1. 自分の家を持っている人が考える相続とは?

平成25年実施の総務省「住宅・土地統計調査」によると、全国平均の持ち家率は67.2%、東京は45.8%と全国最低です。しかし全国を平均すれば約6-7割の人が自分の家、すなわち持ち家があるという結果です。これは5年に1回しか行われない調査なのですが、東京オリンピック関連、または京都など外国人に人気の観光地でのホテル建設ラッシュなどによる局地的な土地価格高騰はあっても、全体的に日本の土地価格は安定しているので、持ち家率の割合は現在も同程度と考えて差支えないでしょう。
自分の家を持っている人が考える相続には2種類あります。1つ目は自分が家を残す側になる場合。2つ目は持ち家があり、さらに親族から土地家屋を相続する場合です。いずれも税金がかかわってくることなので、事前に知識があれば税負担を軽減させることも可能です。まずは知識を得て、賢く節税の方法を考えましょう。
参考:総務省 平成25年住宅・土地統計調査
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200522&tstat=000001063455&cycle=0&tclass1=000001080435&second2=1

2. 持ち家を生前贈与した場合

2.-1 相続税の基礎控除額変更
不幸にもご自分が先だち、持ち家や預貯金などを家族に残す場合に、夫婦間といえども相続税が発生する可能性がある、という話を耳にしたことはありませんか?
その根拠は、平成27年度に改正された相続税の基礎控除額の変更です。改正前と比較すると基礎控除額が小さくなりました。下の表で改正前後を比較しましょう。

改正前改正後
基礎控除の定額5,000万円3,000万円
基礎控除の相続人数で変わる額1,000万円×法定相続人数600万円×法定相続人数
例:妻と2人の子が遺産を相続する場合の基礎控除額8,000万円4,800万円
例:遺産総額 6000万円の場合の相続税課税対象額6,000万円―8,000万円
=マイナス2000万円=0円
6,000万円―4,800万円
=1,200万円

このように、遺産額から基礎控除される額が減ったために、夫婦間の相続といえども相続税の課税対象となるケースが増えてきているのです。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/aramashi/pdf/02.pdf

2.-2 居住用不動産を夫婦間で生前贈与した場合の配偶者控除とは?
ほとんどのケースで遺産の中で最も大きな金額を占めるのは、不動産、しかも持ち家です。持ち家への相続税を回避するために、配偶者に生前贈与をした方が良い、という説もあります。その根拠は、夫婦間で持ち家を贈与する際に利用できる特例です。一般的には贈与税は相続税よりも高いのですが、夫婦が結婚して20年経っていれば、居住用不動産の贈与に対しては、基礎控除110万円+2,000万円まで税金がかからないという特例があります。ただし贈与後3年以内に夫が亡くなり、相続が発生した場合にはこの贈与はなかったことになります。その時にはいったん贈与された持ち家も、また相続財産に含まなくてはいけないことを覚えておきましょう。なお、自宅の評価は相続税の計算の時と同様に、土地は路線価で評価し、建物は固定資産税評価額で評価します。

2.-3 夫婦間で持ち家の生前贈与は不可欠か
特例もあるので、持ち家は生前贈与しておいた方が良いのでは?と思われるかもしれませんね。しかし夫婦間の相続には、配偶者の税額軽減という特例が適用されます。具体的には、最低1億6千万円までなら相続税はかかりません。配偶者が相続で取得した財産については、1億6千万円、または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、相続税の対象とならないのです。ただしこの配偶者の税額軽減については、基礎控除とは異なり、相続税の申告手続きをとって、相続税が非課税であることを申告する必要があります。これを忘れないようにしましょう。
また見落としがちな点としては不動産取得税です。贈与により不動産を取得した場合、土地は1.5%、建物は3%の税率で計算されます。また、登録免許税が税率2%分かかってしまいます。これが相続での取得の場合、不動産取得税は非課税、登録免許税の税率は0.4%です。
このように夫婦間の持ち家相続については、様々な要素が含まれるため、生前贈与するよりも相続で譲ったほうが良いケースもあります。非課税部分だけに注目せずに、どちらが良いかを一度シュミレーションしてみることをお勧めします。自分達だけでは判断がつかない場合には、弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。
参考:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm

