夫が加入していた生命保険の死亡保険の給付金が100万円ほど支給される見込みですが、それは兄弟への返済に充てる約束になっています。
また、医療保険の入院給付金が30万円ほどあるのですが、それは受取人に夫が指定されており、相続財産となるため、相続放棄をした私に支給することは出来ないと保険会社から言われました。病院からの請求は78万円もあります。
今日もカード会社から督促の連絡が入っています。仕事もなく、家賃を支払うので精一杯です。私はどうしたらよいのか途方に暮れています。良い方法はありませんか。
■保証人の責任
連帯保証人(保証人含む)としての責任は、相続放棄の手続きを行っても放棄できるものではありあせん。本来、入院及び治療を受けた故人に対して発生した負債は、相続放棄の手続きをすることで相続人でなくなることからその支払責任は及びませんが、その保証を行っていた場合は保証人にはその支払をする責務があるのです。
貴殿は内容をよく確認しないまま、署名をしたとのことですが、法律は「詐欺又は脅迫による意思表示は、取り消すことができる。(民法第96条)」と定めています。貴殿が心労などから内容を熟知出来なかったと推察できるものの、やはりこの保証人としての契約を取り消すに至る十分な理由とはならないと考えられます。
■クレジットカードについて
クレジットカードの所有者が死亡した場合には、家族などがカード会社に連絡して解約し、カードそのものは廃棄することになります。また、未使用のカードについては請求が来ないことから、次のカード更新まで気付かなかったということもあるでしょう。そして、中にはそのまま使用を続けてしまうケースもありますが、カード会社も返済さえ履行されていれば、気が付かないまま何年も経過してしまうといったこともあるのです。
しかし、明らかに死亡後の利用となれば「錯誤」(うっかり)とは言い切れず、葬儀費用などで費消した場合でも、カード会社の理解を得ることは難しく、請求は免れないと思料します。
■相続放棄の撤回
家庭裁判所への相続放棄の申立が受理され、その効力が生じた後の取消し(撤回)は原則として認められていません。簡単に撤回が許されてしまえば、他の相続人や利害関係のある第三者の地位が不安定なものとなるからです。しかし、次のような事情がある場合には、相続放棄の取消を家庭裁判所に申述することが認められています。
1 詐欺または脅迫による場合
2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄申述をした場合
3 後見監督人がある場合、被後見人もしくは後見人がその同意を得ないで相続放棄申述をした場合
4 成年被後見人本人が相続放棄申述をした場合
5 被補佐人が補佐人の同意を得ないで相続放棄申述した場合
また、取消ができる期間についても限りがあり、相続放棄をした当事者もしくはその法定代理人が、追認できる時から6ヶ月以内に相続放棄取消申述書を家庭裁判所に提出しないと、取消権が時効により消滅します。また、相続放棄申述の時から10年が経過したときも同様です。
なお、追認できる時とは、脅迫により相続放棄申述した場合は脅迫状態が終了したとき、詐欺による場合は本人が詐欺によることを知ったとき、成年被後見人については本人が能力を回復して相続放棄を知ったときです。
■生命保険金と入院給付金
生命保険の死亡給付金については、保険会社と保険契約者との間で締結された保険契約に基づいて支払われるため、仮に相続人が受け取っていたとしても、それは相続財産とはみなされず、指定された保険金受取人の固有の財産と認められています。
つまり、相続財産とみなされないことから、相続放棄によってもその受取人としての権利が侵害されることはないのです。
しかし、入院給付金については、受取人が被相続人となっている場合が多いため、相続財産とみなされることも多く、その場合は相続放棄によって受領する権利を失ってしまいます。しかし、これはあくまで一般論であり、まずは保険会社の規約を確認することが賢明です。
■負債の整理
相談者の場合、長い看病の結果やむを得ず負債がかさみこのような状況に陥ってしまったと思料します。しかし、返済の義務を免れることは出来ませんので、可能であれば各債権者と話し合い、できる範囲内での分割の支払を検討してみてください。
中には、事情を理解し、よりよい方法での解決が見込まれる可能性があるかもしれません。
しかし、現在定職に就いてなく、返済していくだけの資力がない場合には、自己破産の申立を検討してみてください。
相談者が故人のカードを利用するに至った経緯を真摯に申告し、裁判所の判断を仰ぐのです。そして、保証人としての責任についても、それを免除してもらうよう、同じくその経緯も申告します。
ただし、自己破産は、自身の資産を処分してもなお上回る負債を免除してもらうわけですから、当然100万円の保険金についても、相談者が自由にできるものではありません。そして、親族への返済もまた、カード会社と同じ扱いになることから、親族への返済を優先することは禁じられています。
破産手続きは個人で行うことも一部の裁判所では認められていますが、やはり専門家に相談することが大切です。悩まず、解決に向けて前向きに取り組んでください。
監修者
氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)
-コメント-
相続問題は、家族や親族がお亡くなりの際、必ず発生します。誰にとっても、将来必ず訪れる問題だと言えます。わからないことや不明点は積極的に専門家へお尋ねすることをおすすめします。