とかく感情に流されがちな遺産分割協議ですが、中でも相続人の間で感情的な対立に発展しがちなのが「亡くなった親の介護について遺産分割にどのように反映させるか」という問題です。介護だけではありません。死亡した親が病院に入院していた場合の療養看護についても同じ問題が発生する傾向があります。

公的医療保険、介護保険やさまざまな介護サービスがあるといっても、医療看護や介護での家族の負担は減らないどころか増えている印象さえあります。また、今に始まったことではありませんが、親の療養看護や介護は特定の子どもあるいはその配偶者が担うことが多いようです。それにもかかわらず、相続となると、療養看護や介護をあまりしてこなかった子どもが、介護に全力を尽くし疲れ果てた子どもと相続分を同じにするように求めたりして、紛争に拍車をかけるケースが後を絶ちません。

親の療養看護や介護に限りません。子どもが親に貢献した分を遺産分割協議に反映しないと、遺産分割協議が行き詰まる可能性が大きいのですが、どうすればいいでしょうか。

 

■何が寄与分と認められるか

解決に導くためには、遺産分割協議を始めるにあたって「寄与分」について話し合っておく必要があります。
寄与分とは子どもの親に対する貢献分のことです。

➀子どもが親の仕事などを手伝ったり、資金を提供したりした場合②親の療養看護をした場合
➁その他の方法で寄与した場合などで、親の財産の維持・増加に特別に貢献した場合に認められます。

寄与分を遺産分割に反映させるには、それらを金額に換算して、いったん遺産分割協議の対象財産から外して計算します。その上で、貢献をした子どもの相続分に寄与分を改めて加えます。こうすれば全体として公平な遺産分割の結果になります。

例えば、母親が死亡して、相続人が姉と妹の2人だけで被相続人の死亡時点での財産は1000万円だとします、ここで、妹は母親の介護を長年献身的にやってきており、姉は介護どころか顔もほとんど見せなかったとします。こうした姉と妹が母親の遺産を均等に分けた場合、妹は納得するでしょうか?妹は、「母親の介護の分を認めてほしい」と言うでしょう。それでも姉が均分相続を主張すれば深刻な紛争になるでしょう。

 

■貢献した分を金額換算する

これを防ぐには、妹の母親への献身的な介護寄与分を金額に換算し、この分は遺産分割の対象とせず、あらかじめ資産から分離して相続分を計算し、その上で妹の分に介護寄与分を加えます。

介護寄与分を200万円とすると、これを差し引いた800万円が当面の分割対象となります。均等に分ければ400万円ずつ。妹はこれに介護寄与分の200万円を加えて、最終的な相続分は600万円となります。姉の400万円を上回り、遺産分割に介護の分を反映させ、より公平になったと言えるのではないでしょうか。

寄与分としては、他に子供が親の事業を手伝った場合などがあります。

もっとも寄与分が認められるに為には、親族間において通常期待される程度を超えた貢献が必要です。単に他の相続人と比較して貢献の度合いが大きいというだけでは、寄与分にはならない可能性が大きいのです。

具体的に

➀特別の寄与でること②財産の維持または増加と因果関係があること
➁寄与行為に対し対価を受けていないこと、といった要件を満たす必要があります。

特に介護寄与分については以上の要件を満たしたり、証明したりすることが難しいとされ、なかなか認められない傾向にあるといいます。また、寄与分について金額換算するのが難しい側面もあります。

以下は、裁判の中で紛争を解決するために編み出された療養看護や介護について金額に換算する方法の例です。これらも参考にしながら紛争を少しでも減らしたいものです。

[寄与分とは]

・特定の相続人が、被相続人の財産の維持又は形成に「特別の寄与」をした場合に、寄与者に対して寄与額を加えた財産の取得を認める制度
・家業従事が特別の寄与とされるには、無償性、継続性、専従性などが必要
・療養看護が特別の寄与とされるには、被相続人との身分関係上一般的に期待される以上の寄与行為であるほか、持続性、専従性が必要

[寄与分の具体的計算方法]

・家業従事の場合の寄与分額の計算式

寄与分額=寄与した相続人の受けるべき年間給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数

・療養看護の場合の寄与分額の計算式

a.実際の療養看護 寄与分額=付添人の日当額×療養看護日数×裁量的割合
b.費用を負担した場合 寄与分額=負担費用額

いずれにせよ、一つの目安であり、絶対的基準ではありません。

監修者

氏名(資格)
古閑 孝(弁護士)

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