3. 両親の持ち家を相続する場合

ここでは遺産として両親の持ち家を相続する場合に必要な手続きと注意点を見ます。
まず手続きとしては、不動産を相続した場合には、登記の名義を被相続人から相続人に変更する必要があります。相続によって登記の名義を変更することを「相続登記」と呼びます。この手続きなしには不動産は法的に相続人のものになりません。両親の持ち家を相続したら、相続登記を済ませましょう。
ところで実家の相続は揉めるケースが多いのをご存知でしょうか?法務省裁判所の統計によると、遺産相続が揉めて家庭裁判所に持ち込まれるケースの75%は遺産総額5,000万円以下の普通の家庭です。そしてそのほとんどが不動産、すなわち親の持ち家が関連しています。なぜ揉めるのかというと、不動産は預貯金類と違って1円に至るまで分割して相続することが難しいからです。もし分割したら、新しい家を建てることが難しいような小さな土地になってしまうこともあり得ます。
さらに厄介なのは、相続財産の内訳がほとんど親の持ち家だけで、他に財産が少ない時に、親の持ち家に既に相続人の一人、例えば長男夫妻が同居していた場合です。両親の持ち家は、両親の住居であり、長男夫婦にとっても住居です。両親が亡くなった時点で、親の持ち家は相続の対象となります。他の相続人は親の持ち家を分割して欲しいところでしょう。しかし両親と同居をしていた長男にとっては、そこは自分の住居です。分割されたら住居を失うことになりかねません。長男が住み続けるためには、他の相続人と相続額が同額となるように、代償金を支払う必要がありますが、即金でまとまった額を支払うことはなかなか難しいのが現実ですね。かといって、相続財産のほとんどを占める親の持ち家を長男が全部相続して、他の相続人には預貯金類を分配した分だけ、というのは他の相続人の納得を得にくい。このような理由で両親の家をめぐる相続トラブルは、ごく普通の家庭でも起こるのです。
トラブルを避けるために「とりあえず兄弟姉妹の共有名義にしよう」という考えもあるでしょう。これは一見皆が納得する解決策ですが、やめましょう。問題を先送りし、さらに複雑にするだけだからです。今、親から直接相続する自分達でも分割が難しいのに、その子どもや子孫の代になって、相続分を売却したい場合はどうなるでしょうか?他の相続人から売却の了承を得たくても、会ったこともない親族が相続している上に、相続した人数も増えているので、所在を確認するだけでも大変です。子孫に迷惑をかけないためにも共有名義はやめましょう。
親の持ち家を相続する場合、相続人の誰かがそのまま住み続けるケースでなければ、早めに売却を考えたほうがよいでしょう。特に相続財産の内訳が親の持ち家がほとんどの場合には、遺産分割で不公平を生じさせないために、相続が発生する前に売却をすることも一つの選択肢として考えましょう。
参考:裁判所 司法統計
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/057/010057.pdf

4. 持ち家の相続には小規模宅地特例がりますが、あなたは該当しますか?

遺産相続の場合に発生する相続税。払わなければならないとわかっていても、少しでも節税をしたいのが本音ですね。親の持ち家を相続した場合には特例があり、要件を満たせば相続税の産出根拠となる評価額が80%減額できるのです。これを「小規模宅地特例」と言います。
特例の対象と適用要件をまとめました。

区分特例の適用要件記号
取得者取得者ごとの要件
被相続人の居住の用に供されていた宅地等被相続人の配偶者「取得者ごとの要件」なしA
被相続人と同居していた親族相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地な祖を相続税の申告期限まで有している人B
被相続人と同居していない親族次の1~5の全てを満たす人

1.相続開始の時点で日本の住所又は国籍を有していること

2.被相続人に配偶者がいないこと

3.被相続人の居住の用に供されて家屋に居住していた親族のうちに、相続人がいないこと

4.取得者が、相続開始前3年以内に自己又は配偶者が国内に所有する家屋に居住したことがないこと

5.その宅地等を申告期限まで所有していること

C
被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等被相続人の配偶者「取得者ごとの要件」なしD
被相続人と生計を一にしていた親族相続開始の直前から、相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し続け、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人E

ここで注意が必要なのは2点です。
 1つ目は区分Cの4。取得者、この場合はあなたが、相続開始前3年以内に「自己又は配偶者が国内に所有する家屋に居住したことがない」、すなわち自分または配偶者の持ち家に住んでいない場合にのみ、この特例は適用されるのです。言い換えれば、ずっと賃貸生活をしていれば適用されますが、持ち家を持っている場合には特例は適用されません。相続人が持ち家を持っているか否かで、特例の評価額80%削減が受けられるかどうかが決まるので「家なき子」特例ともいわれています。
 2つ目は区分のEです。こちらには「持ち家があるかどうか」は判断基準に入っていません。理論的にはあなたが自分または配偶者名義の持ち家がありながら、被相続人と一緒に生活をしていた場合には特例が適用されます。ただし「被相続人と生計を一にしていた」「相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し続けた」をそれぞれ証明しなければなりません。それにはあなたが、被相続人が存命中から死亡後の相続税申告期限まで、自分の持ち家と親の家のどちらに生活の本拠を置いたかが問われます。その証明には電気・水道・ガスなどライフラインの使用実態などを使います。
 相続税の申告にあたっては、税額に大きなインパクトを与える小規模宅地等の特例ですので、生活の本拠がどこにあったかの判断も細心の注意を払う必要があります。自分の判断では不安な時には、弁護士または税理士などからアドバイスをもらって確実な申告をするようにしましょう。
国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm

5. まとめ

 家を持つのは簡単なことではありません。特に東京では持ち家がある人が半分以下です。その貴重な持ち家を誰かに残す時、そして残された時に、どのようにして相続してもらい、また相続するか。相続税の特例を知っているかいないかで、納める税金が大きく変わることがわかりましたね。
 「持ち家の相続なんて他人事」と考えずに、もしあなたが持ち家を持っているなら、一度は自分が残す場合と、残された場合を、それぞれ考えてみるのも大切なことではないでしょうか。正しく節税をする道があるならば、それを使うのが賢明です。少しでも疑問やアドバイスが欲しい場合には、法や税の専門家である弁護士または税理士に相談してみましょう。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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